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愚者の舞い 3−5

「却下。」

返答は即座で、そっけなかった。

シノンとポルンは、完全に予想外だったのかキョトンとし、酒場は一瞬沈黙した後に爆笑の坩堝るつぼと化した。

それもその筈、モリオンと言えば強力な、それこそ地竜は元より、ヒドラでさえ一人で倒す冒険者であり、一匹狼でも有名だ。

そして、どんなに大金を積もうが泣いて頼もうが、弟子を取らない事でも有名だ。

誰も知らないが、特にルーケと言う弟子を取って以降、なおかたくなであった。

そんな状態なのに無遠慮な言い方だったから、聞いている方は笑うしかなかったのだ。


 玉座の前に進み、ポルコは深々と頭を垂れた。

「ポルコよ、お前の進言、特と吟味した。 支援は惜しまない。 存分にやるがよい。」

「はは、仰せのままに。」

ポルコは大げさなほど大きく平伏すると、静かに退室した。

「国王陛下。 あの者、そんなに信じてよろしいのですか?」

大臣の一人が聞くと、トラーポ国王はニヤリと笑った。

「あの銀竜を始末できるのなら、何を迷う必要がある。 万が一でも可能性があるなら、やらせてみるしかあるまい? それが怪しげな商人なら、失っても痛くも痒くもない。」


 ルーケは誰よりも先に食堂で、酒を飲んで仲間を待っていた。

特にする事が他に無かったからだが、最近の日課になってきてもいた。

細かい魔物退治はそれなりに引き受けているのだが、これと言った、名のあるような魔物の退治依頼がないのだ。

もっとも、名のある魔物と言えば当然手強いし、そんなに数がいるわけでもない。

それを分かってはいるのだが、早く有名になって大陸を統一し、平和に導きたい思いが焦らせる。

次第に集まって来る仲間達も金儲けの話ばかりが主体となり、そんな話も出て来ない。

もっとも、ラテルもフーニスもいかに楽に金を儲けるか、と言う事が主体であり、ロスカに至っては冒険自体を楽しんでいるため、強い魔物を求めていないのもある。

ラテルの主張するように、確かに金持ちになるだけでそれなりに安穏と暮らせるのだから、ルーケが異常なのは確かなのだ。

そして冒険者のほとんどは、ラテル達と同じ考えだ。

ボーっとしつつ、いつもの日課と化しているラテルとフーニスの口喧嘩を何気に聞いている時、慌てた様子の村人っぽいよれよれの服を着た中年の男が、酒場に飛び込んで来た。

「頼む! 助けてくれ!!」

酒場は一瞬で静まり返り、次に続く言葉を待つ。

「お願いだ! 村を、村を!!」

「まあまあ、落ち着きなさい。 何があったんだね?」

酒場のマスターがそう声をかけながらカウンターへ導こうとしたが、中年の男はその手を振り払い、

「そんな悠長な暇は無いんだ! 村にワームが出て、一刻を争うんだ! 頼む!! 誰か助けてくれ!!!」

だが、中年の男の言葉に、半分以上の冒険者がそっぽを向いた。

ワームとは、竜の一族に属する魔物で、色々な種類がいる。

共通点は知能が低く、獰猛で、蛇の鱗を固くしてでかくしたと言う事だけだ。

なんだ、ただのでかい蛇じゃん、などと言ったら赤っ恥をかく事間違いはない。

地竜アースドラゴン翼竜ワイバーン程ではないが、竜の一族だけあってかなり強い。

また、中にはヒドラに匹敵する再生能力を持つ者もいるため、ベテランでも手こずる魔物であり、大半の冒険者が敵う相手ではないのだ。

「ワームとは穏やかではありませんな。 ですが、失礼ながらそれに見合った報酬は用意出来ますかな?」

マスターがそう言うと、中年男は言葉に詰まる。

「金はかき集めましたが、これで精一杯です。 しかし、報酬の足しとして、精一杯のおもてなしをご用意致します・・・。」

トーンダウンしつつ、そう言いながらおずおずと出した金額は・・・。

「・・・申し訳ありませんが、その金額ではゴブリン退治も請け負う者はいますまい。」

当然ながら、強い魔物退治となれば、当然死ぬ確率も跳ね上がる。

魔物の強さに見合った報酬がなければ、冒険者は動かない。

ワームは正直言って手強い部類に入る魔物であるため、服装の事もあり、マスターは先に報酬金額を聞いたのだ。

中年男は、やはりと言わんばかりにガックリと項垂れると、酒場を出て行こうとした。

「ちょっと待った。」

ルーケが声をかけると、フーニスとラテルが顔を引きつらせ、ロスカは苦笑いを浮かべる。

「この国の侍は、積極的に魔物退治をしている筈。 何故国に頼まない?」

「残念ながら、私の村はこのリセ王国の領内ではないのです。 トラーポ国王は、今は無駄な兵を割く余裕はないとしか言いません。 小さな村一つ無くなったところで、大した被害ではないと思っているのでしょう。」

「ならなぜ、見限らないんだ? そんなに町々を巡って、冒険者を探す必要もないだろう。」

マスターは、ルーケの言葉で気が付いた。

よれよれの服は、貧乏と勝手に解釈していたが、いくつもの町を巡ったためだった事に。

「私の村は、最前線ではありません。 リセに庇護を頼んだが最後、滅びるしかないのですよ・・・。」

トラーポ王国と言えば、侵略戦争で有名な国だ。

そんな国だからこそ、徴収される税金も高く、若者は兵に徴収され、貧しい生活しか出来まい。

そして、庇護を抜ければ、見せしめのために・・・。

ルーケが改めて仲間を見ると、ラテルとフーニスは諦めた顔でため息をつき、ロスカはすぐに立ち上がった。

「なにをグズグズしているのです。 一刻を争うのですよ。」

そう言われると、ルーケは苦笑いを浮かべるしかない。

「おいおい、ルーケ。 正気か?」

マスターは驚き、中年男も呆気にとられて呆然と突っ立っていた。

「生憎正気さ。 行くぞ、ラテル! フーニス!」

「はいはい。 マスター、装備出してー。」

「俺のもー。」

やる気の無い2人の声が、静まっている酒場に響く。

基本的に冒険者の宿に集合、依頼の請負、出発、となっているので、毎日家から装備して来るのも馬鹿らしいと、全員装備一式を預けているのだ。

「あ、あの、本当によろしいのですか?」

中年男が逆に聞くほど、自分の提示した金額は低い自覚がある。

「金は確かに大事ですが、人の命は金では買えません。」

「復活の魔法はあるけどね。」

「茶化すなよフーニス。 それに一応、ドラゴンスレイヤーの称号も手に入るしな。」

「生きて帰れればな。」

「生きて帰るさ。 それだけの力はあるだろ? ラテル。」

乗り気にはならないが、そう言われると否定も出来ない。

「冒険者の基本は、困っている人を助ける事だ。 違うか?」

ルーケの言葉は、沈黙している冒険者達の良心に突き刺さる。

「違うね。」

だが、フーニスは即答で否定する。

「あたし達は慈善事業じゃないんだ。 金が貰えなきゃ生活だって出来ないし、命を張ってやる意義も無い。 違うかい?」

「当然、金だって必要だ。 だが、金以上に必要な物だってある。 心と信義だ。」

「青臭い事言ったって、金にはならないんだよ。 だけど・・・。」

フーニスは素早くルーケに身を寄せると、戸惑っているうちに、素早く頬にキスをする。

「今回は乗せられてやるよ。」

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