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愚者の舞い 3−40

「クラス! いったいどうしたのよ!?」

レイナも驚き、慌てて止めようとするが、クラスィーヴィに鋭く睨まれて動きを止める。

「お前には以前話したが、アクティースと私は聖魔戦争の時、共に戦った戦友だ。 それを殺した張本人なのだ。 もし彼女に非があったなら、私も納得できよう。 だがこいつは、己の欲のためだけに信頼させて裏切った卑劣な奴。 生かしてはおけん。」

「欲のためじゃない!」

あまりな言われように思わず反論しようとしたが、チクッとレイピアを少し刺されて止められる。

「理由はなんであれ、恨み辛みも無い彼女を裏切り殺害した事実に変わりはあるまい。 所詮は魔王の僕。 その程度のカスだ。」

「違う!」

「詭弁は聞きたくない。」

スッとクラスィーヴィが鋭くレイピアを突き出した瞬間、ルーケは後ろに大きく仰け反りながら倒れ込み、間一髪で致命傷を免れた。

ただ、顎先を切り裂かれはしたが。

「ふん。 避けるのは得意なようだな。 魔王によく仕込まれたようだ。」

「違う! 俺は欲のためにアクティースと戦ったんじゃない!」

「だが、魔法は避けられん。」

「聞け! あんただって聖魔戦争を戦って来たなら、天界側に付いていたんだろう!? なら、今のこの世の中に悲しみと不幸が満ちているのが分かる筈だ!!」

ルーケの話など聞こうともせず、呪文を唱え始めたクラスィーヴィだったが、詠唱を途中で止めて、無表情のまま憎々しげに見下ろした。

「それなら簡単な事。 この世界から人間など消え失せれば良い。」

「ちょっとクラス!?」

「このレイナのように、まっとうに生きている人間がいる事も私は知っている。 だが、悪事や争い事を起こすのも人間だ。 また、勝手に自然を破壊し、数多の生物に害を与えているのも人間だ。 我が物顔でな。 癪に障るが、その辺、私は魔王と同じ意見だ。」

「師匠が、人間を不要と・・・!?」

「知らなかったのか。 人間の可能性を信じ、頑なに必要としたのは始原の神バーセ様だ。 最終的に協力はしたが、魔王は最後まで反対していた。」

「それでも・・・それでも、今実際に人間は生きている! 確かに争いはあるし魔物だっている! だがそれも、世界を統一し、平和に導けば幸せになれる!!」

「あまいな、ルーケ。 たとえ国家間の争いは無くしても、真の平和など来はしない。 人間が人間として欲がある限り、争いは必ずあり、また、偽りの平和は腐敗を産む。 貴様が成した事を正当化しようとしても無駄だ。 私にそんな詭弁は通用・・・」

クラスィーヴィが怒り心頭に達してきて、顔が赤く染まって来た時。

町の方から、1人の男が馬で駆けて来た。

「お〜い、クラス! レイナ! なにやっているんだ? こんな所で。」

「クルース!! ちょうど良かった! クラスを止めて!!」

「止める? クラスを?? なんなんだ?? 帰りが遅いから見に来てみれば。」

「いいから止めて!!」

「クルース。 一緒に死にたくなければ邪魔をするな。」

慌てた様子のレイナと、怒り心頭なクラスィーヴィ。

いつもと逆だなと思いつつ、ルーケとクラスィーヴィの間に割って入る。

「落ち着けよクラス。 何があったか知らないが、ここはペイネの領地内だぞ。 あんたが率先して法律を破ってどうする。」

「アクティースを殺した相手だ。 私怨だろうがなんだろうが、生かしてはおけん。」

「なに? アクティース? 銀竜のか。 へぇ。」

そう言いながら、ルーケ達をクルースは見まわしてから、改めてクラスィーヴィを見て。

「本当かそれ。」

「なに?」

「そんな実力がある様に見えねぇんだが、俺には。」

そう見下した評価をされ、ラテルとフーニスはムカッとし、思わず武器を抜きそうに成る。

だが、このクルースとアクティース、それにレイナも、正直かなりの実力者なのは2人にも分かっていた。

おそらく、正面から戦っても勝てないくらいには。

「俺の見たところ、地竜でも厳しい力量だぜこいつら。 とてもその遥かに強い銀竜に勝てるとは思えないんだがな。」

「そう言われてみれば、そうよね。 あんた達、本当に銀竜を倒したの?」

改めて聞かれると、フーニス達も返答に困り、ルーケを見る。

ここで竜玉を見せて信用させれば、戦闘の回避は不可能だ。

だが、馬鹿にされたままと言うのも癪だ。

「矮小な輩が強大な者を倒すには、卑怯な手を使う以外あるまい。 毒でも盛ったのであろう。」

クラスィーヴィの侮辱に、ルーケはつい竜玉を取り出しそうになった、が。

「!? おい! 遊んでいる場合じゃないみたいだぞ!」

突然クルースが叫び馬首を町に向けて返し、レイナとクラスィーヴィは小首を傾げる。

「聞えないのか! アィマィミィマインが出た!!」

瞬時に2人にも緊張が走り、即座に馬首を向ける。

「命拾いしたな。 だが、覚えておけ。 私は貴様を断じて許さん。」

クラスィーヴィはそう言い捨てると、馬に蹴りを入れて駆け去って行った。

3人が駆け去り、馬蹄の音が聞こえなくなり静かになると、風に乗って何かの破壊される音や声が微かに聞こえて来た。

「アィ! マィ! ミィ〜マイン♪ アィ! マィ! ミィ〜マイン♪」

取り残されたルーケ達は呆然としつつ、アィマィミィマインらしい声を聞きながら、黄昏るしかなかったが・・・。

「ねぇ、どうする? これから。」

「・・・そうだな。 ここがペイネと言う事は分かったが、ペイネの町に向かう訳にはいかないようだ。 位置で考えると、この森を抜ければノウムへ辿り着ける筈。 そちらへ向かおう。」

ルーケはそう判断し、一行は森の中へと入って行った。

やがて夜になり、宿営すべく準備をしていると、不意に殺気を感じて全員が手を止めた。

「・・・囲まれたね。」

「ああ。 だが、数は多くなさそうだ。」

ロスカを守る様に戦闘できる体形に集まり、相手が姿を現すのを待つ。

ほどなく、姿を現したのはコボルトとゴブリンだった。

その数は10匹。

数で優位と侮ったゴブリンの1匹が、醜悪な顔を笑顔に染めて突っ込んで来て先端は開かれた。

つまらなそうにゴブリンを屠って行くラテルの剣は鋭く、身の軽いフーニスは踊る様に次々切り倒して行く。

冒険者として経験を積んで来た一行だけに、人並み以上には強いのだ。

ただ、さっきのクルースやレイナ達の方が、才能として上なのだろう、それでも侮辱されれば当然腹は立つ。

溜め込んでいた怒りを発散できる相手が現れてくれた事は、ルーケ達には幸運だった。

そんな時、あらぬ方向からゴブリンの絶叫が響き、ドサリと倒れた。

何事かと、ゴブリン達とルーケ達が動きを止めると、すぐに人が現れた。

「やれやれ、アィマィミィマインの次はゴブリンか。」

その背後から、ポロロン・・・と、手に持った弦楽器を鳴らし、痩せた男が姿を見せる。

「貴方らしいではありませんか。 争い事が寄って来るのは。」

「嬉しくって涙が出るぜベルソよ。」

そう言う青年は、本気で嬉しそうな顔をしている。

「さ〜てと。 ノウムのボット様が助太刀してやるぜ。 雑魚をさっさと蹴散らし、酒盛りしようぜお前ら。」

そう言うなり抜き身で持っていた剣を振り上げ、突撃した。

「野蛮ですねぇ。」

苦笑いを浮かべつつ、暇そうにベルソの奏でる音をBGMとしながら。



第3章 命を継ぐ者 完


第4章へ続く

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