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愚者の舞い 3−39

 そこに映し出されていたのは・・・。

「・・・!? こ・・・これは・・・!」

「懐かしいだろ? よっぽどあいつはお前に会った時が忘れられなかったんだろうな。」

姿見に映し出された自分自身の姿。

それは、生贄に差し出された13歳の頃の姿だった。

身長が縮み、胸なども小さくなっていたために違和感を覚えたのだ。

服も良く見れば最近着ていた物よりも、一回り以上小さい。

「あの時から、あいつは自分の余命がそんなに無い事を知っていた。 だからずっと悩んでいた。 それでも、お前の決意が揺るがなかったために巫女にした。 それだけ大切に思っていたアクティースの心も、お前は殺すのか? 今やお前と一つになった、アクティースも。」

「アクティース・・・様・・・。」

「よく考える事だな。 今のお前は、自分だけの命ではないんだ。」

もしミカが望むなら、死なせてくれてかまわない、そう言われていたが。

(すまんなアクティース。 俺はやっぱ、死なれたくないわ。)

そう心の中で謝罪し、考え込むミカを残して身を翻し、部屋を去ろうとしたとき。

『そんなお前だからこそ、信じて預けたのだ。』

背に、そう答えが返って来たような気がした。

ただ、生きるように言いながらも、他に心配な事もある。

竜と人間では、あまりにも肉体に違いがあり過ぎる。

そのため毎年1回、メンテナンスがてら延命処置をしないといけない。

その事を伝えた時、ミカがどのように反応するか、不安はあった。

また、いつまで生きられるのか、不明な事も・・・。


 こうして、無理やり天界も納得させ、蘇生したミカ。

アクティースの命を継ぐ者として、天界を敵に回さずに済みはした。

一方、一連の出来事の根源となってしまったルーケ達は。

呆然と、目の前の風景を見ていた。

「・・・ここ、どこだ?」

「・・・さぁ・・・?」

そんな2人の背後に現れたロスカも呆然とし、さらに後から現れたルーケも呆然とする。

だが、ルーケはすぐに見た事のある景色のような気がして、辺りを見回す。

今自分達は、見晴らしの良い丘に立っていた。

左前方には小さく町が見え、その町以外の場所には森が大部分を占めて広がっている。

振り返れば、今、自分の立っている場所が、道のど真ん中である事が分かった。

左右に広がる木々に挟まれ、馬車1台通れる程度の道が、曲がりくねって伸びている。

「・・・どこかで・・・いや、しかし・・・そんな事があり得るのか?」

「何か思い当る事でも?」

「・・・似たような風景を見た事があるような気がするんだが・・・いや、時間が過ぎていると考えれば・・・。」

独り言のようにブツブツと言いながら、己の思考に没頭している時、フーニスが何かを思い出したように体を自分の手で撫でまわし、

「よかったぁ! 年をとってないっ!!」

言われてみれば、確かに誰も年をとったようには見えない。

「・・・どういう事だ? 妖精界に・・・いや、まったく同じとは限らない・・・となると・・・?」

「何1人でブツブツ言ってんだい? ルーケ。」

「・・・実は、見た事があるような気がするんだ。 この景色。」

「本当に?? でもあんた、帝都とリセくらいしか見てないんだろ?」

「いや、他にペ・・・」

フーニスの問いに答えかけた時、背後の森の中から馬の駆ける音が聞こえて来たので振り返り、急激に大きくなって来たと思ったら、もうすぐそこに来ていて急停止した。

いななく馬は前足を高く上げ、慌ててルーケ達は道の脇に退く。

竿立ちになった馬が足を降ろすと、その背には美しいエルフの女性。

その後ろから、異変を悟って慌てて減速し、なんとかぶつからないようにしてもう一頭の馬が姿を現す。

そちらの背には、まだ若い人間の女性が乗っていた。

「お前達、け」

「てめぇら何考えてやがんだ!? 森の小道のど真ん中に突っ立ちやがって!! 切り刻んでこの森に住むノーブルスライムの餌にすんぞゴラァ!!!」

無表情ではあるが、ルーケ達を気遣おうとしたエルフ女性を遮り、後から来た人間女性が猛烈な怒声を発する。

「な、なんだとぉ!? 小娘が!! 出来るもんならやってみやがれ!」

「道を塞いでいたのは悪いけどさ。 その言い方は無いんじゃないの?」

売り言葉に買い言葉。

ラテルとフーニスはカチンときて、それぞれ愛用の武器をいつでも抜けるように身構える。

それを見て、馬に跨ったままの人間女性も腰の剣に手をかけた。

「おやめなさい、2人とも。 非があるのはこちらです。 申し訳ない、お嬢さん方。」

「お前も落ち着け、レイナ。」

「だって!」

ロスカが苦笑いを浮かべつつ双方の間に体ごと割って入り、エルフ女性が声だけ呆れた風に、振り返って人間女性に声をかけるが・・・。

「クラスィーヴィ・・・?」

呆然と言うルーケの声に、エルフ女性は片眉をクイッと上げてルーケを見る。

「やっぱり、クラスィーヴィ・・・さん、ですよね? プリさんの仲間の。」

そう言うルーケに、エルフ女性は小首を傾げ、

「誰だお前は? それに、何故プリを知っている?」

「なんでって・・・まあ、ほとんどあの時会っていませんが、数年前、プリさんに助けられたルーケです。 覚えていませんか?」

「・・・数年前・・・ルーケ・・・。」

そう言われてクラスィーヴィは考え込み、レイナと呼ばれた少女は小首を傾げた。

フーニス達はルーケの話から、以前過去から飛んだ時に助けられたと聞いたのを思い出し、敵ではないと判断してそれぞれ武器から手を放した。

「プリさんって、ペイネを作った1人ですよね?」

「ああ。 だが、数年前と言うのが腑に落ちん。」

「ええ、私もそこがおかしいなと思ったんですよ、クラスさん。」

そう言われて、今度困惑するのはルーケの方だ。

「どういう事です? プリさんがどうかしたんですか?」

「プリは80年ほど前に死んでいる。 何故お前が・・・。」

「プリさんが死ん!?」

ルーケの驚きの声はしかし、突然抜き放たれたエルフ女性クラスィーヴィの、レイピアを喉元に突き付けられた為に止まった。

「思い出した。 ルーケ、何故彼女を殺した?」

「ちょちょちょちょっとクラスさん!?」

その突然の変化に、驚いたレイナが止めようとするも、クラスィーヴィは微動だにせず、ルーケを鋭く睨み据える。

フーニス達は、この2人が敵ではないと判断していたため、完全に意表をつかれて手も足も出せない。

「彼女って!? 何をおっしゃるんですかクラスィーヴィさん! 俺はプリさんを殺しちゃいない!!」

「プリの事ではない。 アクティースの事だ。」

ここでその名が出て来るとは露程も思っていなかったルーケは、驚愕した。

「何故彼女を殺した? 彼女は人間に害を成した事など無かった筈だ。」

詳しい事情は分からないが、どうやらアクティースとクラスィーヴィと言うこの女エルフは知り合いだったらしい。

戦うしかないと覚悟を決め、フーニス達は改めて身構えた。

だが、即座にルーケを殺害出来るクラスィーヴィに、一片の隙も見つけられなかった。

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