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愚者の舞い 3−37

 ぼや〜っとした眼差しで見つめられ、思わず苦笑いを浮かべたが、どこか不自然な感じがするので聞いてみる。

「何を今さら。 ってか、記憶が混同しているのか? お前、自分が誰か分かってるか?」

「誰って・・・。」

(私は誰だ?)

と考えた時、一気に記憶が戻って来てガバッと跳ね起きる。

「アクティース様は!? ほかのみんなは!?」

突然の変化にビックリするが、どう答えたものか悩み沈黙する。

「あ、でも、私が生きていると言う事は、アクティース様は無事ね? 魔王さまが助けてくれたんですね? ありがとうございます!」

心底嬉しげに言う娘に、アラムの方が口籠るが、諦めてハッキリと言った。

目は明後日の方を向いていたが。

「死んだよ。」

「・・・え?」

「アクティースは死んだ。 同時に、クーナ達もな。」

「・・・うそ・・・? だって・・・私、生きてますよ? アクティース様が死んでいるのに私が生きているわけがな・・・」

ツイッと言葉を遮り、自分の左胸を指差され見る。

初めて自分が全裸だと知り、顔が真っ赤になった。

が、同時に違和感も感じる。

そこへそっと、どこから出したか分からないが、ローブを優しくかけてくれた。

「俺はこういう冗談を言う趣味はねぇ。 落ち着いて聞いてくれ。 お前の主人アクティースは死んだ。 それは紛れもない事実だ。 これから詳しく教えてやる。」

そう前置きしてから、アラムは椅子を出現させて座り・・・。

「その前に服を着た方が良いか。 今飲み物を取って来るから、着ておけ。」

そう言って部屋を出て行き、ミカがローブを着終えた直後に水差しとコップ2つを持って戻って来た。

「水が飲みたくなったら、勝手に飲みな。 さて、事のあらましを説明してやる。 心して聞け。」

真剣な眼差しでそう言われ、ミカはゴクリと唾を飲み込み、頷いた。

そして、語られた内容に絶句する。

「そんな・・・それじゃぁ・・・!」

「ああ。 リセも滅んだ。」

ミカは愕然とし、それからアラムの胸元を掴んで激情のままに激しく揺さぶった。

「何故・・・! 何故助けてくれなかったの!? リセは、リセは滅ぶ必要があるほど邪悪な存在だったの!?」

だが、それに対する答えは冷徹なものだった。

「なんで俺が。」

(そうだった。 この人達にはどうでもいい事だった・・・。)

メガロスにしろアラムにしろ、そして、アクティースも。

超常の力を持つ者達は、皆、冷徹である。

ミカはその事実を突き付けられ、掴んでいた胸倉を放し、ガックリと力無く項垂れた。

「話を続けるぞ。」

結局、ルーケに討たれたアクティースだったが、仮死状態になることにより微かに生きている事が出来た。

そのために心臓を摘出し、ミカを生き返らせる事が出来たのである。

死んだ竜の心臓を使っても、何かを生き返らせる事はできない。

「ちょっと待って下さい。 どうして私だけ? それに、どうやって私を?」

「クーナ達は年を取り過ぎていた。 今さら解放しても、良くて老衰寸前の老人、通常は、即座にミイラだ。 だから、アクティースは延命を諦めた。 だが、お前は違う。 まだ18歳の娘だ。 だからアクティースは、お前を生き残らせようと俺に依頼した。 竜巫女を、主人の死から切り離し、救う方法を。」

「そ・・・そんな・・・事・・・。」

「竜巫女が生きながらえるには、まだ生きている主人の竜の心臓、または竜玉を巫女に移植する事で可能であると分かった。 だが、難しい儀式魔法であったために、お前の復活に数か月かかっちまった。」

なまじ黒魔法に精通した今、ミカには分かった。

リセ王国を助けなかったのではなく、助けられなかったのだ。

ミカの復活には儀式魔法をするしかなく、当然その間は離れる事が出来ない。

また、時間をおけば移植そのものが出来なくなる。

それゆえ、アラムの意思に関わらず、助けたくとも助けられなかったのだ。

ミカにはもう、溢れる感情を抑える事が出来ず、泣くしかなかった。


 手ぐすね引いて待ち構えていたファソリは、しかし、あんぐりと口を開けただけで何も言えなかった。

白と黒、左右で異なる色の翼をしっかりと出現させ、額には鷲のように鋭い目付きを模した額当て。

背には愛用の大剣を背負い、その身に纏うのは純白に燦然と煌く鎧。

第8軍将としての、正式なちだ。

いつものラフな服装では無かったため、ファソリはおろか、居並ぶ大臣や軍将達さえ非を見つける事が出来ないほど、完璧な立ち振るまいと姿だった。

アラムはそんな中を平然と進み、定められた場所から1ミリも狂う事無く片膝を付き、臣下の礼をとる。

「第8軍将アラム・ヤウンデン、お召しにより参内さんだい致しました。」

「よくぞ参られた、軍将アラム殿。 おもてを上げるがよい。 今日呼んだのは他でも無い。 このたびの事についてだ。」

珍しい神王自らの口上に、謁見の間は一瞬ざわめく。

だが、神王として階級は上でも、相手は叔父であり、世界を作った始原の神であるため、納得してすぐに静まる。

普段なら、大臣が口上や命令を伝え、神王が時々口を挿んだり、訂正する程度なのだ。

「この度の事とは、どの事でしょうか。」

「貴様! ふざけるな!!」

平然と答えると、待ってましたとばかりに、即座にファソリが怒声を上げる。

「これは異な事をおっしゃられますな、第4軍将殿。 私のどこがふざけているとおっしゃられるか?」

そう言ってニヤリと笑い、その仕草が更に怒りの炎を燃え上がらせる。

「よくもぬけぬけとそのようなっ!! 自然界を引率する役目の銀竜アクティースの死を報告もせず、あまつさえ勝手にその巫女の蘇生儀式!! 事の次第を問い質しに赴けば・・・!!」

その顛末を思い出し、謁見の間に押し殺した苦笑いが充満する。

流石に天王と、その側近たる大臣は表情を変えはしなかったが。

ファソリも失態を思い出し、だが筈の上塗りのためにそこを言う訳にもいかず、更に怒りに顔を赤く染めて声を荒げた。

「とにかく!! 貴様のやっている事は規則違反も甚だしい!! 死刑を言い渡されても文句も言えぬ立場であるぞ!! 魔界を追放され、行き場さえ無かった貴様が自然界に住めたのは誰のおかげだと思っておるのか!! その恩さえ忘れてなんだその態度は!!!」

「なるほど、第4軍将殿の言い分、良く分かりました。」

アラムが真摯な顔で静かにそう答えると、ファソリは得意げな顔で黙った。

「しかしながら、その言い分は間違っております。」

「な、なんだとぉ!?」

再び顔を真っ赤にし、怒り心頭になり過ぎて、次の言葉が出て来ない。

「まず、銀竜アクティースの死に関してですが、私に報告義務はありません。」

「な・・・な・・・な・・・な・・・な・・・なにぃ!?」

「私の職務はあくまで自然界の管理。 自然界における生物などの生き死にについて、報告する義務はございません。」

「き・・・き・・・き・・・貴様ぁっ!!」

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