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愚者の舞い 3−32

 攻撃を躊躇ちゅうちょする理由は、他にもある。

もし命運がルーケを差し向けたなら、いかなる攻撃手段もルーケを排除する事は出来ない。

手段と方法は色々あるが、成功するかしないかは、また別の話だ。

もしそうなった場合、ルーケは無事で、巫女だけ死亡という可能性が大きい。

竜巫女である以上、不死身ではあるのだが、主人から攻撃されても無事かどうかは分からない。

試した事はないし、そんな知識も無い。

また、今、試したいとも思わない。

上手くいけば、蘇生と共に毒も消え失せるとは思うのだが。

その他に、アクティースはある狙いがあった。

ミカの解放。

ミカは現状で若いから、クーナ達と共に死なせる気は無かった。

アクティースが自ら解除すれば、ミカから精気が離れ、無事に生き延びる事が出来る筈だ。

筈なのだが・・・ミカの気配や、意思が感じられないのだ。

クーナ達3人のものは、しっかりと感じるのに。

結界の外に出ているからかも知れないが、これでは契を破棄出来ない。

とにかく、ミカを開放するまで死ねないと、アクティースは表情を変えずに必死になってミカの存在を感知しようとしていた。

そんな時に、ルーケの剣がアクティースの顔を強打した。

「貴様! よくもわらわの顔を!!」

瞬時に激怒したアクティースにルーケは驚愕して飛び退き、次の瞬間には目の前に巨大な銀竜が出現していた。

一時いっときと言えど、巫女の命の恩人ゆえ、気を許した貴様を許してやろうと思ったが、ここまでだ。 我が最後の舞い、冥土の土産に目に焼き付けるがよい。』

そう思念で言うなり、カッと大きく口を開いたためにルーケは咄嗟に横に飛んだ。

だが、想像していた攻撃では無かった。

激しい電流がアクティースの口から吐き出され、射線上から外れていたにもかかわらず、鉄の剣が電流を引き寄せたために巻き込まれて激しく打ち据えられる。

『我、断じて汝を許す事無し。』

感電し、全身が痺れて感覚が無くなり、それでもなんとか立ち上がったルーケを、強烈な尾の一撃で弾き飛ばし、長い胴体で巻き付く。

アクティースの予想した通り、全身がけだるく重いものの、人間の姿の時よりも毒の効果が薄い。

四肢は痺れて思うように動かないのは同じだが、頭の先から尻尾の先までは、ほぼ思うように動く。

だが、次の瞬間には激痛を感じ、素早くルーケを解き放って距離を置き、睨み据えた。

「どうやら、運は、俺に、あるよう、ですね。」

疲労で激しく息をしながらも、ルーケはそう言ってニヤリと笑った。

その手にあるのは地竜の剣、ドラゴンソード。

半ばで折れたとは言え、ダガーよりはまだ、刃の長さがある。

(やはり、わらわを倒さねば収まらぬか。)

尾で弾き飛ばした先に、たまたま折って捨てた地竜の剣が転がっていたなど、不運にもほどがある。

だが・・・。

『・・・面白い。 久しぶりに血潮が滾る。』

アクティースはルーケを見据え、ニヤリと笑った。

アクティースもまた、強き者を求める竜の性格が、ある。


 運はあるとは言ったが、正直、ルーケに勝算など思い付かなかった。

地竜の剣を再び手にはしたが、残った刃はダガーに毛が生えた程度の心許ない物。

刃が付いていないため、折れた刃を握って戦っても良いのだが、拾う余裕を与えてくれる筈もない。

(どうする? どうしたらいい?)

「グリュウアァ!」

アクティースを見据えながら攻略方法を考えている時、不意にアクティースが一声鳴いたと思うと、視界が緑色に変わった。

「なっ!?」

驚愕と共に猛烈な危機を感じ、咄嗟に横に3回転がり立ち上がる。

視界に緑色は無く、元立っていた場所を振り返ると、そこには巨大な緑色した多面体の物体があった。

ルーケは知らないが、「クリスタルゲージ」と言う竜語魔法の1つだ。

クリスタルゲージはルーケに見られた一瞬後、その存在など無かったように、音も無く砕け散って消え失せた。

後には何も残さずに。

もしルーケがその場に止まっていた場合、ゲージに閉じ込められ、砕け散ると同時に異次元の彼方へ捨てられていたところだ。

そして、呆然と突っ立つルーケを、当然アクティースは見逃す気は無かった。

「キャシャアァ!!」

再び一声鳴くと同時に、猛烈な勢いで突進を開始する。

アクティースは翼などの物理的な物で飛ぶわけではないので、予備動作も何も必要とはしない。

そして今度の一鳴きは、咆哮。

かつて、トラーポ王国の侵略軍、バスレーロ将軍率いる軍勢を恐怖に縛った、竜の咆哮だ。

もろに喰らったルーケは、恐怖に心を縛られ、ガクガクと足を震えさせながらも何とか立っていたが、それこそまさに棒立ち。

アクティースの突進を避ける事など、できはしない。

(やられる・・・!)

クワッと大きく開かれたアクティースの、鋭い牙が並ぶ口内を、まるでスローモーションのように見詰めながら色々な思い出が脳裏を過る。

(ああ・・・やはり、勝てないのか・・・クーナ・・・そうだ・・・俺は死ねない・・・ここで死んだら、誰も助けられない・・・!)

幼少時代から、冒険者になるまでの辛く貧しいシーフギルドでの日々。

冒険者に成ってから、冒険者を知り、元魔王に弟子入りし、そして・・・愛した女性の顔。

眼前に迫った竜の顎門あぎとを、恐怖に縛られながら、それでも死にたくないと、ルーケは強く思った。


 アクティースとルーケが激闘をしている頃。

トラーポ王国謁見の間に、一際着飾った鎧を身に纏った男が入って来て、国王の前に片膝を付いて一礼をした。

「お呼びですか、国王陛下。」

「待っていたぞ、将軍ミュル。 兄の敵を討ちたいと思わんか?」

「は・・・。 それは、機会があれば、是非とも・・・と、思ってはおりますが・・・。」

「ならば、迅速に出陣せよ。」

「は? 失礼ながら、彼の地には銀竜がおりますれば・・・。」

「その心配はいらぬ。 我が配下の手により排除した。 存分に働くがよい。」

「・・・ははっ!」

一瞬不安げな表情を浮かべたが、主命である。

行けと言われれば行くしかないと、ミュルは慌てて命を拝して謁見の間を出て行った。

「国王陛下。 よろしいのですか?」

「ふん。 無能な将軍1人で成果が分かるのだ。 口減らしに成るか僥倖ぎょうこうになるか。 どちらにせよ、我が国に損害は無い。」

兵の命如きは何とも思わぬトラーポ国王は、不安げな大臣の質問にそう答えると、ニヤリと笑って口を閉ざした。

兄バスレーロと弟ミュルを、国王は嫌いだった。

代々の家系で将軍にせざるをえなかったが、着飾る事にだけ執心し、戦士としても将軍としても無能であった2人を、排除する機会を探っていたのだ。

得体が知れないとは言っても、ポルコの策略は渡りに船だった。

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