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愚者の舞い 3−29

 そう答えてから、アクティースはいつものように、一気にコップの中身を飲み干す。

そう言うと豪快そうだが、何故か優雅にしか見えないから不思議だ。

アクティースが飲んだので、待ってましたとばかりにルパとメレンダも先を争ってコップを空ける。

「「おいしぃ〜!!」」

「2人共、はしたないですよ。」

クーナは軽く飲んだ途端2人が騒ぐので、飲みかけのコップをテーブルに置いてから窘め、ルパとメレンダはハッと気が付きシュンとする。

主人であるアクティースが、普通と答えているのだ。

しもべである巫女が、もろ手を上げて喜んでいいものではない。

「構わぬ、クーナ。 美味い物は美味いのじゃ。 素直でよいではないか。」

「・・・はい。 出過ぎた真似をいたしまして申し訳ありません。」

「楽しめる時に楽しむのがいち・・・」

突然、ガターンと神殿内に椅子の倒れる音が響き渡り、ルパとメレンダが倒れ伏す。

目を見開いたまま死んだように身動きせず、それを合図にしたように、ルーケは荷物を積んだ荷車に身を翻して駆け寄った。

「貴様、何を!」

「ルーケ! あなたと言うひ・・・と・・・は・・・。」

アクティースが怒り心頭に椅子を蹴倒して立ち上がり、クーナも立ち上がったが毒がまわって来たらしく片膝をつく。

僅かしか飲まなかったにも関わらず、秘薬は効果を発揮した。

本来、魔獣や竜といった、巨大な体を持つ相手に対して用いる秘薬だからだろう。

半分しか竜ではないとはいえ、巫女は普通の人間サイズでしかないから、一滴程度でも充分であったのだ。

ルーケはそんな2人に構わず、積んであった荷物の中から一振りの剣を、固定してあった鞘から即座に抜き放ち身構えると、ヒタとアクティースを見据えた。

「アクティース様、あなたの寿命が尽きかけている事は知っています。 だから・・・あなたの命をいただきたい。」

「なにを馬鹿な事を。 わらわの命はわらわのもの。 寄越せと言われてやれるものではないわ。」

「銀竜倒しの名声があれば、俺は大きく世界統一に向けて足を踏み出せます。 世界に平和を実現するため、あなたの命・・・いただきます!」

腰だめに剣を構えダッシュしてきたルーケを、返り討ちにしようと身構えようとした。

だが、思っていたより強力な毒だったようで、手足に力が入らない。

(チィ、思ったよりやりよるわ! ならば、解毒を先にするのが得策か。)

アクティースは、己の力と体に絶大なる信頼を寄せていた。

切れ味を増した程度の魔法剣ならば、肌に傷が付く事も無いし、その間に解毒も終わる。

後は斬り込んで来て、懐にいるルーケを始末すれば終わりだ。

そう戦略を瞬時に組み立てて、実行に移した。

今でこそ戦いに無縁の生活をしているが、元の世界では夫婦将軍と言われるほどの実力者だったのだ。

「キシャアァ!」

アクティースが一声鳴くのと、ルーケの突き込みは同時だった。

アクティースの一鳴きは、咆哮ではなく魔法の詠唱。

竜語魔法はその名の通り、竜の言葉によって紡がれる。

人間には鳴き声に聞こえるのだ。

だが、ここでアクティースは誤算に気が付いた。

致命的な、誤算だ。

(馬鹿な・・・この毒さえも、命運と言うかっ!!)

命運に関わる傷病は、いかなる治療も魔法も効かない。

そしてもう一つの誤算、それはルーケの持っていた剣。

「・・・ドラゴンソード・・・じゃと?」

「地竜の肋骨から削り出したと言われるこの剣。 竜族に鋼の武器は効果は見込めない。 けど、同じ竜族の肉体なら、話は別。 でしたね?」

外見上は刃も無い木刀のような剣だが、アクティースに対しては、熱したナイフをバターに刺すように、ほとんど抵抗も無く突き通す。

「フッ・・・ぬかったわ。 じゃが、素直にやられるわらわと思うなよ。」

深々と腹部に突き刺さった剣を見降ろし、アクティースは覚悟を決めた。

「アク・・・テ・・・さ・・・。」

くずおれそうな体を必死に支えながら、クーナはなんとか立ち上がろうとしつつアクティースを見上げる。

その様子に気が付いたルーケは慌てて振り返り、必死に訴えかけた。

「クーナさん・・・すいません! でも、でも、いずれ分かってもらえますっ! きっと! 俺の築く平和な世界を見れば、きっと!」

クーナはこの時初めて、ルーケの思惑に思い至った。

自分に好意を寄せている事も。

だが、クーナにとっては嬉しさよりも、呆れる思いの方が強かった。

だからこそ、麻痺しながらも最後の力を振り絞り、一言、一言、ハッキリと言った。

「ば・・・か・・・な・・・ひ・・・と・・・。」

そして力尽きて倒れ伏し、それでもなんとかルーケを見上げて・・・ニヤリ、と、笑った。


 竜巫女が倒れるのを見た瞬間、ポシスは天井に頭を激突するほど歓喜に飛び上がった。

天井が低いのではなく、ネコマタであるポシスの跳躍力が凄いのだ。

数秒ほど、激痛に蹲って痛みに耐えた後、再度飛び上がった。

「ショコラ様! やった! やりました!! あの秘薬が!!」

流石にショコラも、寝そべっていた寝床から即座に起き上がり、ニタリと笑う。

「作った秘薬が、効果を発揮できたのは嬉しい事だな。 で、状況はどうなっている?」

これまで結界の中に入り込む事は出来なかったが、ショコラの作った秘薬を媒体にして、今回やっと、魔法の目が侵入する事が出来た。

その気配を感じ取ってはいたが、感覚が衰えていたために、ハッキリと元凶を特定する事が出来ず、アクティースは胸騒ぎとして捉えていたのだ。

2人は画策した結果が、最高の結果をもたらすであろう事を確認するため、神殿内の状況把握に集中した。


 念のためと、ミカの両手・両足を縛ってから草むらの蔭に転がし、ロスカ達も万が一のために隠れて潜んでいた。

最悪の場合、ルーケに構わず逃げなければ、自分達も殺されてしまうからだ。

「まだか!? ルーケの奴、ドジやって今頃食われちまってるんじゃねぇだろうな!?」

「落ち着いて下さい。 まだ結界に入ってからそんなに時間は経っていませんよ。」

「もしそうなら、今頃竜か竜巫女が様子を伺に出て来ているだろうさ。 仲間がいるかもしれないと思ってさ。」

ミカはそんな彼らのやり取りを聞きながら、体の痺れが治るのを今か今かと待っていた。

竜巫女になってから魔力の放出量が大幅にアップしたために、口が動くようになれば黒魔法が使える。

惜しむらくは、巫女に成って数年しか経っていないので、竜巫女魔法が使えない事だ。

もしミカではなく、クーナ達3人のうち誰かであったら、回復魔法なども使えたのだが。

そう思うミカであったが、実際には、それは不可能だった。

もしミカが長年巫女をしていて、完全に融合していた場合、しっかり飲んでしまっていたために、ルパやメレンダのように、瞳孔の調節さえできないほど麻痺している筈だ。

ミカは竜巫女に成って日が浅いため、竜の精気と完全には融合しきれていない。

そのために、秘薬の効果も不完全にしか発揮しなかったのだ。

何故ならこの秘薬は、人間や動物がどんなに飲んでも体に害を与える事は無い、魔法の秘薬なのだから。

そんな事実など知る由もないが、ともかくミカは、今できる事を確実に実行するつもりだった。

今のミカは、火炎球程度なら杖や指輪などの媒体無しでも、黒魔法が使える。

それだけの魔力を、体内に宿しているのだから。

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