表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/40

愚者の舞い 3−27

「おっと失礼。 明かりよ。」

「えっ。」

暗闇だからこそ決心し脱いだのに、これでは丸見えである。

「キャアアァァ!」

思わず胸を抱えてしゃがみ込むが、当のモリオンは。

「精霊を宿さない、魔法物なので見えなかったですね。 このように暗闇でも精霊を見る事により不自由なく動けますが、精霊の宿っていない物は見えませんのでご注意を。 屍などが代表例ですね。 で、あのデクですが・・・」

(あ〜・・・一応俺、乙女だよな? なんで裸でいるのにこいつは・・・。)

別に襲って欲しいわけではないが、まだ未成年とは言え、全く意識どころか歯牙にもかけられないのも、虚しいものがある。

「と、言うわけで、始めますので立って下さい。」

「え? 何を?」

「説明を聞いていて下さい。 あのデクは魔法で強化してある木の人形です。 普通なら剣でも傷1つ付かないほど強力に強化してあります。」

「フムフム。」

「これから魔法で攻撃します。 さ、ちゃんと立って。 しっかり感じ取って下さいね。」

(感じ取る???)

見取るなら分かるが、感じ取るとは?

戸惑いながらも立ち上がったシノンは、すぐに背中に手を当てられた。

「いいですか。 いきますよ。」

「え? ちょちょちょちょっと!?」

「これが風の初級精霊魔法、ウインドブレードです。」

突然シノンの腹の中で何か生き物の様なものがうごめき、下腹部、股間と経由してから一気に額に上昇し、再び臍のあたりに落ちて来る。

そのままその塊が体外に飛び出した感覚があったかと思うと、いつの間にか目の前に半透明の小さな人影があった。

その人影は背中に小さな羽根があり、パタパタと激しく動かし浮いている。

その人影は大きく腕を広げてから後ろに向けて一旦反らし、一気に胸の前で交差させる。

その次の瞬間、木の人形はザクっという小気味良い音をたてて、真っ二つに割れた。

「な!?」

「初級魔法と言っても、使い方を熟知し、効率よく力を大きく注ぎ込めば、この程度の威力まで引き上げる事ができます。 それでは服を着て下さい。 これから精霊と交信するための精霊語を教えます。」

「・・・って事は何か? 普通だともっと威力は低いのか??」

「低いですよ。 普通は傷をつける程度の威力です。 このデクに、今のあなたが自力で魔法をかけた場合、傷1つ付かないでしょう。 言った筈です、初級だと。 技も魔法も根本を理解し、工夫をする事で同じものでも別物になります。 1つの初級技でも奥義になりえるのです。 今見せたのはその例の1つですよ。」

「・・・なんだかな。 ま、いいや。 早く教えてくれ。」

「では、服を着てしっかりと聞いていて下さい。 精霊語と言うのは・・・」

シノンは最初、まったく理解不能な言語に戸惑ったが、覚えていくにつれて楽しくなって来た。

常に身近にいる精霊、それらが親しく話しかけて来る。

中には恐怖を司ったりする負の面の精霊もいるが、それは人間とて同じ事。

いや、シノンの場合、孤児として下町で育ち、辛酸を舐める生活をしてきただけに、それらさえも比較的安易に受け入れる事が出来た。

シノンは精霊使いとして、優秀な素質と下地を持っていたのだ。

精霊使いは魔法を勉強して覚える事は少ない。

精霊が教えてくれるのだから。

友であり教師であり、親であり兄弟でもある精霊達。

親を知らないシノンは、嘘偽りのない正直な心で接してくる精霊が大好きになった。

もちろん、草の精霊や風の精霊のようにいたずら好きな者もいる。

だがそれも純粋な精神のたまものと知った。

精霊も人と同じ、自分を理解し信頼してくれる相手には好意的だ。

シノンはたった1日で、初級魔法を全て習得するという快挙を成し遂げた。

(こりゃぁ驚いた、これが兄貴の言っていた人間の可能性と言うものか。 まさか勇者の資質の無い者でもこれだけの才覚を持っているとはな。 いやはや、長生きもするもんだってか。)

正直言って、モリオンはここまで達成するとは夢にも思ってなかった。

普通精霊魔法に限らず、初級の魔法を使えるようになるまで1年は修行が必要なのだ。

これならわざわざシノンの魔力にリンクして、操作し、魔法の使い方を体験させる必要もなかったかもしれない。

ともかく、夕方頃になって修行を打ち切り、2人は洞窟から出て来た。

そこでは。

「うひょひょ〜〜〜〜〜お♪」

ビヨ〜ンビヨ〜ンと一本足で跳ねながら追いかける藁人形、それから楽しそうに逃げ回るポルン。

その胴体にはハリネズミのように矢が突き刺さり、邪魔にならない場所には3つの薬草の小山が出来ていた。

「なんともまぁ・・・。 遊んでいるようにしか見えねぇなぁ。」

「まあ、彼女はプティですからね。」

そう言いながらも、モリオンはその技術の高さに内心驚く。

シノンとポルン、2人とも勇者の資質は無いのだ。

にもかかわらず、この成長の早さ。

(人間の可能性を信じ、自ら異界の弁になった兄貴を、今は少し信じられるかな。)

唇の端を吊り上げて笑みを浮かべつつ、空を見上げる。

今は誰も住む者もいない、天界の上に浮かぶ、かつての住処であった神殿。

そこでの兄である始原の神バーセと、巫女シェーンとの生活を思い出し、暫し過去に浸る。

そして、気が付いた。

「さて、私があなた達に教えるのはここまでです。 後は自我研鑽して下さい。 いいですね?」

藁人形を消し、にこやかにそう言うと、2人の少女は何か言いたそうではあったが素直に頷いた。

それを確認した後、モリオンはここから町へ簡単に帰れる道を示し、姿を消した。


 2人はこの後冒険者となり、数々の冒険をこなしていく。

そして約100年後、勇者と共に、再度現れた魔王を倒す一員となるのである。


 ズズズ〜とお茶を啜りながら、アクティースは少し味に違和感を覚えていた。

味覚が鈍い、と言うより、ほとんど感じなくなってきているのは、メガロスの所で気が付いて以来、どんどん悪化している。

そのため匂いを嗅いでみたのだが。

(むぅ。 嗅覚も鈍ってきておるのか? それとも茶がおかしいのか?)

いつもなら優雅にお茶の匂いを楽しむアクティースが、クンカクンカと嗅ぐので、傍らに控えていたクーナも不安になった。

「アクティース様? どうかなさいましたか?」

「うむ。 どうも嗅覚も鈍くなってきたようじゃ。 いよいよかもしれぬな。」

「・・・左様で・・・ございますか。」

寿命が尽きかけているアクティースの竜巫女だが、クーナ達自身には異変が無い。

そのため、クーナ達にはアクティースの変調がさっぱり分からないのだ。

「命ある者はいつか果てるもの。 お前達を道連れにするのが心苦しいがの。」

「何を言っておられるのですか。 私達はあなた様が助けてくれなければ、100年以上も前に死んでいた者。 お気使い無用です。」

「そう言ってもらえると、少しは楽になるの。 ルパやメレンダには、伝えたと言っておったな?」

「はい。 ただ、ミカには・・・。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ