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愚者の舞い 3−26

 ギシッと鳴るハンモックに不安をかきたてられるが、横になった途端、猛烈な眠気が襲って来てそのまま寝そうになった瞬間、モリオンに待ったをかけられる。

「疲れているので寝たいでしょうが、先に食事をとりなさい。 体力の回復と維持のためにも必須です。」

そう言って、水がめいっぱい入った水筒と固い乾燥肉、乾燥パンを渡される。

喉がカラカラだったために、真先に水は無くなった。

その都度、モリオンはリュックから新しい水筒を渡してくれ、満腹になるまで2人は食事ができた。

「今回はこうなる事が分かっていたので大量に水を持って来ましたが、普通は水筒1本程度しか持参はしません。 水は大切ですから、その事を忘れないでください。」

そう言われて、なんでだろうと考えたとき、答えが出る前にクマが出た。

シノンの血の臭いを辿って登って来たのだ。

クマは前足が長いために木にも登れるほど登るのは得意であり、この急坂も、力も体力もあるため苦にならないのだ。

逆に下り坂は苦手だ。

比較的、と、言葉が付くが。

「ク、ク、ク、ク・・・」

「クマお〜!」

「はい、どうぞ。」

そう言って、2人に差し出したのは弓矢。

「・・・で?」

「・・・おらの力で射抜けると?」

「やり方を見せましょうか。」

モリオンはポルンの弓、つまり、一番弱い力の弓を受け取ると、クマ目がけて矢を放った。

それはクマの鼻先に突き刺さり、臭いを嗅いでいたクマはこっちを見上げ威嚇する。

よほど餓えているのだろう、その眼は魔法の光に照らされ、血走ってギラギラしていた。

「おや、威嚇で逃げると思いましたが、少し痛い目を見せないと駄目なようですね。」

アッサリそう言うと、猛烈な勢いで上り始めたクマの両目をサクッと矢で射抜き、痛みで立ち上がり、咆哮したその口の中にも1本撃ち込む。

手出しも出来ない距離でここまでやられては、クマも勝てないと悟り退散した。

「非力なら非力の戦い方があります。 どうすれば勝てるかと言う事を、しっかり考える事です。」

これが少し痛い目なのかと思わなくもないが、2人は疲れ果てていたのと満腹感で、ろくに考える余裕もなく寝てしまった。


 翌日の山登りは、前日よりもきつかった。

昨日は空身だったが、今日は昨晩渡された装備一式持っている。

そのため、水の答えは直ぐに思い至った。

一言でいえば、重量。

モリオンと違い、リュックなど持って来ていないので、寝具をハンモックで包んで固定し、背負えるようにしてあるのだが、それでも重さはあるし、動くし、邪魔な事この上ない。

更に腰には弓矢、水筒とある。

まだ食料を持っていないだけ軽い筈だが、現状で重労働であった。

少しでも軽くするために、水は必要最低限しか持って行けない。

と言うより、持ちたくない。

そんな二人であったが、昼前にやっと平らな場所に出た。

そこは自然に出来た桟道のように、水が流れるために削って出来た場所だった。

水は更に低い場所、低い場所と削って行き、溝のように抉られ流れて行く。

「み・・・水だ・・・。」

「水だお・・・。」

「その水は飲まない方がいいですよ。 お腹を壊します。 流れている水があると言う事は沸いている場所があると言う事。 そこまで行きましょう。」

なんでそんな事知ってんだ、と、シノンは疑問に思い、暫く考えて思い至った。

それは、経験。

言葉ではどんなに伝えても伝わらない、経験。

シノンには改めて目の前の男が、化け物に思えて来たのだった。


 水の流れを遡って行くと、やがて洞窟が見えて来た。

「ここに入るお・・・?」

「なんだか、薄気味わりぃな。」

「居心地のいい洞窟と言う物を私は聞いた事がありませんね。 さて、この中に入るのはシノンさんと私だけです。 ポルンさんは薬草の採取に加え、弓矢の訓練をしていて下さい。 的は今出します。」

そう言いながら指先を向けると、そこに藁で出来た人形が出現した。

「・・・おら、こいつに撃てばいいお?」

「はい、そうです。 ちゃんと当てて下さいね。 外すと追いかけて来ますから。」

「マジ!?」

「さ、シノンさんも遊んでいる暇はありませんよ。 私もいつまでもあなた達2人に関わっている暇もありませんので。 大急ぎで習得していただきます。」

「おい待てよ。 そんなに簡単に習得できんのか? 魔法って。」

「やり方によりますよ。」

薄暗い洞窟内を、モリオンはシノンに構わずドンドン奥へと進んで行く。

「フニョアアアアアァァ〜!!!!」

途中、悲鳴なのか怒声なのかよく分からん声が聞こえたが、モリオンが気にせず進むので、黙って着いて行く事にする。

途中まで、足元ばかり注意して歩いていたので気が付かなかったが、この洞窟内は不思議な場所だった。

洞窟内の全てが淡く輝き、かなり暗いにも関わらず、全てどこに何があるか分るのだ。

歩くのに、あまり不自由がない。

「ここって不思議な場所だな。 なにか特殊な洞窟なのか?」

「と、言いますと?」

「光ってるじゃん。」

「ああ、それはあなたが精霊を見ているからです。」

「へぇ。 ・・・ハァ????」

「前にも言いましたが、全ての物には精霊が宿っています。 この洞窟自体はなんの変哲もない、普通の自然に出来た洞窟ですよ。 精霊を見る素質のない者が今ここにいれば、光1つない真の暗闇にしか見えません。 精霊使いは、闇の中でも物が見えるのです。 暗視とはまた違いますけどね。 あなたは先日、サラマンダーを視認しました。 そのため、精霊魔法使いの素質が開花したために、見えるようになったのですよ。」

「へぇ・・・便利だな。」

「さて、この辺でいいでしょう。 服を全部脱いでください。」

「あいよっておい!? ななななにする気だよ!?」

「何って訓練です。 通常なら1ヶ月から1年かかる工程を、今日半日で終わらせますので、頑張ってください。」

「・・・本気か?」

「本気ですよ。 さぁ早く。 とっとと脱がないと・・・。」

ゴキュリ。

「ぬ、脱がないと・・・?」

シノンの脳裏に、色々と元娼婦などに聞いた事柄が次々と浮かび、通り過ぎて行く。

「魔力の放出に伴い、衣服が全て吹き飛びます。 帰りに着る物が無くなりますよ。」

その言葉を信じたものかどうか、真剣に検討するが答えなどある筈もない。

とりあえず暗闇の中であり、いくら精霊が見えると言っても日の当たる場所で見るのと違い、細部や色まで分るわけでもない。

シノンは覚悟をきめて服を脱ぎ捨てた。

「いいですか。 目の前にデクが見えますね?」

「・・・? どこ?」

いつの間にか背後に来たモリオンがそう言うが・・・シノンには何も見えない。

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