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愚者の舞い 3−22

 出迎えたフーニスの怒声に、思わず怒鳴り返しそうになった。

冒険者仲間は冒険のための仲間であって、プライベートにまで関与しないのが暗黙のルールと言うものだからだ。

だが、帰りを待っていた仲間を見回し、今までバラバラだったパズルが急に完成したように、ある考えが頭に浮かんだ。

「・・・なに黙ってんのよ? 女を抱いて来たなら風呂でも行ってくんない? イカ臭いのは勘弁なんだけど。」

不機嫌全開なため、ラテルもロスカも苦笑いを浮かべながらも沈黙したままだ。

こう言う時に下手な口出しをすると、火に油どころかガソリンを撒くようなものだと分かっているからだ。

「・・・フーニス、さっき事情を説明しろって言ったよな。」

「あ? ああ、言ったよ。 でも」

「俺の部屋に来てくれ。 全員だ。 話を聞いてくれ。 その後で、頼みがある。」

「頼み??」

「ああ、そうだ。 頼みだ。」

何を考えているんだ? と、ばかりに、フーニスはルーケを睨みつけ、見つめ返すルーケの真剣な眼差しにため息をつくと立ち上がった。

「ただじゃ嫌だよ?」

「もちろん、報酬も用意するよ。」

ラテルとロスカも、なにかただならぬ事情がある事を察し、フーニスに続いて席を立つ。

4人は連れ立ってルーケの部屋に入ると、ロスカは椅子に、ラテルは床に、フーニスはベットにそれぞれ腰を落ち着ける。

それを確認してから、ルーケは立ったまま壁にもたれかかって、口を開いた。

「最初に断わっておく。 これから話す事は、世界を揺るがす事だ。 信頼できる仲間だからこそ話す事を忘れないでくれ。 つまり、口外無用に願う。 いいかい?」

フーニスはうさんぐさげに、ラテルは不思議そうに、ロスカは戸惑いながらもそれぞれ頷き、一つ深呼吸をして気分を落ち着けてから、

「俺の師匠は魔王だ。」

そう、言い切った。

「元魔王と言うのが正しいのだろうが、その正体は世界を作った双子神の片割れで始原の悪魔であり、魔界王でもあったアラム・ヤウンデンだ。 冒険者としてはモリオン、商人としてプレシャスと名乗っている。 伝説のアラム族、その張本人でもある。」

驚きの余り声も出ない仲間を一旦見まわしてから、さらに話を続ける。

「不死の存在であるアラムは、魔王として倒され、生き返った後に天軍に所属し、今は天軍の将軍の一人だ。 そのため、俺は普通では知る事も出来ない知識を、修行の過程で得た。 簡単に言うと、そう言う事なんだ。」

「・・・それで、スキュラの事などを知っていたんですね?」

「ああ。 ロスカが勉強不足なわけじゃないんだ。 俺が、知りえない事を知っている、それだけの事さ。 そして、さっき来たクーナだが、彼女は竜巫女。 俺は師匠に依頼され、結界の中に籠っている銀竜達の下へ食料などを届ける依頼を受け、届けていた。 それで知り合ったんだ。」

「なんでぇ、時々一人で依頼を受けていると思ったら、あんな美人のいる所へ行ってたのか。 そりゃ、断れねぇなぁ?」

「ハハハ、ラテルの想像しているような事は無いよ。 それに、銀竜アクティースの姿を見たら、ラテルもぶっ飛ぶぜ。 それだけ美人だ。」

「へぇ、そんな美人ばかりなのに、あの子がいいのかい。 クーナってさ?」

「・・・ああ。 彼女に惚れた。 だが、アクティースはもう死ぬ。」

「「「死ぬ!?」」」

不死とまで言われていた銀竜が、死ぬと言うのがまず信じられず、3人の声が重なった。

そして、この国の行く末も、簡単に想像できた。

「この国の行く末は想像するのも容易いが、問題はもっと別の所にある。 アクティースが死ねば、後を追って巫女も死ぬ。 だから、助けたいんだ。 手を貸してくれないか。」

「ちょ、ちょっと待って下さい。 そもそも、なぜ不死と言われる銀竜が死ぬのです?」

「寿命だそうだ。 だが、理由はともかく、彼女達まで死ぬ事はない。 そうだろう?」

「おいおい、正気かお前。 それだったら、死ぬまで待つしかないだろ。 その時に引きとめればいいじゃないか。 わざわざ危険を冒して銀竜を倒す必要がない。 それに、根本的に大事な事を忘れてるぞお前。」

「・・・根本的に大事な事?」

「女の色香に惑わされて、常識さえ忘れちまったのかいあんた。 竜に普通の剣は通用しないだろ?」

ラテルとフーニスに指摘され、ルーケはアッと声を上げた。

「そうだった・・・。 くそう、どうすりゃいいんだ?」

ルーケは自分の浅はかさを悔いたが、こればかりは知識でどうにかなるものでもない。

「何とかなりますよ。」

ロスカの一言に、3人は驚いて振り返った。

「私の知人の商人に、ポルコと言う人物がいます。 トラーポの商人なんですが、彼に、地竜の剣と秘薬を買わないかと言われているんです。」

「トラーポの? ちょっとロスカ。 そんなのと良く付き合ってるね。 下手すりゃギルドに消されるよあんた。」

先に言った通り、リセのシーフギルドも忍者も、王家と協力関係にある。

王家と敵対している国家所属の商人の出入りを、好ましく思う筈もない。

「あなたらしい答えですが、私も十分生きて来ましたし、貴重な本を取り扱っている珍しい人物ですからね。 さて、本題です。 地竜の剣は、地竜の肋骨を削り出して作った剣で、現状でこの世界にある物質の中では、竜に対し、最大の効果をもたらせる剣です。 また、秘薬は、伝説のレジャンド一行が魔獣に対し使ったとも言われる、無味・無臭の毒です。 即死する程ではないそうですが、レジャンド一行が魔獣を倒せた程ですから、効果はあるでしょう。 ただ竜に対し、どれだけの効果があるかは、絶対的な自信はありません。 やった事のある人物はいませんからね。」

「簡単に言うけどよ、もしその毒が効かなかったらどうすんだ? 俺達全滅しちまうぜ?」

ラテルの言う事ももっともなので、ロスカはにこやかに頷いて答えた。

「そうなりますね。」

「そうなりますねって簡単に言う事か!?」

「ですが、竜退治というものは、そのくらいのリスクはどのレベルでもあるものです。 ですから、ドラゴンスレイヤーの称号は重いのです。 ましてや地竜ではなく、銀竜ともなれば、世界に1匹しかいない上に最強のレベルです。 これほどの名声を手に入れるためには、その程度のリスクは当然ありますよ。 どうしますか? それでもやりますか? 私は最初、ポルコに話を持ちかけられた時、あまりに途方もない話と聞き流しましたが。」

そう決断を促され、3人は考え込む。

そして、最初にラテルが、次いでフーニスが、ルーケを見る。

ルーケは仲間の視線を感じつつ、それでも迷っていた。

「ま、普通はやめるけどね。 銀竜倒したって、ルーケに彼女が出来て終わりじゃない。 それに、どうやって銀竜を倒したって証明するのさ? まさか、巨大な荷車に頭切り落として運んで来るのかい?」

「その心配はありませんよ、フーニス。 竜は己の姿を封じ込めた、竜玉りゅうぎょくを体内に持っています。 喉の下の辺りですね。 大きさは拳程度ですから、それを持ち帰ればいいのです。 トラーポ王に見せれば、報酬は思いのままだそうですよ。」

「って事は、リスクを冒してもドラゴンスレイヤーの称号を手に入れるか、大人しく死ぬのを待って取りに行くか、どっちかだな?」

「生憎、竜玉は竜の生命活動が停止した途端、溶けてしまうそうです。 手に入れる為には、倒すしかありません。」

知恵を振り絞り、やっと2択に絞った途端に否定され、ラテルは天を仰ぐ。

「どうすんだい? ルーケ。 あんたに決断は任せるよ。 あたしはそれに従う。」

「私も従いますよ。」

「しゃあねぇ、俺も付き合うぜ。 フーニスと別れるのは寂しいからな。」

「何言ってんだい。 あんたの女にゃ、死んでもならないよ。 で、どうすんだい?」

ルーケは俯いて話を聞いていたが、スッと顔を上げると力強く答えた。

「最初から答えは決めている。 力を貸してくれ、みんな。 銀竜を、倒す。」

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