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愚者の舞い 3−19

 邪神とまで言われるだけあって、それでもレッドキャップは余裕の笑みを浮かべた。

「確かにそれは痛い。 だが、我が身に当たらなければ意味はない。」

まるで、そう主張するように。

そしてラテルが剣を振り下ろすと同時に、素早く斧を手放してラテルの足元に転がり込みその剣戟を避け、足元をそのまますり抜けてフーニスに飛び付く。

素早さがうりのフーニスでさえ、回避できない素早さだった。

レッドキャップはフーニスの正面から飛び付き、左肩を掴むと、そこを支点として背中に張り付き、いつの間に取り出したのか、右手に持っていた錆びたダガーを喉に突き付ける。

「ゲッゲッゲッゲッゲ。」

しゃがれた蛙の鳴き声のような笑い声を上げ、レッドキャップはルーケとラテルを挑発的に見詰めつつ、クイクイっと、いつでも刺せると示して見せた。

「フーニス! ちっくしょう、すばしっこい奴だ!」

ロスカは何か魔法をかけるべきか悩み、ルーケを見ると、ルーケはその視線に気が付き、軽く首を横に振った。

剣は壁に突き立ったままで、レッドキャップの斧がぶら下がって揺れている。

「・・・ロスカ。 レッドキャップの事をどの程度知っている?」

「どの程度と言われましても、普通に知られている程度ですね。 あまりに強いために邪神とも呼ばれ、倒したと言う話も無く、現状でほぼ最強と。 ただ、慈愛の女神ボニートを讃える歌を嫌悪するため、信仰する神官の追及を逃れるべく、あちこち定住する事無く放浪していると。 被害者の傍には、必ず自分の歯を抜いて置いて行く、その程度です。」

「あとは、被害者の血で染めたローブや大きな尖がり帽子を被っているってところか?」

「そうですね。」

「じゃあ、俺が初めて倒す人間に成るな。」

そう言いながらルーケは、右手に持っていた聖水の入った筒の栓を、片手で器用に抜いた。

それを見たレッドキャップはあからさまに動揺し、フーニスの喉を少し切ってしまい、フーニスが痛みに顔を歪める。

「呪いから解放してやるぜ。 レッドキャップ!!」

ルーケはそう言うと、剣にぶら下がっていたままの斧に聖水を振りかけた。

「ギャーーーー!!!!!!」

その途端、斧が絶叫を上げた。

斧本体に顔が浮かび上がり、苦しげに。

「メフィスト、プリと言う、始原の悪魔の異母妹弟と共に暮らしていたボニートを、聖魔戦争の時に襲った一人さ。 慈愛の女神と言われたボニートだが、花園を焼かれ激怒し、襲って来た始原の神の子、つまり、今天界に住む神々だが、そいつらを殲滅した。 だが、花園を守ろうとした姉であるプリを、目の前で焼き殺されたと思ったメフィストは、ボニートに敵わぬと逃げた連中に呪いをかけ、悲しみと怒りと恨みを抱え、魔界へと行った。」

「・・・では、本当に神の・・・それに、メフィスト・・・?」

「そう、神の一人だ。 だが、メフィストにかけられた呪いのため、聖属性である神も魔属性に変えられた。 だから、聖水が効くのさ。」

「メフィスト・・・地獄の侯爵・・・ですか?」

「他にも色々呼ばれる、魔界の大臣の一人さ。」

ガラン、と、斧がボロボロに朽ち果てて床に落ちた。

フーニスの背中に張り付いていたレッドキャップは、いつの間にか消えていた。

「たとえ神と言われようと、腐った奴にはお似合いの最後だな。」

ルーケは斧の残骸にそう言い捨てると、仲間達の方へ振り返った。

「ロスカ、フーニス、雨が止んだら、穴が掘れる物を探して来てくれないか? ラテル。 一緒に、掘ろう。」

ラテルは母娘の遺体を痛ましげに見つつ、小さく頷いた。


 ミカは巫女になるなり、格闘技術はもとより、知識も貪欲に求め始めた。

「黒魔術を教えて下さい!!」

いつも通り突然現れ、クーナの胸をまず揉みあげた瞬間言われ、アラムはおろか、竜巫女3人も硬直する。

「・・・いいよ。 けど・・・」

ブンッと、空を割くクーナの蹴りをヒラリと避け、こめかみをポリポリと掻きつつ困る。

「教えていいのか? アクティース。」

いつの間に来ていたのか、艶然と微笑みながら、アクティースは壁に寄りかかって立っていた。

「構わんぞ? わらわにはどうでもよい事じゃ。 本人がやりたいならやればよい。」

「簡単に言うけどよ。 魔法は格闘術と違って、つきっきりじゃないとならんのだが・・・それでもいいのか?」

「構わぬが? お主が今さら、ミカに手出しするとも思えぬしな。」

「通えってか? 預かった方が早いぞ。」

流石に込み入った話なので、クーナは不満そうだが手出しを控え、巫女達は成り行きを眺め、ミカは真剣な眼差しで2人を交互に見つめる。

「真剣に魔術を覚えたいなら教えるのは構わんが、基礎だけだ。 後は魔術書やるから勝手に覚えな。 だが、その基礎を学ぶのに俺の所で勉強に励まないといかん。 適当に教えて覚えるものではないからな。 どうする? 来るなら教えてやるが?」

ミカは神殿を離れる事になると聞いて、迷うようにアクティースを見ると、アクティースは軽く頷いた。

「お願いします。」

アクティースが認めた以上、迷いはなかった。


 スピョ〜っと、安らかな寝息を立てる巫女達。

その傍らで、二人の強大な力の持ち主は平然と酒を飲んでいた。

「で、俺を呼んだのはなんだ?」

二人がかりで4人の巫女を酔い潰してから、平然と問いかける。

今回はアクティースが呼んだために来たのだ。

だが、その理由はミカの事ではあるまい。

「まあ、ミカの事もあるのじゃがな。 最近、魔法を教えてほしいと言ってくるのでな。」

「面倒臭がらずに教えてやりゃいいじゃねぇか。 俺が勢い余って押し倒しちゃったら、死ぬんだぞ? お前の巫女制約によって。」

ミカには強制解除と簡単に言ったが、本当は大概死ぬ。

アクティースが自分の意思で解除したなら生気は自分で戻って来る事になり、巫女だった娘は死ぬ事がないようになっている。

理屈は知らないが。

だが、制約していた内容を巫女が破った場合は、話は別だ。

全身くまなく融合していた竜の生気が無理やり引き剥がされるので、全身から血を噴き出して死ぬ事になる。

まれに生き残る者もいる、と言う事実があるので、確実ではないが。

「・・・お前に頼みがある。」

「なんでい、改まって。 立派な女にして欲しいってか?」

「阿呆。 調べて欲しい事があるのじゃ。」

「・・・? まあ、いいけどな。 で、何を調べろと?」

アクティースは暫し悩んだ末に内容を伝え、その内容に流石のアラムも苦い顔になる。

「ま〜た前例がなく小難しい事を。 ユグドラシルでもしらねぇと思うぞ。」

「じゃからお前に頼んでおるのじゃ。 頼めぬか?」

「・・・調べる事は調べてやるが・・・本人にとって、嬉しい事かね? もし、方法があったとしても、だ。」

「もし、そうなった後で本人がどうしても死にたいと言うなら、わらわはそれを受け入れよう。 じゃが、わらわの元に来る事はないと、教えてほしいものじゃな。」

「自分で言えよ、そんなこたぁ。」

気の強いアクティースの、意外としおらしい一面を見て、死期を目前にして若返りでもしたのかな? 

と、アラムは思った。

ユグドラシルに引き合わされた時、まだリーダーであったメガロスなども若かった。

若さゆえに滅びを甘受できず、故郷の世界を飛び出した竜達・・・。

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