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愚者の舞い 3−15

これらの技は、体内にある魔力と気を練り合わせて活性化させ、四肢の一部分にだけ集中して放つ技である。

体はなんとか砕け散らずに持ちこたえたが、服は当然ただの布であるため、当然のようにもたなかったのだ。

そのため、見事に腹部を中心にズタズタに切り裂かれ、ぼろ布と化し、ほぼ素っ裸となり果てていた。

「そこまで、勝負は引き分け。 しかし、こんな破壊力のある技を身につけても・・・。」

「強ければ強いほどいいじゃない? ねぇ〜メレンダ。」

「そ〜よね〜ルパちゃん♪」

「私達は護身術として、格闘技術を身につけているのです。 過ぎたる力は、身を滅ぼしかねないのですよ?」

「力こそ正義よっ!」

邪魔になったぼろ布の服を脱ぎ捨て、既に裸だと言う事を忘れたように、ルパは肩幅に足を広げて天に向けて右拳を突き上げ、左手は腰、顔は突き上げた拳を見上げる。

「キャ〜! ルパちゃんカッコいぃ〜!!」

メレンダも既に隠す事を忘れていつもと変わらない。

そんな2人を見ながら、なんでこんな強力な技を魔王は突然教えに来たのか、理解できずに考え込む。

「クーナちゃん??」

そんなクーナを、いつの間にかルパが覗き込んでいた。

「・・・なんでもありません。 そろそろメガロス様のところに、着いたのでしょうか、と、考えていたのです。」

「ミカちゃん、幸せになれるといいね〜ルパちゃん。」

「なれるでしょ。 一回会った事あるけど、素敵な紳士だったわよ?」

「それはそうと2人とも、いい加減に服を・・・」

クーナがそう言いかけた、そんな時。

「まいど〜、おとどけ・・・にぃ!?」

ルーケが荷車引いて現れ、硬直する。

「「ギャ〜! 豪掌斬破ぁ!!」」

「ノハァ〜〜〜〜〜〜!!」


 よく生きていたものだと感心しつつ、クーナはルーケの手当てをしていた。

「2人とも、相手は通常ではないかもしれませんが普通の人間なんですから、手加減をしないと駄目ですよ?」

「「は〜い・・・。」」

通常ではない、と、言われて、ルーケは苦虫を噛み潰したような顔になる。

確かに、元魔王の下で修行し、通常ではない知識と力を手に入れてはいる。

鍛え抜かれていたからこそ、即死必死の2人の技にも咄嗟に後ろに飛んでダメージを軽減し、なんとか生き延びる事が出来たのだ。

ただ、腰の小袋に入れていた癒しの玉は、砕け散ってしまったが。

もしかしたら、癒しの玉が守ってくれたのかもしれない。

「しかし、間の悪い。 ところで、魔王様がこの間来たばかりですが、今日は一緒ではないのですか?」

「実は・・・弟子を解雇されてしまいまして。」

クーナはそう聞いてキョトンとし、横で聞いていたルパがニタァと笑いながら、

「魔王の女に、手でも出したの?」

「それなら生きていませんよ。 既に。」

思わず苦笑いを浮かべる。

「意見の不一致から口論になってしまいまして。 改めて言い渡されてしまいました。」

「それはまた、大変でしょう?。」

「今は冒険者をやってますのでなんとか。 今日の荷物運搬も、プレシャス商事という師匠の商会の依頼で運んで来たんです。 実質、師匠からの依頼ですね。」

「ねぇルパちゃん。 不肖の弟子に依頼するなんて、どれだけ私達適当な扱いなのかしら。」

「不肖って。」

「2人とも、無駄話してないで、無事な荷物の確認をしてきなさい。」

「「は〜い。」」

2人の奥儀技で、荷車は荷物ごと、3分の1が破壊されていた。

「さて、これで終わりです。」

そう言いながら、軟膏の蓋を閉めて、ルーケの背中を軽く叩く。

「すいません、クーナさん。」

「いえ、こちらの不手際ですから。 もうちょっと回復魔法を使えると良かったんですが、学ぶ機会が限られるもので。」

「それでもだいぶましですよ。 白魔法は独学なんですか?」

「いえ、昔住んでいた近くに、魔法使いが住んでいたのです。 それで少し教えていただいたのですが・・・まもなく巫女になったものですから。」

何となく貴族だった事は隠したくて、クーナはそう答える。

「なるほど。 じゃあ、初級の傷の治療しかできないんですか?」

「ええ。 まあ、私達は病気などにも強いですし、怪我もほとんど治す必要がないので、これ以上学ぶ必要もないんですけどね。」

「ここには、魔法書とか無いんですか?」

「ご主人様が、白以外は全て習得していますから。 望めば魔王様が持って来てくれるでしょうが・・・もう学ぶ必要もありませんし。」

「いやいや、長く生きる事が出来るんですから、なにかあった時のために覚えておいた方がいいですよ。 白に限らず、魔法全般とか。」

「そう・・・でも、ないんですよ?」

「そうなんですか?」

クーナは少し寂しげに微笑むと、ルーケのシャツをちょっと引っ張る。

「やはり、私のシャツでは少し小さいみたいですね。」

ルーケは皮鎧を着ていたために、服が全て吹き飛ぶことはなかったが、鎧の下に着ていた鎧下よろいしたと言う厚手の服はボロボロになってしまった。

そのため、比較的体格の近いクーナが、古いシャツを代わりに提供したのだ。

「いえ、そんな事もないです。 助かります。 それに、いい匂いがします。」

そうかな? と、自分でも胸元を引っ張ってみた時、ほのかに女性特有のいい匂いがしたので思わずそう口走る。

「あら。 洗濯が足りなかったかしら? ごめんなさい、代わりの・・・」

「いえいえ! これでいいですっ! くさいってわけじゃないです、ただ、なんというか、甘い匂いと言うか・・・。」

思わず服の匂いを嗅ぎ直しつつ、ルーケは母親の匂い、と、表現しそうになってやめた。

若い娘にとっては、褒め言葉とは思えなかったからだ。

ただ、魔王の元で修行してきた間、ルーケは別空間で暮らす事になり、次元から切り離された結界の中で、時間の経過がほぼ止まってしまっていた。

だからルーケは、いまだ若いままだが、現実の世界ではけっこうな時間が過ぎ去っている。

知人や友人など、最早この世に誰も存在しないであろう。

70年も生きれば、長生きと言われる時代なのだ。

それゆえ、なんとなく懐かしく思った。

理由は違えど、ルーケもこの竜巫女達とあまり変わらないのだ。

ただ、世界を救うための力と知識は、通常の世界に生きる者達とはかけ離れた量を手に入れる事が出来た。

無敵と言ってもいい。

あと必要なのは名声だけだ、と、ルーケは思っていた。

それゆえに、クーナ達が無為に過ごしているのが釈然としなかったのだ。

「・・・あまり、嗅がないでいただけますか?」

ちょっと恥ずかしげにクーナに言われ、ハッと気が付いてシャツを放す。

「今、お茶を入れますね。」

そう言って立ち上がったクーナから、今まで気にしていなかった女性の匂いを感じた。

「あ、すいません。 いただきます。」

別室に消え去るその背を、ルーケは複雑な眼差しで見つめるのだった。

私事ですが

GW間 不在します

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