表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/40

愚者の舞い 3−12

 ミカは、思わず胸を抱えて一歩後ずさり、メガロスは苦笑いを浮かべる。

「人聞きの悪い事をぬかすな。」

そう言いつつ、指を軽く横に振って、小さなテーブルと椅子を2脚出す。

そこへアレーヌが戻って来た。

「アレーヌ、暫し相方の相手をしていてくれ。 こやつが同席していてはまた興奮しかねんからな。」

「は〜い、ご主人様ぁ♪ アクティース様ぁ、緑のお茶と紅いお茶、黒いお茶、どれがいいですかぁ?」

「・・・また、微妙な選択じゃな。 一番美味いのを所望しようかの。」

「どれも最高級品で美味しいですよぉ♪」

「では、全部貰おうかの。」

「承知いたしましたぁ♪」

そんな会話を背に聞きながら、メガロスに導かれて隣の小部屋に入り、ミカはメガロスの向かいに座ったまま、何を聞いたらいいのか暫し考え込んだ。

だが、それを見越したメガロスが先に口を開いた。

「この世界に住む生物全ては、死後の事を知らぬ。」

「え? はい・・・そうですね・・・?」

「それを知っているのは限られた、極一部の神と呼ばれる連中だけだろう。 わしらは縁がないので知らぬがな。」

「では、メガロス様達も、死んだらどうなるか知らないのですか?」

「わしらが死んだらどうなるか、それは知っておる。 故郷の世界にまだ存在する、竜の聖地と呼んでいる場所に魂が行くのだ。 そこで転生するまで、静かに時を待つ事になる。 次に何に生まれ変わるかまでは分らぬがな。 わしも死んだらそこへ行くし、アクティースも同じ事。 その後、ワームになるか、同じ黄金竜になるかは、分からぬが。」

「それは・・・言い伝えとか、そういうものなんですか? そう聞いている、と、言うような。」

「違う。 わしらは実際に見る事・行く事ができるのだ。 まあ、説明しても理解できまい。 ともかく、わしら竜族は、生まれる前から人間で言う運命がほぼ決まっておる。 ただ、生きている間はいつ死ぬかは死期が近づくまで分らんがな。 その命数が、アクティースは尽きようとしているのだ。」

「アクティース様が・・・死ぬ・・・? アクティース様が死ぬ!?」

「そうだ。 竜巫女についてどの程度知っているか知らぬが、契を交わした巫女は主人である竜と運命を共にする事になる。 命が尽きれば共に死ぬ。 それゆえアクティースは、お前をわしに寄越そうとした。 もう長くない自分に仕えるよりは、と。 あいつなりの優しさだが・・・お前には邪魔だったようだな。」

「・・・アクティース様が・・・死ぬ・・・。 そんな・・・それじゃ、国は・・・私の国は、どうなるのですか?」

「弱きは滅びる。 自然の流れに戻るだけだ。」

アクティースが死ねば、ミカは生きる場所が無くなるだけではなく、守護のいなくなった故郷もほぼ間違いなく滅びる。

ルセは平和で西の王国内では豊かな方だが、小国である。

激動の中、生き残って来た他国に比べ、あまりにもか弱い存在なのだ。

誰かほかに助けてくれる存在を考えるが・・・そんな都合のいい、強大な力を持った者などいない。

だがそこで、ふと思い到った。

「あの・・・。」

「なにか?」

「命数って、つまり運命ですよね?」

「似て非なるものだがな。」

「命数が尽きようとしていると言われましたが、アクティース様はあのように元気でおられますが?」

「なにも長く病気を患って死ぬとは限らん。 誰かに倒されるのかもしれぬし、突然死もあり得る。 それに竜語魔法には、痛覚を感じなくさせる魔法もあるから、苦しんでいる姿を見せていないのかもしれん。 もし病死が定められた要因であれば、回復魔法は何故か効かぬから、すぐに悟るしな。」

「・・・つまり、現状では誰かに倒される可能性が高い、と・・・?」

「無い話ではなかろうな。 だが・・・あやつはわしに次ぐ力を持ち、故郷の世界から竜族をこの世界に導いて来た1人だ。 こう言ってはなんだが、人間ごときに倒される奴でもない。 突然コロリと逝くのではないかな。」

「・・・そうですか。」

「最終的な決断はお前がするがいい。 アクティースともそういう約束だ。 わしの所でも魔王の所でも、お前が望む所で住めるように計らうというのがな。」

「でも・・・なぜ私だけなんですか? クーナさん達は神殿において来たのに・・・。」

「あの娘達は、元々事故などで瀕死だったところを、アクティースが巫女にする事で生きながらえた娘達だ。 竜語魔法では、人間に回復魔法をかけても回復させる事が出来ぬからな。 それに十分、寿命以上に生きておる。 本人達を今さら巫女から解放しても、即、息絶えるか動けぬ老人になり果てる。 巫女を解いた瞬間、止まっていた時間が急速に押し寄せるからな。 それゆえに開放したくても出来ぬのだ。 それに対し、お前は現実にまだ若い。 巫女の契約もしておらん。 それゆえ手放したいのだろう。」

「・・・そう言う事ですか・・・。」

ミカは暫し沈黙し、聞いた話を頭の中でまとめ、いくつかメガロスに質問した。

そして、ミカは結論を導き出したのである。


 名を呼ばれたような気がして振り返ると、ポルコが離れた所から手を振っていた。

ロスカは久しぶりに会う、トラーポの商人の下へ歩み寄ると、軽く頭を下げた。

「お久しぶりですな、ロスカ殿。 以前お売りした本は役に立っておりますかな?」

「ポルコ殿こそ久しぶりですね。 なかなか興味深い内容で、毎日暇さえあれば読んでいますよ。 今日は、どこかと商談ですか?」

「ええ、その帰りだったんですが、お姿をお見かけしたもので。 商人として、売った物で満足していただけるのが嬉しいものですからね。」

「それにしても、よく入国できましたね。 今は厳戒態勢に無いとは言っても、簡単に入国は出来ないでしょう?」

ロスカが声を低めてそう聞くと、ポルコはニヤリと笑った。

トラーポ王国は、2年ほど前に侵略して来たので、両国間は険悪なままだ。

当然、商人であろうと易々と入国など出来ない。

「蛇の道は蛇と申しまして、色々手段はあるのですよ。 ところで、あの物語を気にいっていただけたのなら、こう言う話はいかがですかな。 ちょっと、御耳を拝借。」

ロスカは興味津々だったので、素直に耳を傾け、話を聞くのに集中する。

それから僅かに、驚いて顔が歪むが、すぐに平然とした表情になった。

「・・・いかがですかな?」

「ふむ・・・。 悪い話では無いかと思いますが・・・。」

「まあ、大急ぎで事を成す必要も無いですからな。 もし気が向いたらまた声をかけて下さい。」

そう言うと、ポルコは忙しそうに、足早に去って行った。

ロスカはその背を見送ると、家へと向けて歩き出すが・・・心はここにあらずだった。

「・・・銀竜を倒すなど・・・。」

夢物語もいいところだ、と、分かってはいるが、一抹の期待も拭い切れなかった為に。


 ちょうどその頃、同じリセの町中の別の場所。

ルーケとフーニスは、3人の男達と対峙していた。

相手は既に抜剣しているため、ルーケとフーニスもそれぞれ武器を抜く。

町中での刃物騒動は牢屋行きになりかねないが、非も無いのに切り殺されてやる気も無い。

「ほぉ。 やろうってのかいにぃちゃんよ。」

リーダーであろう、真ん中に立つ男が、そう言ってルーケを睨み付ける。

相手の持つ武器は、西の王国特有の刀。

恐らく、侍崩れの無頼漢だろう。

ルーケは腰にしがみ付く少女を、優しく放してフーニスに託すと、剣を身構えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ