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愚者の舞い 3−10

 最低でもなく高級でもない中くらいよりちょっとグレードの落ちる程度の宿。

一般庶民が普通に旅先で泊まる程度のグレードの宿だ。

その裏庭でポルンは一人、豆などを炒めてから磨り潰したり混ぜ合わせたりしていた。

「あんた、なにやってんのさ。」

「ほえ?」

声の主を見ると、別行動をとっていたシノンだった。

モリオンに弟子入りを断られた後、ポルンは町の外に行商する事もままらなないため、帝都内で薬を売り歩いていた。

ただ、材料も店から買うしかないため、そんなに儲けは無い。

「今晩お、シノンちゃ。 薬を調合してるお。」

「へぇ・・・。 そうやって作るんだ。」

「そうお。 こうやって炒る事によって磨り潰し易くて長持ちする薬が出来るお。 ・・・で、シノンちゃ、そんなとこでなにしてるお?」

シノンは宿を囲ってある壁の上から顔を出していたのだが・・・人間の背丈より高い。

いないとは言わないが、けっこう珍しい少女の覗き魔として通報されそうではある。

「べ、別に、暇だったからさ・・・。 ちょっと通りがかりに、変な事やってる奴がいたから思わず声をかけちまっただけだよ!」

ちょっと赤面しながらそう言いつつ、立ち去ろうとしたが。

グキュルルル〜・・・。

「シノンちゃ、お腹減ってるお? これでよければパンあ・・・」

「うっせぇな! 減ってなんかいねぇよ! 食い過ぎただけだ! それにお前に恵んでもらおうなんて思ってねぇよ!」

ポルンは暫し考えつつ、目の前で取り出したパンをほうばりながら考え、名案を思い付いた。

そのパンを見詰めるシノンの目が、雄弁に空腹を認めていたから。

「・・・シノンちゃ、暇お?」

「あ? ・・・まあ、散歩してるくらいだからな。」

本当は、深夜盗みに忍びこめる家を探して彷徨っていたのだが、そんな事言える筈もない。

「ちょっと手伝って欲しいお。 お金も少しなら出せるお。」

「・・・少しっていくらだよ。」

「うんと・・・ちょっと待つお。」

そう言いながら、脇に置いていた巨大な袋をゴソゴソと漁り。

「このくらいお。」

そう言って出して見せたのは、普通の成人が一日食べられる程度の金額だった。

「・・・おめぇ・・・金持ちだったんだな・・・。」

「働かざる者食うべからずだお。」

キラ〜ンと歯を光らせつつニヤッと笑ってみせる。

「ヘイヘイ。 で、なにすりゃいいんだ?」

「ちょっとおらの作ったこれ、食べてみてほしいお。」

「・・・お前が作った・・・?」

そう言いながらポルンが差し出したのは、小さな団子程度の塊。

「なんじゃこりゃ?」

「見たとおりだお。」

見た眼は小さい団子にしか見えないが、ほのかに漂ってくる柑橘系の香り。

それでいて食欲を誘うような甘い匂いもする。

前日から何も食べていないシノンにとっては食べ足りないが、協力すれば後でちゃんと食べれる。

そう考えると迷いも吹き飛び、ポイッと口に含み。

「オエェ〜! なんじゃこりゃ!?」

「やっぱ失敗だお〜・・・。 どんな味お?」

「どんなって・・・酸っぱくてもの凄く甘くって、口から味がまったく消えずに自己主張してストライキしてるような味だよ!!」

「やっぱ砂糖入れ過ぎたお。」

ポリポリと左手でこめかみをかきつつ右手で袋を漁ってお菓子を取り出しつつ左足で擂り鉢を挟んで固定し右足でゴリゴリと擂るポルンである。

プティ族の器用さ全開と言う感じだが・・・足で擂るなと猛烈に突っ込みたい衝動にはかられる。

何か考え事をしつつそのままの姿勢でゴリゴリと葉っぱと豆を擂りながら、無言でシノンにお菓子を差し出し、ウ〜ムと唸り。

「食っていいのか?」

コクリと無言でポルンは一つ頷く。

「あんがとよ。」

シノンが受け取った途端に何かを閃いたらしく、猛烈な勢いで擂り棒を手に持ち替えて擂り始め、擂り終わるなり白い粉やら何やら色々足して水を足し、再び団子を作り上げる。

「シノンちゃ、これならどうお?」

「・・・はや。 今度はまともなんだろうな?」

「自信があるお。」

再び、キラ〜ンと歯を光らせて笑顔を浮かべる。

「本当かよ・・・。」

半信半疑で再び団子をほうばり・・・そのまま白眼を剥いて倒れた。


 時折、ピチョンと水滴の落ちる音がして、洞窟内に響き渡る。

物音は他に足音だけで、光はミカの持つ明かりの魔法のかかった枯れ枝だけである。

「アクティース様、ここには誰が住んでいるんですか?」

「ほう、誰かいるのは感じるか。 ここは我らが頭領、メガロスの住処すみかじゃ。」

そう答えながらも、暗闇を見通す目を持つアクティースは躊躇なく洞窟内を進む。

やがて最奥に辿り着いた。

そこは何も無い、ただの行き止まりであった。

「・・・アクティース様・・・???」

どこにそんなものがと、問いかけようと主人を見上げると、アクティースはちょっと小首を傾げたまま突き当りの土壁を見つめ、やがて何か思いついたらしくコンコンと壁を叩く。

ミカの見る限り、壁は普通にただの土壁で、それ以外の何物にも見えないし、アクティースの叩く音を聞く限り人工で作られたものでもなさそうなのだが。

「メガロ〜ス。 わらわじゃ。 入れろ。」

思わず思考がぶっ飛ぶミカである。

頭領と言ってた人に向かって、入れろもないものである。

もっとも、双方共人ではないが。

「それとも、この結界を吹っ飛ばして入っていいかのぉ?」

ただの土壁に向かって言う主人を見上げつつ、ミカはどうしたものやらと思考を巡らす。

傍から見たら、気がふれてるとしか思えないし。

「・・・え? 結界??」

「そうじゃ。 以前来た時はこんなものは無かったからの。 なにかあったのか・・・それか、わらわを阻んでおるのか。 もし悪意ある理由ならば、わらわが大人しく引き下がる程度の輩かどうか、思い出してもらおうかの。」

だんだん反応がないため、イライラしてきたのだろう。

アクティースからストレートに殺気を感じ始める。

(う〜わ〜本気だよ〜どうしよう・・・。)

本気で対応に困っていたら、フッと壁が消え失せた。

そして、そこには・・・何と言ったらいいか、一人の少女がにこやかな笑顔を浮かべて立っていた。

外見は15歳くらいだが、もの凄くグラマラスな体形で露出の高い服を着ている。

しかも布地が薄く、裸体が透けて見えるほどだ。

それでいて顔立ちは整っていて、だが年齢が年齢だけに可愛いとも言えるし美人とも言える、なんとも表現しにくい少女だった。

「お久しぶりです、アクティース様。 ・・・あら? 今日は新しい巫女さんですかぁ? クーナちゃん達はお留守番ですかぁ?」

一礼して顔を上げた途端キョトンとしつつ、間延びした声を上げながら少女は首を傾げた。

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