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愚者の舞い 第3章 命を継ぐ者

 天界にも夜はある。

瞬く星を眺めながら、ボニートは身を寄せていた父が、怪訝な顔になったのに気が付いた。

「どうかなさいましたか?」

ボニート自慢の花園の中、花に囲まれ横になっていた2人。

並んで夜空を見上げていたのだが・・・。

「生き延びたか。」

アラムはそう言うと、ムクリと身を起こした。

「アクティースの新しい巫女の話はしたな。 その娘が死ぬ運命だったんだが、変わった。」

「あら。 それは良かったですね。」

「いいのか悪いのか。 俺にはどっちとも言えないな。 しかも関わっていたのがあの馬鹿弟子ときやがった。 ハルマといい、アクティースといい、あいつの命運に引っ張り込まれているんじゃあるまいな。」

そんな悩ましげな父を見上げていたが、ボニートは視線を星に戻した。

「生きると言う事は、私は素晴らしい事だと思います。 夫は魔界へ行き、父上も魔界へ行ってしまわれ、メフィストも・・・。 自然界に住むプリは死んでしまった。 生きていれば、こうしていつか、再会もできましょうし、楽しい事もあるでしょう。」

「だが、アクティースは近々死ぬ命運にある。 運命と違い、命運は変わらん。 あの娘が生き長らえても、アクティース次第で共に死ぬ事になる。」

「それを不幸と思いますか? たとえ短くとも、幸せな時を過ごせれば、それは幸せではありませんか?」

「だから、俺にはどっちとも言えないんだ。」

ルーケを生き返らせ、弟子にしたために起こった変化。

それゆえに、他人事に思えないのだろう。

慈愛の女神と呼ばれるボニートとしても、その変化が良いのか悪いのかはハッキリと言えるわけではない。

今のボニートにできるのは、好結果になる事を祈る事、ただ、それだけであった。

聖魔戦争で、天界での地位を追いやられた、自分には・・・。


 巫女服の、赤いミニスカートからスラリと伸びる白い足。

異国風で、少しきつい目つきと顔立ちだが、絶対に美人の領域に入るであろう整った美貌。

真黒い髪は腰付近まであり、艶やかで真っ直ぐ伸び、その精神を現しているようだ。

真実は分からないが、貴族女性のような気品と意思の強さを持つ娘。

(あんな美人の彼女がいたらなぁ。)

正直、そう思う。

だが、脳裏に浮かぶ美女は、高根の花どころか、伝説の天空に浮かぶ島の塔の天辺に咲く花より手に入れる事は難しいであろう。

なんせ彼女の主人は、この世のナンバー3の実力を持つ銀竜。

お付き合いしたいなどと言ったところで、絶対許可しないであろう。

先日、アクティースの裸に興味はないと言ったが、彼女なら・・・。

そんな考えに没頭していた時、視界いっぱいにフーニスの顔が現れた。

「・・・なんだい?」

「お。 今回は驚かなかったな。 フーニスの負けだ! ブアッハハハハ!」

「煩いラテル。」

一睨みで、酔って爆笑していたラテルが沈黙する。

ラテルが沈黙したのを確認した後、改めてルーケに向き直り、

「なににやけた面してんのさ。 人の話を聞いてんの?」

「ごめん、聞いて無かった。 とりあえず、席に戻ってくれないかな?」

正直、フーニスも美人であり、女シーフだけに目つきは鋭い。

クーナとは、また違った迫力がある。

そんなフーニスの怒り顔がすぐ間近にあるのは、ハッキリと心臓によろしくない。

フーニスは怒りが収まらないが、とりあえず自分の席に戻り、腰を落ち着けるが。

いつダガーを投げて来てもおかしくはない顔である。

「で、話って?」

「フーニスが、面白い話を聞いて来たんですよ。 なんでも、フォスル山に黄金のいっぱい貯め込まれた洞窟があるとか。」

「黄金・・・?」

ロスカの説明を聞いて、アクティースが寝ていた黄金の山を思い出すが。

「ちょっと待った、フーニス。 その洞窟の細部位置は分かっているのか?」

「一応、大体の場所は聞いて来たけど、細部は探さないとね。 細部まで場所が分かってたら、誰かしら既に持って行っちまってるしさ。 信憑性はあるだろ?」

「俺が思うに、その黄金は諦めた方がいいよ。」

「なんでさ?」

「恐らく、その黄金を守護しているのは、黄金竜だから。」

仲間3人は、それを聞いてギョッとする。

黄金竜、世界ナンバー2にして、竜族の最高位であり、指導者。

他のメンバーは、この自然界にいる始原の悪魔の存在を知らないので、世界最強と思っているだろう。

自然界に、黄金・銀の2竜あり、これ、世界最強成り とは、子供でも知っている事実である。

もっとも、お伽話として伝わっているのであり、どこに住んでいるかまで知る者は少ない。

伝説と言うほど不確かではないが、幻のような存在である事は確かで、実在しているのか疑う者もいる。

地方によっては、いまだにこの2竜は人の生贄を求め、食べていると恐れ、悪さをする子供に、生贄に差し出すぞ! と、脅すところもあるほどだ。

まあ、銀竜であるアクティースは、つい今年まで、その生贄を本当に求めていた訳だが。

「な、なんの根拠があるんだ?」

かなり乗り気だったのだろう、ラテルが信じられないと言わんばかりの顔で、そう聞いて来る。

「師匠に聞いた。 もし何か、どうしてもわからない出来事があった時、黄金竜メガロスに聞けと。 面白い話と引き換えに、知識を与えてもらえるだろうと。 そんな黄金竜が住んでいる場所に、そんな黄金を誰かが蓄えられるとは思えない。」

知能が高い黄金竜だが、竜の性質に漏れず、財宝や黄金が大好きなのだ。

そんな場所に、山賊かなんだか分からないが、そんな財宝など貯め込めるわけがない。

争い事を嫌うそうだから、もしかしたらいくばかの財宝と引き換えに、誰かが管理を頼んだのかもしれないが・・・人間に使われるなど、プライドが許さないだろうと思う。

「ガセではないですが、物騒な話ですね。 どうやら、何者かが悪意ある情報を流したと見た方が良さそうですね。」

「あ〜あ、これも駄目かぁ。」

あまり財宝に興味の無いロスカがそう結論付け、フーニスはガックリと意気消沈して背もたれにもたれかかり、天井を見上げる。

「おい、フーニス。 その情報はギルドだろ? 教えて来た方がよくねぇか? 聞き付けた連中が、餌になるかもしれんぞ。」

「・・・他人の事なんて知ったこっちゃないけど、多少の金にはなるか。」

ラテルの提案にフーニスはそう呟くと、重い足取りで酒場を出て行った。

そう言った有益情報は、情報料として金に成るのだ。

それにしても、と、ルーケはメガロスの話をしていて、アクティースの事を思い出す。

ミカを助けた翌朝、ルーケが目覚めたのはアクティースの寝室、つまり、財宝と黄金が山に成って積まれた宝物庫でもある。

アクティースも金銀財宝が大好きで、財宝の山に埋もれるように寝ていた。

正直言うと、痛くはないのだろうかと最初思った。

「わらわの寝所で、良く眠れたか?」

慈母。

まさにそう表現する以外、思い浮かばないほど優しいアクティースの声に、ルーケとしては心底緊張した。

正直、次の瞬間には食べられると思った。

普段とは、あまりにも違う態度と声だけに。

事情を知らないのだから、仕方がないだろうが・・・。

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