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心を失った僕に

僕には心がない。


 一年前、僕は道路に飛び出した女の子を庇って車にひかれた。


 一ヶ月以上意識がなかったものの幸いにも命には別状がなかった。

しかし、この交通事故がきっかけで脳にダメージがおよび感情を失ってしまったのだ。


僕は心を失った。


 その後、母さんが死んだ。父さんは心不全と言ってはいたが、多分嘘だろう。わかってしまう。なぜなら、父さんの目は死んでいたのだから。


 周りが泣いているなか、僕は涙が出てこなかった。

 悲しさも、悔しさも湧いてはこなかった。


 更にその後、父さんが死んだ。近くに遺書があったためすぐ自殺とわかった。

 遺書には


「あの子は人間じゃない。」


 多分、普通の人ならわかるだろう。でも、心のない僕にはわからなかった。

 

そして、父さんが死んだときも遺書を読んでいるときも涙は出てこなかった。


 心がない僕にとってすべての出来事がどうでもいい。興味がない。

なぜなら僕は嬉しいとも楽しとも悔しとも悲しいとも思わないからだ。


 僕の心も人生も無色だ。

だが透明ではない。

本当に透明であれば僕はとっくに死んでいる。


ただ一つだけ興味、いや気になることがある。


 あの助けた女の子はどうなったのだろう。

 なぜあの子は道路に飛び出したのだろう。


 退院したあと、あの子を探し出すため色々な人に聞いて回ったが会うことはできなかった。ただわかったことといえば、どこかに引っ越してしまったというこだけだった。

あの子はどこにいってしまったのだろう。


 あの子に会いたい。


 それだけが僕の人生が透明でない理由、生きている理由だ。


退院したあとは普通に学校に登校した。

最初はこれといった問題はなかった。

 しかし、なぜか友達は僕のまわりから淡々と去ってしまう。

多分、僕のことがうざいのだろう。

話していても少しも表情を変えないだから一緒にいてもつまらないのだろう。


 だが、いないわけでもない。

逆に毎日、話しかけてくれるやつもいる。

それが小学校からずっと一緒の明宏だ。

いつも元気で明るく前のクラスの中心的な存在だ。

なぜか登校するとき必ず挨拶してくる。理由は知らない。

 

 そして多分今日もだろう。


「おーい!おはよう!」


「おはよう…」

 

 このあとは毎度のごとく明宏が話題をだしてくる。

 正直どうでもいい。興味がない。

 そんなことはお構いなしに明宏は話を進める。

僕はてきとうに首をたてにふったりよこにふったりする。

すると、


「おはよーーー!!!」


 と、大声で叫びながらこちに走ってくる。


 春菜だ。

春菜はいつも明宏のことを追っかけている。

多分、明宏のことが好きなのだろう。

春菜も会話にはいってきて会話がさらに盛り上がる。

俺を除いてはな……


 そうこうしているうちにが学校についた。

門の近くに新しいクラス割が貼ってあって

僕はb組に対して春菜はa組、明宏はc組だった。

春菜はとても残念そうな顔をしていた。

僕が


「毎日一緒に登校するからいいだろ…」


というと少しだけ顔色がよくなった。


 教室にはいって自分の机を見つけて座りぼーっとする。

すると先生がはいってきた。


「えーっと、おはようございます。みなさんに転校生を紹介します。」


 この5月にはよくあることだろう。

教室のドアから転校生がはいってきた。


「はじめまして。東 千春です。よろしくお願いします。」


 きれいで白い肌、清楚で長い黒髪、整ったスタイル。まるで人形。

まちがいなく美少女だろう。

教室の男子が一斉に盛り上がりを見せるなか

僕だけは違った。


 俺と同じ目をしていた。

 彼女の目は死んでいたのだ。


 彼女は僕と一緒だ。


 この瞬間、僕の生きる理由が一つ増えた。


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