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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

二十歳の中卒、とあるお嬢様に助けられる

作者: 茂美坂 時春

「いってきます」


重い声で仕事に向かう俺


はあ、いつまでこんなのが続くんだろうな・・・

ため息をつきながら、現場に着く


「おはようさん、古宮」

「おはようございます、監督」

「骨組みもしっかり組み立てられたし、こっからが本番だぞ。気を抜くなよ!」


バンと肩を叩かれる

あの人の叩く威力は強い

肩が脱臼しそうだ


俺が仕事しているのは建築工事

今は15階建てのオフィスビルを建てている


要となる骨組みは昨日で終わらせ

今日から壁を組み立てたり、床の設置など目が回るほど忙しくなる


でも、今の俺にはそんな自信はない


何でかって?

それは、仕事が終わってからすぐに分かることだ


仕事が終わったのは、5時前だ

ここから地獄が始まる


現場から離れてすぐに

「おい、クソ兄貴」

「遅いわよ、馬鹿兄」


高校から帰ってきた二人の弟妹に絡まれる

「相変わらず、汚え格好だな。よくそんな仕事を選べたもんだな」

「お・・・、俺だって好きで・・・」

「あ?誰が口答えしていいと言ったんだ、コラ?友達に頼んで、このクソ兄貴の口閉じてやりてえな」

そう言って、弟は俺の胸や腹を数発殴る

あまりの痛さに倒れそうになるが

「ちょっと、倒れていいなんて言ってないわよね?あんたは、あたしたちには絶対に逆らえない。もっとも、あんたみたいなゴミはとっとと死ねばいいのよ」

「おい、美織。ゴミじゃなくて生ごみだ」

「そうだったわね、隆。生ごみは焼却炉で焼かれる運命なんだから」


二人に引きずられていく俺


家に着くなり

「遅い!何やってたんだ!」

「悪い父さん、この馬鹿兄貴が手こずらせた」

「何ぃ!?またお前の仕業か、遼太郎!」

「母さんからも言ってやってちょうだい!」

「まったく、あなたみたいなお荷物は本当にウザい。とっとと消えて」


家族みんなから毎日こんな仕打ちばかり

みんな寝る前には俺の腹を一発ずつ殴る


逆らおうとすれば数発追加される


俺の部屋はロフト

冬は特に寒い

布団もまともなものじゃなく

ボロボロの布団


風邪をひいても、誰も看病してもらえず

休もうと会社に連絡しても

「お前の収入が俺たちの生活に響くんだぞ!働け!」

と俺の容態を一切気にしない


ちなみにだが、親父は地方の銀行、お袋はスーパーでパートとして働いて

2つ下の双子の隆と美織は市内の名門校に通っていて、今年受験生だ

俺だって通いたかった

でも、二人は昔から俺より頭がよく、常に模試の成績は学年10位以内に入るほどの優秀さだ

褒められるのもいつも二人

俺には何の褒美もない

唯一あったのは、ケーキを一度だけ食べさせてくれたことだ


中三の面談で名門校以外の高校なら可能と言われたが

両親から

「この子は卒業して働くと言っていますので、高校にはいきません」

と俺の意志を完全に無視


就職して給料袋を持って帰っても

両親がふんだくり

「俺の給料だぞ、返してくれ!」

といっても

「五月蠅い!!」

すぐに殴られる

「お前の今月の分はこれだけだ」

渡されるのは諭吉1枚

「ど、どうして・・・そんなひどいことを・・・?」

「酷い?これはお前に対する愛情だよ」

「そうよ、あなたは長男だし私たちにお金をくれても構わないでしょ?」

「いいか、今後俺たちに逆らうようなら今よりももっとひどい目に遭わせてやるから覚悟しておけよ」

という始末


それに俺は、スマホや携帯を持っていない

というのも

親が留守中に警察に連絡しようとしても

隆と美織に止められ

その話をした結果

腐ったパンを食べさせられたという家族とは思えないお仕置きをされた

俺に行動をさせないためだった


俺は完全にこのクソ家族の奴隷だ


どうして、俺だけ・・・こんな目に・・・

俺って、何のために生まれてきたんだ・・・?


いつもいつも自分に問いかけていた


そんなある日


昼休みに入った時

「おい、古宮。お前を指名している女の子が来ているぞ」

監督からそう言われた


プレハブ小屋の前に制服姿の女子高生らしき女の子が立っていた

黒髪ロングで出ているところは出ていた

一瞬、見惚れてしまいそうだった


俺が来たことに気付くと

「あなたが、古宮遼太郎様でよろしいでしょうか?」

「・・・はい、そうですけど」

女の子はくすっと笑い

「私よりも年は上なのですから、ため口でも構いませんわよ?申し遅れました。私、幸田紗子と申します。あなたにお話が合って参りましたの」

「はあ・・・、とりあえずプレハブ小屋で話さないか?」

「ええ」


話し方がお嬢様っぽい

幸田・・・

どこかで聞いたことがある名前だ


座ってすぐに紗子さんは話し始める

「実は、あなたを我が幸田グループの社員として働いていただきたいという会長からの伝言を伝えに来ました」

「は、はい・・・?」


突然の申し入れに戸惑った

「大丈夫ですか?」


顔色をうかがうお嬢様

「あ、ああ・・・大丈夫。で、会長が俺を指名したと捉えていいのか?」

「勿論ですわ、そのためにここにいるんですもの」


幸田グループですぐに分かった

テレビのニュースで紹介していたが

日本でも10本の指に入るほどの大企業で

主に高校や大学といった学業に力を入れている


「でも、なんで俺を?俺なんて、中卒だぞ?」

「あら、あなたは会長でいらっしゃるお父様を助けたことが三回あるそうではないですか。もちろん、この私もですけどね」

「あ、ああ!!思い出した。君の顔で思い出した。俺が中三の時、君が不良に絡まれているところを助けたんだった。まあ、不良たちにはボコボコにされたけどな・・・」

「あの時は本当にありがとうございました。あの時の私は弱かった。でも、あなたが助けてくれたのがきっかけで強くならなきゃと決意しました」

「それは大げさじゃないか?」

「大げさじゃありません!私にとってはそれほど大きな出来事だったのですから」

「そうか・・・。でも、君のお父さんを三回も助けた事あったかな・・・?」


「お父様の写真ご覧になります?」

「うん」


そう言って、お嬢様はスマホを胸ポケットから取りだし

会長の写真を見せる


「あ!そうだ、この人も覚えてるよ。最初は自転車でけがしているところを助けて、2回目もまた自転車でけが。3回目は、重い荷物を一人で抱えていてフラフラと歩いていたから危なっかしいから俺も荷物を持って車まで運んだんだっけ」

「そうですわ。お父様もあなたの素敵な行動が今でも忘れられないと言っていました。あなたのような素晴らしい方をぜひともわが社に迎え入れてやりたいとずっと願っていました」

「俺だってはっきりと覚えてるんだから」

くすっと笑う


「でも、先ほどあなたは中卒と仰っていましたね。何故、高校や大学に行かなかったのですか?私はそれが非常に気になります」


やっぱりそうなるよな


でも、言ってもいいのかな?

少しだけ迷う


「何か話したらまずい事でもあるのですか?」

「・・・いや、そうではないんだけど」

「話しにくいのなら、話さなくても大丈夫です。今日は、伝言を伝えに来ただけですので。お返事は来週でもよろしいので」

「待って、やっぱり話すよ」


立ち上がるお嬢様を止める

「君にも俺の事情を知っておいた方がいいと思う」


俺はお嬢様にすべてを話した


話を終えると

お嬢様の手が震えていた


立ち上がり俺のところまで来る

顔を見ると涙を流している


ギョッとしている俺には気付かないまま

そっと抱きしめる


「よく・・・、よく我慢したのですね・・・」

「あ、あの・・・」

「でも、もう我慢しなくてもいいんですよ?私は、あなたをいじめたご家族を絶対に許しません。徹底的にやらせていただきます」

「え、ちょっと・・・?」

「遼太郎様は、悔しくないんですか?」


素朴な疑問を掛けられる

俺はすぐに答えた

「悔しいに決まってるだろ!この抑えきれないほどの悔しさ、あのクソ家族にも教えてやりたい!」

「その言葉だけで十分です。ここからは全ての事を私に任せてください」

「い、いいのか?」

「当たり前じゃないですか!先ほども申し上げましたが、徹底的にやります」


お嬢様の目は本気だ

俺には何の力もないから、クソ家族に制裁が下されるまで大人しくしていよう


お嬢様が言うには2,3日の準備が必要らしく

2週間後にまた伺うとの話になった


準備って、何を準備するんだろう?


その後も、いつも通りの日々が流れ

2週間が過ぎた


その日はちょうど土曜日

両親や弟妹は休みで俺は出勤


で、両親のもとに幸田家の使用人がやってきた

幸田グループと聞いて驚いていた

「そ、それで、何の用でしょうか?」

そわそわとしている親父

「そちらの隆様と美織様の事でお話をさせて頂きたく、皆さまを幸田家のお屋敷へとご案内いたします」


黒の高級車に乗って

東京ドーム10個分の広さを誇る幸田家の屋敷に着いた

屋敷の周辺にはSPが警戒に当たっている


「で、でかい・・・」

「圧倒されるわ」

あまりの広さに感動していた


「だんな様がこちらに来られるまでこの応接室でお待ちください」


待っている間

「なあ、お前ら二人を指名ってことは。幸田グループの一つ、幸田大学に入ってほしいって事じゃないのか?」

「もしかして、俺たちの成績を見ての事か?」

「私たちの日々の行動の良さも入っているのかしら?」

「それしか考えられないわよ。あの大学って、偏差値が70以上あるって聞いたから難関の一つだわ。すごいじゃない、あなたたち」

「もっと褒めて、母さん」

「隆もよく頑張ったな」

「でも父さん、あの大学って私立大学だろ?授業料とか高いんじゃないのか?」

「あのバカの給料を根こそぎ取っちまえば、何とか工面できるぞ」

「そうだな、あの馬鹿兄貴には金なんて必要ねえからな」

「それに、あの馬鹿兄は生命保険に加入しているのよね?馬鹿兄が病気か何かで死んだことにすれば、多額の保険金が受け取れるんじゃない?」

「名案だ、美織。じゃあ、この話が終わったら早速行動に移るぞ」


良からぬことを考えているクソ家族


そこへ一人の男性が入ってくる


「ようこそ、古宮さん。我が幸田家へ」

笑顔で出迎える

「はじめまして、私が幸田グループ会長を務めている幸田才太郎と申します」

「は、はじめまして、古宮英二です。こちらが妻の小百合、息子の隆と、娘の美織です」

「こちらまでご足労いただき、ありがとうございます」

「いえいえ。それで、隆と美織の事で話があると聞いたのですが」

「ええ、お二人は成績や学校での態度も大変優秀と耳にしましたので」


やはりそうかと

ニヤニヤとする親父


努力は必ず報われる

二人にはそう言い聞かせてきた

その日がとうとうやってきた


「ぜひとも、我が幸田大学で推薦で入学していただきたいと考えております」

「や、やったーーー!」

「お父さんの言う通りだった」

「あの、それは推薦入試を受けてからの話ですよね?」

「勿論です。ですが、お二人なら必ず受かると確信しています」


期待がどんどん膨らんでいく


だが・・・

会長の顔はすぐに険しくなる


「などと言うと思っていましたか?」


突拍子のない言葉に静まる


「あの・・・、隆と美織のことでの話では?」

「え?真に受けたんですか?」


何が何だか少しずつ分からなくなってくる

「お二人が推薦入試を受けることなんて不可能ですよ、最初から」

「なっ!?」


不可能?

あり得ない言葉だった


「何で不可能なんですか?」

「そうですよ、きちんと説明してください」

「説明の内容次第では、名誉棄損で訴えますよ?」

あまりの話に、家族は必死に対抗する


「お二人の事について調査をしたことは本当ですよ?ですが、それ以前の問題がありましてね」


才太郎さんはパンパンと手をたたき

ドアから俺とお嬢様が入ってくる


「なっ、遼太郎!?」

「な、何でここに?」

「仕事サボったのか?」

「最低な兄ね」


驚いている表情を見せる家族だが、俺は意外にも冷静だった

「皆さんは、長男である遼太郎君に暴力をふるっていることが日常茶飯事だそうですね」

「は?暴力?」

「そんな事するわけないじゃないですか」


知らんぷりをしている

本当にクズだな


「では、遼太郎君、君の上半身だけでもいいから見せてもらえるかな?」

「はい」


ドキッとした

やばいやばいやばいやばい!!

何か言い訳する言葉を考えろ


家族はそう思っているのをよそに俺は服を脱いだ


俺の体には蹴られた痕、殴られた痕が無数に残ってる

「これは全て、あなた方がやったんですよね?」

「違いますよ、これは遼太郎が務めている会社の人たちからの暴力ですよ」

「私たちには遼太郎にひどいことをした覚えはありません」


どこまでも否定する奴ら

怒りよりも呆れる


「遼太郎君の勤務先にもお話を伺いましたが、そんなことは一切なく、それどころかきちんと働いていると社長も彼の事を高く評価していました」

「では、誰が?」


才太郎さんはため息をつく

「ここまで来て、まだしらばっくれるとは天晴ですね」

「しらばっくれるなんて、人聞き悪い」

「そうですよ、本当に遼太郎には暴力なんてしていません」


「これを見てもそう言い切れますか?」

才太郎さんは手に持っていたタブレット端末である映像を流す


そこには俺を殴る、蹴るといった暴力が生々しく記録されていた

みんなの顔もばっちり映っている


「な、何ですかこれは!?」

「見ての通り、あなた方が遼太郎君に暴力をふるっている映像ですよ。皆さんが不在の間にマイクロカメラを部屋のあちこちに設置させていただきました。もちろんこれは、遼太郎君に許可を頂いての事です」


そう、お嬢様が言っていた準備というのは

ちゃんとした記録を残すために最新鋭のマイクロカメラを10台ほど部屋の天井のかどっこに設置することだった

声もちゃんと記録されていた


「遼太郎、俺に内緒でこんなことを許可したなんてな、今ここでぶっ殺してやる!!」

俺に襲い掛かろうとしたが

数人のSPに押さえられる

「は、離せ!」

暴れる親父だが

SPの方が圧倒的に力が強く、抵抗できるわけがない


「こちらの映像、実はこの方々にも見ていただきました」

才太郎さんはまた手をパンパンと叩き

そこに俺の知らない人たちが入ってくる


「しゃ、社長!?」

「店長!?」

「「校長先生!!?」」


奴らの勤務先や高校のお偉方だ

「古宮、お前。まさか、こんな最低な事をしていたとはな。正直、幻滅だ」

「しゃ、社長。これは——―」

「言い訳する気か?見苦しい」

「しゃ—————」

「お前の声など聞きたくない!今日付けで懲戒解雇だ!二度とわが社に足を踏み入れるな!」


「古宮さん、あなたにはいずれ正社員として働いてもらおうと思っていたのに、残念です。もう二度とこないでください」

「そ、そんな・・・」


「隆君、美織さん。君たちは、何を学んだのかね?」

「そ、それは・・・」

「・・・」

校長先生の威圧感に押され、言葉を発することが出来ない

「こんな生徒がいたとなれば、学校としては大きな傷になる。それがどれだけ大変な事になるのか、考えてみたまえ」


自分たちは兄の事なんてこれっぽっちも考えていない

何も悪い事なんてしていない


そう口にしたかったが、うまくいかない


「私の口から告げるのも正直辛い。君たちを退学処分とする。最終学歴は、遼太郎君と同じ中卒になる」


4人は厳しい処罰を下され

膝をつく


「さて、こちらの映像ですが今から警察に証拠として提出させていただきます。自分たちが犯した罪、きちんと償いなさい」


才太郎さんはSPにタブレット端末を渡す


さらに追い打ちをかける

「それと、遼太郎君は幸田家の養子として迎え入れようと考えています」

「ちょっと待ってくれ!」

「遼太郎君があなたたちとの縁を切りたいと望んでいます」

「ええ、こんなクソみたいな家族、俺には必要ありません」


つまり、勘当だ

俺は、こんな奴ら家族だとは思わない

俺自身ずっと我慢してきたのは家族だからという考えがあった

でも、段々と薄れていき、今となっては何にも思わなくなった


反論すると思ったが、奴らは何も言わなかった


数時間後、警察が来て4人は傷害の罪で逮捕された


これからどうなるか、俺が知ってもどうでもいいと心底思った


それから才太郎さんから事情を聞かされた社長や監督は

「つらい思いをしてきたんだな。それに気付かなかった俺たちにも責任はある」

「無理に勤める必要はない。これからは、自分が望む働き方を見つけて来い」


二人とも理解のある人だ

その言葉を聞いただけで報われた


2か月後

様々な手続きを終えて

幸田グループに入社した

配属先は、事務課だ


「今日からに事務課に配属することになりました、古宮遼太郎です。どうぞ、よろしくお願いします」

社員の皆さんに挨拶をする

温かい拍手を受ける

俺の人生の新たな1ページが開いた瞬間だった

どうも、音聴走真改めて、茂美坂 時治です

ちょっと長めの短編を書きました

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