第9章(春雄)電磁”破”
太陽が空に顔を出してから少し経った頃。
鳴き始めたクマゼミの声を聞きながら、春雄は布団の上に座っていた。
頭がガンガンと揺れている。随分と気分の悪い目覚めだ。
春雄が目覚まし時計に目をやると、針は3時15分を指し示していた。
この時計、電池切れか。蝉が鳴いていることと外の明るさから判断するに、実際は朝の7時くらいだろう。
それにしてもなんなんだ、あの夢は。過去の記憶そのまま夢になるなんて。
あの夢を見たのはこれで2回目になる。けれども前回は明晰夢ではなかったし、今回の方が長く、より鮮明だった。
いや、あまりにも鮮明すぎた。夕陽に照らされる机の影。半開きになったロッカーの扉が軋む音。それらの存在が『これはただの夢ではない』と主張していた。
それになんだ、この頭痛。今まで20年生きてきて頭痛になったことはほとんどない。
根拠など何もないが、この頭痛はあの夢と関係しているに違いない。
今日は1限から講義がある。とはいえ講義を受けられるようなコンディションではない。今日は休もう。
しかし唯一頼れる敦志はその講義を取っていない。休むと単位が無くなりかねないのだが。
まあ、いい。後のことは後で考えよう。
春雄は枕元にあったリモコンを取り、テレビの電源を入れた。小さな液晶テレビに映ったのは朝のニュース番組であった。
『さて、本日のラッキー占いです。11位から……』
占いコーナーが始まろうとしていたその時、突然に画面が切り替わった。
画面には男性アナウンサーが映し出された。
『ラッキー占いの途中ですが、ただ今入りました緊急ニュースをお伝えします。8月4日、八王子市のエネルギー研究施設で、原因不明の電磁波が発生する事故がありました。この電磁波は人体に非常に有害であり、現在、研究施設にて原因究明中とのことです。また、被害者の把握、治療に関して、経済産業省より本日夕方に会見が開かれる予定です。繰り返します。8月……』
まさか。これは一体どういうことだ。8月4日、ならば4日前の出来事になる。緊急ニュース、ということは今発覚したのだろうか。
確かこの日、似た内容のニュース動画を敦志のスマートフォンで見た。
動画の出所はわからなかったが、その後同じ内容がテレビニュースなどで取り上げられることは一切なかった。その為、おそらく誰かが悪戯で作った偽のニュース動画だろうと敦志と話していた。
しかし悪戯などではなかった、ということになる。
ニュースに出ていたエネルギー研究施設は、大学と隣り合っていると言えるほど大学の近くにある。
もし本当にそんな事故が起きていたのだとしたら、その時大学にいた学生達は被害を受けているかもしれない。そもそも俺は部屋にいようが大学にいようが、あの研究施設とは常に数百メートルしか離れていない。
非常に有害、とアナウンサーは確かに言っていた。非常に有害、か。
その時、春雄のスマートフォンが震え、鳴り出した。スマートフォンの画面には『敦志』の文字と、電話着信を示す受話器のマーク。
『ニュース見たか? これ、あの、動画の』
敦志もテレビを見ていたようだ。相当慌てている。
「落ち着こう。まだ情報が少なくてよくわからない。あの時見た動画は悪戯じゃなかったんだな」
『とにかく今からそっちに行くから。アパートに行く。待ってて』
「うーん、そうだな。俺の部屋じゃなくて大学にしないか。大学に行けば分かることがあるかもしれない」
『うん、わかった。今家出るからまた連絡するよ』
そうして電話は切れた。
さて、先に大学に行って様子を見てみよう。混乱しているのか、それともほとんど学生は来ていないのか。
春雄は家を出る準備を始めた。
頭痛があるから今日は寝続けるつもりだったのだけれど。いや、仕方ない。状況が変わったのだから。




