第5章(楓)ミーティング
「さて、今回の新メニューだけど」と店長が説明を始めた。
楓は真面目にメモを取りながら説明を聞いているように装っていた。
閉店後にミーティングをするなんて冗談じゃない。終電の時間まであと1時間しかないじゃないか。終電を逃しちゃった、なんて言って秋山君と夜を過ごしちゃうようなことがあるのならいいけれど。
店長は続ける。
「この夏野菜のパスタは去年かなり売れ行きが良かったんだ。キッチン組は野菜の盛り付けに十分に気を使うように」
ミーティングとは名ばかりで、実質店長による指示会だ。まあさらに正確に言えば、本社からの指示メール読み上げ会だろうか。
それならメールを印刷して事務室に貼り出せばいいのに。
秋山が手を挙げて質問した。
「店長、このメニューがそこまで売れるのなら、ナスの在庫が足りなくなります。仕入量も増えるということですか?」
「その通りだ。去年はそれに気づかず大変な目にあったよ。去年も秋山がいてくれればそんなことにはならなかったな」
秋山君は本当に気が回る。その上仕事が丁寧でスムーズだ。かわいらしいルックスなのに、彼がキッチンにいるときといないときでは料理の提供スピードがまるで違う。
それに、聞いたところでは彼は音楽の仕事もしているみたい。大学も通っているのに、一体いつ寝ているのかな。
あ、そうだ。近いうちに美容室に行かないといけないんだった。
毛先は巻いているけれど、そうしなかったら肩にかかってしまう。綺麗な茶色も維持したいし、また染めてもらわないと。そうだ、明後日の休みに新しいスカートとブラウスも買いに行くことにしよう。
私は自分の顔が好きだ。目は大きくないけれど愛嬌があるし、鼻もそこまで高くないけれど不細工でもない。それにまあまあ小顔でバランスがいい。身長も高いわけではないからスタイルがいいとも言えないけれど、ほどよく小柄で女の子らしい。
ただいるだけで女の子扱いしてもらえる、そういう可愛らしさが私にはある。
『美人』なだけの連中になんて負けてたまるものですか。
店長はミーティングの書類をパチッとホチキスで留めた。
「まあ今日のミーティングはこんなところだ。皆、遅くまですまないな。帰りは気をつけてな」
そう言って店長は事務室へと戻った。
ミーティングが終わり、楓がミーティングで動かしたテーブルを元の位置に戻している時、肩をトントンと叩かれた。
楓が後ろを振り返ると優里がそこに立っていた。
「楓ちゃん、お疲れ様。一緒に帰らない?」
「優里さん、お疲れ様です。もちろんご一緒させてください」
優里さんは三年生で、秋山君と同じバンドサークルに入っている。
美人とは言えないかもしれないけれど、お洒落で、大人っぽくて、それでいて自由人で掴み所がなくて、ミステリアスな人だけれど優しい。
よくわからないところもあるけれど、私は少なからずそんな優里さんが好きだ。
どうやら秋山君と一緒にバンドをしているようで、正直羨ましい。私も楽器が演奏できたらなあ。
「ありがとう、楓ちゃん。さ、急ごっか。終電15分後だよ」と優里。
「すぐに向かいますので、先に行っててくださっても大丈夫ですよ、後は私だけでできますから」
楓はそう言いながらテーブルを動かしていた。
すると秋山が2人に近づきながら言った。
「楓さん、優里さん、終電でしょう? 僕は歩いて帰れますから、僕に任せてください」
それを聞いた優里はにこっと笑う。
「ありがとう秋山君。甘えちゃうね」
秋山はテーブルに手をかけ、動かし始めた。同時に彼は思い出したように言った。
「そういえば優里さん。例の、よく空き地にいる女の子ですけど、なんと敦志さんのお知り合いだったみたいです。そんなこともあるんですね」
「あら、そうだったの。敦志君に相談したのは正解だったね。じゃあ悪いけどお先に」
優里はそう言って店を出た。
私も秋山君にお礼、言わなくちゃ。
「ありがと、秋山君。またね」




