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手紙  作者: サワヤ
43/58

第43章(春雄)手書き

 春雄は実家のインターホンを押した。


 春雄にとっては聞き慣れた、こもったポーン、という音がスピーカーから鳴る。



 大学の周りも夜は静かだけれど、この辺りはさらに音がしないな。



『はい』


 お母さんの声だ。



「ちょっと帰ってきた」


『春雄!? ちょっと、帰るなら先に言いなさいよ。今開けるから』



 この実家に帰ってくるのも1年半ぶりか。なんだか不思議な気分だ。それまでは当たり前の日常だった実家や実家の周りも、そろそろ死ぬとなるとどこか感慨深いというか。



 玄関の扉が開いた。


「おかえり。何か食べる?」


「うん。適当に」





 カレーを食べた春雄は2階の自分の部屋に入った。


 ベッドも机もテレビも持って行ってしまったために、そこには小さなテーブルと本棚があるだけだったが。



 お母さん、事故のことについて何も言わなかったな。


 それより、とりあえず加奈に連絡してみないと。



 春雄は加奈に電話をかけた。


『はい。もしもし。どなた?』


「春雄だけれど。久しぶり」


『え! あ、いや、本当に久しぶり……。というか春雄、番号変えたでしょう! あんな事故があって心配で……!』


「大丈夫だ。すまない」


『春雄は大丈夫だったの?』


「まあ」


 そういうことにしておこう。


『それで? 何か用があるんでしょ? そうでもなかったら私に連絡なんてしないものね?』


「いや、うん。その通りで申し訳ないのだけれど。今さ、実家戻ってるんだ。葵の実家を教えてくれるか?」


『え、何? いいけど。葵になんかするつもり?』


「葵が行方不明になってさ」


『それで探してるのね。そういやあんた、葵と付き合えたの?』


「どう思う?」


『あり得ないね』


「流石です」


『まあ、そうね。明日駅に来なさい。一緒に行ってあげる』


「助かるよ……。俺一人じゃ怪しまれるもんな」


『それじゃ、13時に』


「了解した。ありがとう」


『……別に』


 加奈はそう言うと電話を切った。



 さて。とりあえずこれでいいとして。それにしても唯一の幼馴染がいてくれてよかった。加奈がいなければお手上げだったのだから。



 春雄は床に置いたスマートフォンを意味もなく見つめた。


 これは便利だ。電話もできるしメールもできる。世界中どこでも、いやまあ、だいたい世界中どこにいても、誰かとリアルタイムで連絡を取ることができる。


 しかし手紙は違う。リアルタイムではない。書き手から読み手にそのメッセージが届くまでには時間がかかるし、それをいつ読むかは読み手次第でもある。まあ、それはメールも同じか。



 就職活動では手書きで履歴書を書けだなんて言われているが、どう考えても効率的ではない。しかし。



 春雄は葵の置き手紙を小さなテーブルの上に広げた。


 葵の筆跡は初めて見たかもしれない。どうしてだろう。この文字を見ていると何か、あの教室で、『あの目』を見た時と同じ気分になる。


 手書きの文字は気持ちが伝わる、だなんて誰が言ったのだろうかと思っていた。字が上手い人もいれば下手な人もいる。手書きだからなんだというのか。そう思っていた。


 だがこの手紙を読むと、どうにもあながち間違いではないのかもしれない、そう思えてしまう。




 春雄は手紙を置いたまま、押入れから予備の布団を引っ張り出すのだった。



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