第40章(春雄)揺られて
春雄は東武東上線の電車に揺られていた。
窓の外は暗く、高い建物はほとんどない。車窓から点々と見える光だけが刹那的に流れていった。
大学に入ってから、群馬に帰るのは初めてだ。両親はまあ、俺が生きてさえいればいいというような考えだろうから、特に寂しいだとかは感じていないはずだ。
しかし、生きてさえいればいい、それすらもはや叶わなくなってしまった。本当に電磁波の影響で死ぬのか、それはわからない。
実際に亡くなってしまったのは、先週報道されていた心臓麻痺の人だけだ。とはいえ全てが杞憂でした、という結末にはならないことは確か。
世の中が今回の事故でこれだけの騒ぎになりながらも、2回しか連絡をしてこない両親だ。というより、お父さんに至っては1度も連絡してこない。とりあえずは好きにしろ、そういうことだろう。
そういえば、ここしばらくパチスロを打っていない。確か電磁波事故の前日、3万と少しを飲み込まれたのが最後だろうか。だとすると大体2ヶ月前になる。
もう二度と店に行かない、もうやめよう、幾度となく思っていたことだが、意味はなかった。気付いた時には再びあの悪魔の前に座っていた。
にも関わらず、あの事故が起きたことで何の努力もせずしてやめられたのだから、電磁波には多少感謝してもいいのかもしれない。
葵を探すのは、明日からになる。葵の実家がどこにあるかはわからないが、まあなんとかなるはずだ。おそらく実家にはいないだろうが、手がかりがあるかもしれない。とりあえずはそこからだ。
気にかかっていることがある。楓さんと別れたあの夜、頭の中に声が響いた。あの声は確かに葵の声だった。
あの声がなければテレビを点けることは無かっただろうし、あの時テレビを点けたことで心臓麻痺のニュースを知った。
電磁波の影響で、もし被害者同士にテレパシーのような能力が現れたとするなら(案外俺はオカルト好きなのかもしれない)、なぜそれは公表されないのか。そんな話は聞いたことがない。
石田を訪ねた時にこのことについても質問してみたが、まるでわからないようだった。おそらくは疲れや悩み、ストレスからくる幻聴を聞いたのだろうと。
春雄は目を瞑り、頭をかく。電車は鉢形駅で停車していた。
まあ、石田の言うことが正しいのだろう。ストレスを感じている自覚はないが、それなりには疲れているはず。普通ではないことがありすぎて、どこまでが現実でどこまでが現実ではないのか、境目がぼんやりとしてきているのかもしれない。テレパシーだとか、馬鹿げているにもほどがある。
ふと春雄の口元が緩み、笑みがこぼれた。
そういえば電磁波が飛んだ日、敦志が唐揚げ定食からのテレパシーだとかなんだとか言っていたな。俺が考えていることはふざけた敦志と同じレベルなのか。
そもそも、あれが仮に葵からのテレパシーだったとして、何故テレビをつけてと俺に伝えたのか。全く考えるに値しない。忘れよう。
春雄はトートバックから葵の置き手紙を取り出した。
俺にとっての葵は、ただの友達ではない。しかし葵にとっての俺はそうではない。そう思っていたのだが、この手紙を読むに、どうもそうではないような気がする。
この手紙の文章が意味するところはよくわからない。しかし葵はやはり誰かに助けを求めていて、その誰かはまだ誰でもない。
どうして葵は『あの目』をしていたのか。どうして葵は苦しんでいるのか。葵は何の助けを求めているのか。
俺はどうしたらいい。俺が葵を追いかけることに意味があるのか。わからない。それでも、俺ができることをするしかない。
電車は寄居駅に着く。春雄は乗り換えの為に電車を降りるのだった。




