表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手紙  作者: サワヤ
39/58

第39章(敦志)ただの4人目

 22時半を少し過ぎた頃、ジャズが流れる例のバーの中。カウンター席の一番端に楓、その隣に敦志が座っていた。



「ベースはライチで、なにか爽やかなものをお任せでお願いします」


 そう楓が言うと、若いバーテンダーはにこやかに頷いた。



 敦志はふう、と息をついてから、口を開いた。


「楓ちゃん」


「ん?」


「春雄に聞いたよ」


「別れたこと?」


「うん」


「そう。ふられちゃったみたい」


 そう言う楓は右手の人差し指をくるくると回していた。



「気にしてなさそうだね」


「まあね。そもそも私達、そんなに生きられないし」


「あと7年。割り切れてる?」


「まさか。敦志君だってそうでしょ?」


「ああ、怖い」


「私も」


 楓はくいっと首を右に傾けた後、いやだいやだという様に首を横に振った。



 そうだ。今日俺が気になっていたこと。


「楓ちゃん。今日はどうしてお誘いをくれたの?」


「聞いたの。敦志君、優里さんのことが好きなんでしょう」


「誰に聞いた?」


「秋山君」


「なんで知ってるんだろう」


「さあ」


 秋山に俺の話をしたことは無かったけれど。というより、特に誰にも話したことがない。何度もスタジオに3人で入っているうちに気付いたのだろうか。意外と察しのいい奴だ。



「まあ、そうだよ。でも相手にしてもらえなくてね」と敦志。


「訳わからないもの、あの人。告白はしたの?」


「したよ。もう1年前くらいかな」


 楓は目を少し見開いて敦志を見る。


「意外。一途なのね。いや、あれ? 敦志君って彼女いなかった?」


「いたよ。この1年の間に3人」


「……ああ。一途じゃなかった」


「そうだね」


 敦志と楓は顔を見合わせて笑った。



 するとバーテンダーが楓にカクテルを持ってきて、トン、とカウンターに置いた。それからカウンターの上を滑らせてカクテルグラスを楓に差し出す。



 楓はグラスを掴んで、くるっと小さく回してから言った。


「告白した時、優里さんはなんて?」


「私が大学を卒業するまで、私じゃない女の子を愛してあげて。それでもまだ好きでいてくれたら、その時は気持ちを受け入れるってさ」


 楓はため息をついた。


「何それ」


「お子ちゃまさん、もうちょっと頑張ってきてね、ってことじゃないかな」


「あの人はずっとそんな感じなのね。で、敦志君はその言葉を真に受けていろんな子と付き合ってるの?」


「うん」


「優里さんも優里さんなら、敦志君も敦志君だ」


「そうだね」


「それで今は、特に彼女がいないと」


「探してはいるんだけれどね」



 楓はカウンターの下にある右手をすっ、と敦志の太腿に寄せた。


「私と付き合う?」



 上手い。楓さんはここぞというタイミングを掴んでいる。あの奥手で面倒な春雄と簡単に付き合えた理由はこれか。実際、俺は楓さんの手のひらの上で、今見事に踊らされている。



 敦志はふっ、と笑みをこぼして言った。


「よろしく」


「こちらこそ」



 敦志と楓はグラスを合わせて、キン、という小さな音を響かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ