表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手紙  作者: サワヤ
37/58

第37章(春雄)手がかり

 春雄は自分のアパートの部屋で座っていた。


 ベッドに座るわけでもなく、座布団の上に座るわけでもなく、ただ部屋の真ん中で小さく座っていた。


 部屋の外ではつんと冷たい風がゆっくりと流れていて、春雄の部屋の窓を不規則に揺らしていた。




 17時か。日が暮れるのも随分と早くなった。


 もし葵が今もどこかへ向かって移動しているとするのなら、こうしてじっとしているのは得策ではない。しかしとにかく当てがない。葵はどこへ行ったのか。


 手がかりがあるとすればこの置き手紙だけ。この手紙は俺に宛てて書かれていた。ならば少なくとも、この近くに葵の頼る人間はいないということ。まあ簡単に予想できることだが。



 葵にはよく空を見る癖がある。それは空き地であったり、あるいはキャンパスで見かけても空を見上げていたりする。その行為の意味するところは俺にはわからない。単なる癖なのか、それとも意識しているのか。


 空。空に何か。いや、1人で考えていても仕方がない。とりあえずは。




 春雄はベッドの枕元に転がっていたスマートフォンを手に取り、電話をかけた。


 10秒経ち、20秒が経つと。


「ああ、敦志?」


『もしもし。どうしたよ相棒』


「今大丈夫か?」


『もちろんもちろん。ネズミも飛んで逃げるほど暇を持て余してたところ』


 意味がわからない。


「そうか。いや、実は葵が行方不明でさ。何か知らないかと思って」


『葵ちゃん行方不明? さあ、何も……。そう言われてみれば最近見ないな』


「そうだよな」


『心配だね。部屋にもいないってこと?』


「ああ」


『ん? ああ、え?』



 何だ。電話の向こうで敦志が誰かと話しているようだ。ああ、そうか。この時間は確かサークルの集まりがあったはず。敦志は暇だと言っていたが、気を使ってくれていたのか。



「すまない。もう電話は切るよ。何かあったら教えてくれると助かる」と春雄。


『いや、いや。ちょっと待って。秋山に代わる』


「秋山?」


『サークルの後輩。ほら、この間のライブでギターボーカルをやってた』


「ああ」



『代わりました、秋山です。葵さんを探しているんですか?』


「そうなんだ。数日前からどこかへ行ってしまったみたいで」


『やっぱり』


「何か知っている?」


『先週です。大宮駅で葵さんを見かけました』


「……大宮?」


『はい、埼玉の。僕はたまたま音楽の仕事でそこにいたんです。話しかけたんですが、無視されてしまって……』



 葵はそこにいるのだろうか。一体どうして。



「大宮か」


『それだけです。その時の葵さんは、なんだかすごく不思議な雰囲気でした。いや、いつも不思議なのですが、それとは何か違って。とにかく気にかかってはいたんです』


「わかった、ありがとう。何も分からなくて困っていたから助かったよ」


『いえ。春雄さん、でしたよね。あなたは葵さんの?』


「いや、そんなものじゃないよ。振られたばかりでね」


『それでもわかります。春雄さんはきっと、僕とは違う』


「どういう意味?」


『そのままの意味です。葵さん、見つかるといいですね』


「ああ」


『では』


 そこで電話は切れた。



 行ってみる価値はある。しかし先週そこで見かけたというだけでは、手がかりはまだ無いに等しい。しかし大宮にいたということは、少なくとも海外に行ったわけではなさそうだ。ここから空港に向かうのなら、大宮は通らない。まあ、他の場所を経由していたらわからないが。



 待てよ。大宮。飛行機ではない。しかし。


 そうか、新幹線。大宮から新幹線に乗った可能性ならある。それはつまり、おそらく。



 春雄はすっと立ち上がり、紺色のトートバッグの中に財布を入れる。棚の上にある鍵を手に取って、玄関へと向かうのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ