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手紙  作者: サワヤ
23/58

第23章(春雄)もう少し

「あの、どうしたの? それに、俺の部屋、知ってたっけ?」


「お話でもしようと思って」


「あ、ああ。上がりなよ」



 こんなことは今までなかった。葵が俺の部屋に訪ねてきたこと。それどころか葵が俺に会いにくること自体初めてだ。


 この1ヶ月、奇妙なことだらけだ。訳の分からない電磁波事故は起きるし、変な夢は見るし、楓さんと付き合うことになるし。



 葵は小綺麗なクリーム色のスニーカーを揃えて置き、スタスタと部屋の中へと入っていく。


 彼女は落ち着いたグレーチェックのロングスカートに、ベージュのトップスを合わせていた。



「あ、どこでも適当に座っていいよ。片付けてなくてごめん」


「わかった」


 葵はそう言うと、ベッドにストンと腰掛けた。



 あれ。俺は今、それほど緊張せずに葵と話せている。きっと楓さんのおかげだな。



「葵。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」


「紅茶」


「オッケー」



 春雄はガタガタと音を立てながら、ティーパックを出し、お湯を沸かす。



 それにしてもどうしたのだろう。何か話したいことでもあるのだろうか。まあ1ヶ月前の楓さんみたいなことは絶対無いと思うけれど。


 そもそもこんなに狭い所で葵と2人で話したことなんて今まであっただろうか。おそらく、いや間違いなく初めてだ。



「どうぞ。この部屋の場所は楓さんに教えてもらったの?」


 2杯の紅茶をテーブルに置きながら春雄は質問した。



「ううん。敦志君」


「ああ、そうだったんだね。ちょうど俺、暇してたんだ。話し相手が来てくれて良かったよ」



 煙草を買いに行こうとしていたことなど、もうどうでもいいことだ。



「私」


「うん?」


「私はね、あと半年だって」


「何が?」


「電磁波。私は3月に死ぬの」



 半年。


 半年だと。嘘だ。そんなに短い宣告を受けたなんて話は聞いたことがない。ほとんどは7年か10年くらいで、俺の3年だって相当に珍しい方だ。


 しかも3月なら実際にはもう半年もない。そんな。そんなこと。



「俺は、3年なんだ」


「そっか。ごめんね」


「どうして謝るの?」


「わからない。でも、春雄くんが悲しそうな顔をしてたから」



 俺はそんな表情をしていたのだろうか。何にせよ、葵に余計な気を使わせたくはない。それにせっかく来てくれたんだ。明るい話をした方が。



 いや、待て。葵はこの話をする為にここに来たのかもしれない。でも、それならば何故俺に相談なんて……。


 確かに、同じ高校出身の同級生は他にいない。それに葵の友達と呼べるのは楓さんくらいのものだろう。葵が不安や恐怖を抱えて、誰にも相談できずにここに来たと考えるのは不自然ではない。



「怖い……よな。でも、実を言うと俺はあんまり気にしてなくて……。わかってあげられるかどうか」


 春雄の言葉を聞き、葵はぽかんとした表情をしていた。それからふふっと笑い、彼女は言った。


「変なの。私と一緒だね」


「えっ」


「あと半年で死ぬ。でもね、別に私はそれでいいの」



 そういうものなのか。だけど俺は。



「俺は、葵に生きててほしい」


「そう言ってくれると思った」


 葵はそう言って、何かを思い出しながら続けた。


「あの時、私は春雄くんに救われたの。だから、そのお礼を言いに来たんだ」


「あの時?」


「覚えてないならいいの。それだけ」


「ううむ」


「楓と付き合ってるんでしょう」


「楓さんに聞いたの?」


「ううん。わかるよ」


「ああ。付き合ってる」



 ということは、楓さんは何も言ってないのか。付き合うことになってから1ヶ月、楓さんは葵にそれを伝えてない。きっと何か理由があるんだろう。結局、葵は気付いていたようだけれど。



「大事にしてあげてね。多分、もう少しだと思うよ」


「もう少し?」


「うん。楓が春雄くんのことを大事に思ってくれるようになるまで」


「どういうこと?」


「あ、ごめんごめん。きっと今も大事にされてるよね。なんでもない」


 そう言って葵はまた笑った。



 相変わらず会話が会話にならない。常に葵の言葉の意味を想像する必要があるから。


 楓さんはどうやって葵と友達付き合いをしているのだろう。女子同士ならこれが普通なのだろうか。



「じゃあ、帰るね。紅茶、ありがとう」


 葵は突然に立ち上がり、春雄が気付いた時にはもうスニーカーを履いていた。



「えっと、ああ、どういたしまして。またいつでもおいで」


「もう来ないよ。楓に悪いから」



 葵は口数が少ないから誤解されがちだけれど、こうして人を気づかうことができる。そういえば今日は葵にしては珍しく、随分と話していたな。



「送ろうか?」


「ううん。1人で歩きたいから。それじゃ」


 葵は外に出て、ゆっくりとドアを閉めた。



 春雄は葵がいなくなった玄関を見る。そうしてそのまま、床にごろりと寝転がったのだった。


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