第20章(楓)勝ち星
バタバタと音を立てて、楓は服を段ボールに詰めていた。窓の外では橙色が空を覆っている。
昨日は出張でお父さんが家にいなかった。そうじゃなきゃ朝帰りなんてできるはずがないもの。お父さんに余計な心配はかけさせたくないし。
さて。
春雄君を落とすのはそんなに難しくないだろうと思ってはいたけれど、ここまであっさりいくと拍子抜けしちゃうな。
葵が春雄君のことを好きなように、春雄君も葵に対して特別な思いがあるのはおそらく間違いないはずなのに。まあそんなものか。
私と春雄君が付き合い始めたことを葵はまだ知らない。葵はどんな顔をするだろうか。いつもと変わらず無愛想に「そう」と言うのだろうか。
葵は私にとって、憧れであり、友達でもある。だからこそ、だからこそ私は、どんな手を使ってでも葵に勝つのだ。
1週間後には私は大学の近くで1人で生活することになる。葵や春雄君の近くで、私は大学生活を過ごす。
私は残された人生で、なるべくたくさんの勝ち星をあげたいんだ。
お母さんとお父さんは私がいなくて少し寂しくなるかもしれない。大学を卒業したら、実家から通えるところに就職しよう。のんびりと働いて、恋愛をして、私はもっと勝ち続けよう。
ああ、春雄君の扱いについても考えないとな。
春雄君と付き合い続けるというのは、まあ悪くはない。セックスはちょっと下手だけれど、話は合いそうだし。
というより多分童貞だったんだろうな。一丁前にゴムまで用意してあってちょっと笑いそうになってしまったのは内緒。
でも服装のセンスは早急に何とかしないと。とてもじゃないけれどあのダサさじゃ彼氏として友達に紹介できない。
とりあえずはこのまま春雄君と付き合って、様子を見よう。そうして生活する中で、いい人と出会えればいいな。
それにしても、なんで葵ほどの人が春雄君なのだろう。わからない。
葵は普通の恋愛経験が少なさそうだから、変な人に惹かれちゃったのかな。もしくは同じ高校に通ってた時に何かがあったのかもしれない。
まあその理由がなんであれ、葵の欲しがる春雄君は私のものになった。それが事実。それが重要。
私は、春雄君を取られてしまったと知った時の葵の表情が見たい。私が葵に勝てたということを確認したい。そんな負の欲望に、私は抗わない。私は私のしたいように生きる。
もう影でいるのはごめんだ。負け続けるのはまっぴらだ。
だけど、それはそれとして。葵は電磁波の被害を受けていないのだろうか。検査を受けていないと言っていたけれど、受けた方がいいのではないだろうか。
正直、心配だ。私には他人の心配をする余裕なんてない。でも葵は友達。それに私達は皆、被害者なんだ。どうしてこんな理不尽な目に遭わなくちゃいけないの。
そういえば春雄君はあと何年生きられるんだろう。春雄君が死ぬ時まで私がまだ付き合っているということはないから、どうでもいいことではあるけれど。今度一応聞いておこうかな。
秋山君とは言わなくとも、せめて敦志君と付き合えるならよかったのにな。敦志君かっこいいし。ところが現実は春雄君かあ。まあ春雄君だからこそ、こんなにスムーズに付き合えたのだけれど。
「ちょっと早いけど夜ご飯! 降りてきなさい」
階段の下で楓の母が言った。
「今行く!」
私の私による私の為の人生はまだこれからなの。私は私らしく。卑屈にならずに生ききってやる。




