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手紙  作者: サワヤ
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第10章(春雄)女の子らしい女の子

 暗い曇り空が大学へ向かって歩く春雄を覆う。夏の太陽を浴びて大きく育った道端の草が、今はただ押し黙って佇んでいた。



 アパートから大学までは歩いて数分の距離だったが、春雄は無意識に早足で歩いていた。



 テレビのニュースからは詳しいことが何もわからない。


 非常に有害と言っていたが、どのような症状が現れるのか。一体どのくらいの範囲で被害を受けているのか。俺は大丈夫なのか。大学にいた人達は無事なのか。


 そしてそれほどまでに情報が揃っていないにもかかわらず、緊急ニュースとしてテレビ放送された。


 それだけ重大な事故であるということなのか。そもそも事故発生から4日後になってようやく報道されたのは何故なのか。何もわからないままだ。



 敦志はおそらくあと1時間程で大学に着くだろう。あいつはしっかり者のようでいて、想定外の事が起きるとすぐに混乱する。


 敦志を落ち着かせる為にも、今は少しでも情報を得ておきたい。





 春雄は大学の南門に着くと、そのまま正門へと向かった。



 電車とモノレールで通学している学生のほとんどは正門から大学に入る。今は1限の講義を受ける学生が大学に着き始める時間帯だ。普段通りなら少なくない数の学生が歩いているだろう。



 春雄が正門近くに着くと、そこにはいつもと変わらない数の学生達が歩いていた。


 そして学生達の雰囲気もまた、普段の日常と変わりなかった。黙々と歩く人、友達と話しながら歩く人、スマートフォン片手にイヤホンをつけている人。



 杞憂だったのだろうか。SNSやテレビによって、あのニュースはほとんどの人が知っているはずなのだが。


 いや、あのニュースは緊急ニュースだった。つい十数分前のことだったから、電車に乗っていれば知らない人が多いのも無理はない。


 肩透かしを食らったような気分だ。とりあえず学食で朝ごはんでも食べよう。




 学食棟に入ろうとした時、春雄は後ろから声をかけられた。


「春雄君?」


 春雄は振り返り、声の主を見る。楓であった。


「ええっと、楓さん。おはよう」春雄は答える。



 どうもこの楓という女の子は苦手だ。女の子、として意識してしまうからだろうか。女性経験が無いからか、女の子らしい女の子に対してどう接していいのかわからない。



 楓は白いブラウスに、紺のスカートを履いていた。


 彼女は葵の数少ない友達の1人だが、葵とは全くタイプの違う女の子だ。人懐っこくて親しみやすい。


 意外と俺と敦志には結構共通点もあるのだけれど、楓さんと葵にはその一切が感じられない。女の子の友達っていうのはそういうものなのだろうか。



「あのニュース、知ってる? 電磁波だって」と楓。


「部屋のテレビで見たよ。それで大学の様子を見に来たんだ」



 楓は少し俯いて言った。


「あのさ、もしよければ、講義とか無ければだけれど、一緒に朝ごはんでもどう?」



 嬉しいお誘いだ。1人でいそうな俺を気遣ってくれたのだろう。女の子と2人だなんてうまく話せるか不安だけれど、せっかくだ。



「もちろん」と春雄は答えた。




 春雄は楓とベーカリーカフェの席に座った。学食棟3階にはこのカフェと、寿司やうどんが食べれるフロアがあった。



 楓はクロワッサンをひと口だけ食べて言った。


「怖いね。きっと体に悪いんだろうね、電磁波。私はその日、大学にいたの」


「俺も大学にいたよ。まあ大学のすぐ近くで一人暮らししてるから、大学にいようといまいと電磁波にやられてただろうね」


「でもさ、ニュースでは有害って言ってたけれど、私は元気だし何も変わったところはないよ」楓は不思議そうに言った。


「俺も健康。変わったところといえば変な夢を」


 そこまで春雄が言ったところで、学内放送が流れ始めた。



『おはようございます。今朝、当大学近隣の研究所から電磁波が発生する事故があったという報道がありました。つきましては、本日午後より診断所を臨時で設置します。8月4日に本学近くにいた方は必ず診断を受けるようお願い致します。詳しくは大学の公式サイトをご覧ください』



 診断所。電磁波の影響を診てくれるのだろうか。



 待てよ。


 今日の午後から診断所を設置する?


 事故について報道されたのはついさっきだ。いくらなんでも対応が早すぎる。


 機材の搬入だってあるだろう。医師が来るのか、研究所の人間が来るのかわからないが、なんにせよ不自然だ。



 楓が不安そうに口を開いた。


「診断所、ってなんか聞き慣れないね。診療所、なら普通にあるけれど」


「大学の公式サイトに詳しく書いてあるって言ってたよね。見てみるよ」


 そう言って春雄は鞄からスマートフォンを取り出した。


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