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花咲く都のドールブティック  作者: 冬村蜜柑
真白い輝きの冬の章
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双つの想い




「……よかったね、メル……。私は……私はちょっと一人になりたい、頭を冷やしてくるから、外にいってくるね!」

「おい、外って、お前、今日は!」



 テーブルの上に読みかけの本を残して、ユウハは図書室を飛び出した。ユイハがそれを追いかける。




 そのままの勢いでコートも着ることなくマギシェン家の別荘を飛び出す。

 ほとんど斜めに雪が吹き付けているが、構わなかった。

 寒くても、視界が悪くても構わなかった。

 ……ユウハの心の中は、今まるで氷の棒を差し込まれたかのように不快な寒さだったから。

 ……ユウハの視界は、涙でにじんでぐちゃぐちゃだったから。

 だから、そんなことにユウハは構わなかった。


「おい、ユウハ!」

 ようやく追いついてきたらしいユウハに腕を引っ張られる。

 ユイハの顔を見ると、こちらもぐしゃぐしゃで、とても苦いものでも口にしたときのようなひどい顔だった。そっくり同じ顔をした双子とはこういうとき嫌になる。鏡がすぐそこに『居る』のだから。

「ユウハ、お前……」

「ねぇユイハ兄さん、私の……何がいけなかったのかな……男の子じゃなかったからかな」

「お前な……俺がちょうどその条件だぞ」

「じゃあ、じゃあ、何がいけなかったのかな……貴族じゃないから? 綺麗な青い瞳じゃないから? 身長が高くないから? ……何が、何がいけなかったのかな……教えてよ、教えてよ……」

「……知るかよ……俺も教えてほしいぐらいだってのに……俺も……どうして、俺でないんだろうってしてるところだよ……どうして……」


 あぁ、やっぱりそっくり同じ顔の双子は嫌だ。

 まるで鏡に向かってしゃべっているかのようだ。


「なぁ、覚えているか、まだ俺もお前みたいに髪を伸ばしていた頃、銀月騎士学院にはいったばかりの、小さな頃」

「……覚えているわ、もちろん」

「あの時からメルは綺麗だった。今みたいに金の髪を長く伸ばしてリボンで飾っていなくても、可愛いドレスを着ていなくても、手のひらが剣の稽古でぼろぼろで身体中傷だらけでも、メルはすごく輝いてた。……そんなメルが、俺は、俺達は大好きになっていった」

「……覚えているわ、あの頃から、ずっとメルは綺麗だった」

「一日だけ、俺は“お前”として過ごしたことがあったな」

「……覚えているわ、兄さんあの頃は本当に私とそっくり同じだったもの、誰にも気づかれることが無かった」

「でも、違った」

「えぇ、違ったわね」


「「メルだけが、本当に“わたしたち”をわかってた」」

 ぴったりと声を合わせて、そっくり同じ顔で、まったく同じ言葉を紡ぐ。




 それは、ほんのいたずらだった。

 それぞれが話す男子寮や女子寮の様子が楽しそうで、一日だけ入れ替わってお互いの寮を実際に見てみようということになったのだ。

 故郷にいたときはよくやっていた遊びだし、二人はあまりにそっくりだったから気づかれることはないと思っていた。

 だが、違った。

 一日の終り、ユウハの部屋ですっかりくつろいでいたユイハを訪ねてきたのはメルだった。

 そしてメルは言った。


「どうして、今日のユイハはユウハの真似っこなんてしているの?」


 当然、ユイハは驚いた。

 ……誰にも気づかれていなかったのに、なんで。


 困り果てたユイハが絞り出した答えは、とてもくだらないものだった。

「その、ユウハのベッドの寝心地が気になった、から……」

「ふぅん」

「どうして、分かったの」

「どうして、って……ユイハとユウハは違うもの」


 

 そんなこと、言われたのははじめてだった。

 ……そのとき、ユイハは泣いてしまった。

 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、気がついたらユウハのベッドで、メルの腕に抱かれて眠っていた。


 そして好きになった。

 メルのことが大好きになった。




「その次の日に……俺は長かった髪を切ったんだ」

「えぇ、ばっさりと。本当は私も同じように髪を切りたかった。でもだめだと思った。私たちは違うんだもの。同じじゃないんだもの。一人じゃなく、二人なんだもの、メルがそうしてくれたんだもの」






 どこからか……びゅうびゅうと風の吹き付ける音がする。

 外はまだひどい雪と風なのだろう。


 二人は、湖の遺跡に入り込んでいた。

 ここは湖の底の遺跡だけあって温度は一定だったし、風と雪をしのげるし、すでに冒険者たちなどによって罠も魔物も掃除されていたし、まだ別荘に戻りたくない二人にとっては格好の隠れ場所だった。

「夏にここに来たことがあって、よかったわね……」

「そうだな」

「メルがまだ学院に通っていたら、この遺跡を一緒に探索したりしたのかな……」

「そうかもな」

 歩きながら、泣きながら、二人してそんなとりとめもない話をする。

 でも、涙でぐしゃぐしゃになって、もう息をするのも辛くて、ユウハはふらりと壁に手をつく。

 と――

 その場所がぼこりとへこんだ。

「えっ」

「えっ……」


 そして遺跡の壁が轟音を立てながら崩れていき――




「ユウハ……これ」

「ユイハ……やっちゃった……」


 ふたりの目の前にはぽっかりと、人間が通れる通路が出来ていた。

 とてもとても遠くに、ちかちかと白い光がまたたいているのが見える。


 ……そしてその光は、どうにも抵抗し難い誘惑のちからを秘めていた。

 文字通りその光は――ちからそのものだった。

 そして二人を呼び寄せていた。

 

「……」

「……」


 それに抗えるわけもなく、ユイハとユウハはふらふらと、通路を歩きはじめた。



 どれぐらい、歩いただろうか。

 白い光は近づいたり、遠ざかったりをしている。誘導しているのだ。

 やがて――




 二人はたどり着く。

 そこは旧い祭壇だった。


 祀られているのは、大きな大きな大きな大きな大きな白い繭。




 本能的に、二人は知った。





 これは、旧き神のちからのかけらだと――


 これがあれば……メルを手に入れられる、と――




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