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娘が自分の元彼と結婚した件  作者: 花輪
野ばら桐子 高校生時代
1/6

私と家事と弟とゲーム

「ただいまー」


玄関のドアを開けて家に入ると、私を出迎えるのは可愛い弟ではなく、何度言っても靴を揃えない生意気な弟がやっているゲーム音だ。おかえりぐらい言ってくれたらいいのに。


「ねえ、ただいまって言ってるよね?何でおかえりの一言もないの?てか、靴揃えろっていつも言ってるよね?」


言いながら弟と私の靴を揃える。


もう何回目の台詞だろう。言っても直らない、そんなことずっと前から解ってる。それでも言わなければ。努力の積み重ねで結果は出るのだ。きっとそう。そのはず。

私のようにはなってほしくない。


「お腹空いた」


何故姉が帰ってきて第一声がお腹空いたなんだろう。私は家政婦じゃないんだが。

スクールバッグを部屋に置いて、靴下を脱いで、脱いだ靴下を洗濯籠の中に入れて、膝まであるスカートを脱いで、ハンガーにかける。ここまでが一連の動作。


冷蔵庫を開けて、ある食材から作れる料理を考える。うん、今日は炒飯にしよう。

玉ねぎ切って、卵溶いて、フライパンに油をしく。まずは卵に軽く火を通してから白米を入れ、次に玉ねぎと肉を入れる。味付けは醤油、塩コショウ。

よく混ぜ、均等にちゃんと火が通ったらお皿に盛り付ける。


「ご飯できたからゲーム止めて。」


お盆に炒飯と朝の残りの味噌汁とお箸を2つずつ乗せて運び、テーブルに並べていく。


「…うん…」


うんって言ってるわりにはゲームを止めない。

自分からお腹空いたと言ってきたくせに、作ってあげたらすぐに食わないってなに。冷めちゃうじゃん。早く食えよ。イライラするなぁ。生意気だなぁ。


「早くして」

「わかってるって」


わかってないから言ってるんだけど。とっととゲーム止めろよ。 

どうして何回言っても直らないんだろう。ああ、でも小さい頃と比べたらましかもしれない。何言ってるか分かんなくて、いきなり物投げつけたり泣き喚いていたあの頃よりはずっとましだ。


「いただきます」


ようやくゲームを止めた弟は炒飯を食べ始める…かと思いきや炒飯に塩コショウをかけ始めた。


…食ってもないのに味変えるんじゃねえよ。なに?食わなくてもお前の飯が不味いことぐらいわかるってか?ああ?


「…かけすぎた、不味い。」


ほら見ろ。やっぱり味濃すぎたじゃん。バーカバーカ。

弟はそう言って箸を置いてゲームを再開した。


「…は?もう残すの?」

「今いいところなんだから話しかけんじゃねえよ。」


皿にはまだ殆ど手をつけられていない炒飯が残っていた。


「は?じゃあこれどうすんの?捨てんの?」

「……」

「もういいよ!私が食べるよ!」


ああ、こうして私は太っていく…

半ばやけくそになりながら私は炒飯を食べた。


ふと、思う時がある。こうして弟の残した食べ物を食べている時や、雨の中カッパを着て自転車で買い出しに行った時などは特に、私は何をしているのだろう、何者なのだろう、と考えてしまう。


私はまだ中学生なのに何故家事を全て一人でやっているのか。答えはとっくのとうに出ている。それは弟が家事をしない怠け者で、父は殆ど家に帰ってこなくて、離婚した母とは連絡がつかないからだ。そしてわかりきった答えを前にして問題に悩むのは答えに納得出来ないから。


私が家で家事をこなし、自分は何者なのか、なんてちょっと病んでる考え事をしているとき、同級生は何もせずにご飯が用意されて、風呂が沸かされて、服が洗濯されているのだ。当たり前のように。


努力してるのに不幸から抜け出せない私と、何の努力もせずに幸せな同級生。


…ダメだ。こんなこと考えちゃダメだ。考えたって意味は無い。

このあと風呂掃除して風呂沸かして、洗濯物やって、皿洗いして、宿題やって、明日の準備をしなくちゃならない。

こんなこと考えてる暇があったら家事をやれ。


私はお姉ちゃん。弟の命を預かっている。死ぬまで支える覚悟で育てなきゃ。

怒らないけれど誉めもしない父のような育てかたはしない。ちゃんと怒ってちゃんと誉めて。

小さい頃の私は、誰にも何も言われず、咎められず、誉められず、怒られない事をいいことに、随分怠けていた。

そんな私のようになってほしくない。


「ご馳走様でした。」

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