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激情のオーバーフロー

「おはようございます。今日はどうなされますか」

「おはよう爺や。今日は……そうね、ベーコンエッグの気分だわ」

「俺はいつもの」

「美桜ちゃんはどうす…………美桜ちゃん?」


美桜はこちらに見向きもせず、壁に掛けられたメニューに目を輝かせていた


「焼き鮭……とんかつ……冷奴に豚汁まで……! あっ、すごい! 生姜焼き定食まで……!」


美桜はメニューに書かれていた朝の定食一覧を呟いては一人でテンションが跳ね上がっている。


「真嗣さん! メルちゃん! すごいです! 最強のチート呪文がいっぱい書かれてる!」

「……定食セットと同列扱いじゃ、勇者様が気の毒なこった」


呆れてそう返す他なかった。



「で、本題はなんだ? どうせ聖戦関係の話だろうけど」

「そうですわね。美桜ちゃん、ここに来た時の紙は読んだ?」

「うん、大体のルールは読んだよ」


数十分迷いに迷ってようやく選んだ焼き鮭定食のお茶碗片手に、満面の笑みで頷く美桜。

傍から見たら餌付けされてる子犬のそれだが、それを言った日には『私はメス犬です』とか意味の分かんない事言ってきそうなのでかじったフレンチトーストと一緒に飲み込む。


「じゃあ美桜ちゃんがわかる範囲で聖戦のルールを言ってみて。間違ってるところは私が訂正するから」

「はーい、ええと……」


「聖戦の期間は21時から24時までの3時間。誰を対戦相手に選ぶかの制限は基本なし。誰か一人が他の相手を倒した時点でその日の聖戦は終了。倒した人はカウントされその人が持っていた宝石(あかし)を全て獲得。逆に負けたら元々持っていた物以外の宝石は消失して1か月の間聖戦への参加が不可。7つ全ての宝石を集めたらクリア、転生が許される……ですよね」


若干たどたどしい感じではあったが、聖戦の基本ルールは概ね把握しているようだ。


「……うん、それであってる。じゃあもし揃えられずに1年が過ぎたら?」


メルはこちらに悪趣味な微笑みを向けながら美桜に問いかける。


「……1年がタイムリミット。それを過ぎたら……魂が消滅する」


やはり美桜もこっちを見ながらバツが悪そうに答える。

だが気合を入れるように頬を叩くと、


「でも大丈夫です! 真嗣さんは美桜が転生させます!」

「てめっ……!」


頭に来た勢いで立ち上がり、モノクル小娘が言ってる事に気にも留めず生意気に胸を張って意気揚々と宣言する美桜の胸倉を掴み上げる。

昨晩から溜まりに溜まっていたフラストレーションが一気に爆発し、今まで心の隅に留めていた怒りを吐き出す。


「人の話はまともに聞かないくせに何が奴隷だ、何がご主人様になれだ! 人が黙ってれば好き放題抜かしやがって、挙句朝飯の時にまで付き纏ってくんなよ! なんなんだよ! お前ほんとなんでイチイチ付き纏ってくるんだよ!」

「あ、え、真嗣……さん? その、美桜は……」

「お前が奴隷だとかほざくんだったら命令してやる、二度と俺の前に出てくるな!」


もう顔も見たくない、そう言わんばかりの形相で美桜を突き放すとお皿の上に一つ残ったフレンチトーストに目も暮れず部屋に帰っていってしまう。

真嗣が食堂に面した廊下の角に消えた後、茫然とへたりこむ美桜にメルの小さな手が差し伸べられる。


「あ……ありがとう……」

「大丈夫? 怪我してない?」

「うん、大丈夫。…………でも」


やはり美桜の表情は浮かない。メルはそんな顔を見ると苦笑いを浮かべて、


「真嗣くんにも、生前の記憶はありますから。第三者の私から話す事はここのルールで出来ないけど……」

「真嗣さんの生前……」

「……ねえ美桜ちゃん。どうして真嗣くんに接触……いいや、どうしてここに来たばかりの美桜ちゃんが真嗣くんを知ってたの?」

「それは……話すとちょっと長くなっちゃうんだけど……」



「……ありがとう、美桜ちゃん。その……生前の事はあまり思い出させたくなかったのだけれど」

「ううん、いいの。……こんなつまんない過去でも…………やっぱり誰かに聞いてもらった方がよかったって思うの」

「そう……それなら、よかった」


ホッとしたように表情を和らげるメル。でもその笑みはやはりどこかぎこちなく感じる。

美桜はそれを知ってか知らずか、お椀の味噌汁を飲み干すと無邪気に笑って見せる。


「ごちそうさまでした! こんな美味しい朝ごはん初めて食べた!」

「ふふ、そういってもらえると管理者として嬉しい限りだわ。私もごちそうさまでした」


そう言って食器を片付けようとしても、どうしても真嗣の残したフレンチトーストとブレンドコーヒーに目が行ってしまう。

しばし考えるように静止した後、立ちかけの姿勢から再び腰を下ろすと一斤だけ残ったフレンチトーストをかじり、冷めかけのコーヒーを飲み干す。


「……真嗣さん、あんな事言ってたけど。美桜は、やっぱり真嗣さんの隣にいた方がいい……いや、いなくちゃって思うんです」

「……」

「確かにさっきは胸ぐら掴まれて怒鳴られましたけど。……でもあの時の真嗣さんの瞳、ああやって突き放す事をどこかで怖がってた……だから、今はこうやって真嗣さんの残飯処理くらいしか出来ないけど……美桜は……真嗣さんを……」


いっぱいいっぱいになりながらも心の内を紡ぐ美桜に、メルは廊下で初めて顔を合わせた時のような微笑みで、


「そう……美桜ちゃんはそうしたいのね?」


そう問う。


「うん……」


様々な感情がせめぎ合って結果として弱々しい返答しか返せなかった。

でもメルは情けない答えに怒ったりせず、


「そっか。それが美桜ちゃんが本当にしたい事なら、今はそれでいいんじゃないかな」


と、優しく背中を押す言葉をかけてくれる。


「でもまあ、まずは真嗣くんと仲直りしないとね」

「はい……真嗣さんにちゃんと謝らないと」


一人の男に焦がれその奴隷を志願する少女の道のりは、まだまだ始まったばかり。

更新遅れて申し訳ありません

今後はペース出来るだけ早めで更新を心がけます

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