少しばかりの罪悪感
「ん……ふぁぁ…………」
前世で生まれてからずっとしてきた様にベッドの上で目を覚ます。
魔力で動く時計は6時ちょっと前を指していた。
そのままいつもと同じ様に身体を起こそうとして、寝惚けていた頭と体が違和感にようやく気付く。
それはこちらに抱きつく少女-美桜。しかも何故か上半身の衣服を脱いで豊満なバストをこれでもかとばかりに押し付けている。
まさかこんな事までしようとは、と叩き起こして今度こそ摘み出そうとして、ふと気付いてしまう。
「っ………………」
彼女の頬を伝って出来た、シーツの染みを見て言葉を失う。
昨夜は単に頭のおかしい奴かと思ってはいたが、こいつも箱庭に送られたと思うと複雑な気分になる。
ならせめて邪魔はしないでおこうか、そう思ってまた目を閉じようとする。
が、悲しいかな、一度起きてしまうと否応にも寝間着越しに感じるふにゅんとした感触に意識が全て持って行かれてしまいそうになる。
「んぅ……ぅぅ…………」
と、うめき声と共に眼前の少女が目を覚ます。
「あ…………おはようございます、真嗣さん。なんだか朝チュンみたいですね」
「雀の餌にしてやろうか」
なんだか心配して損した。
雀などいないこの世界の南西から上がる太陽を窓越しに見ながら、朝からやるせないため息を吐く。
「大丈夫ですか?美桜を玩具のように性欲の捌け口にしますか?」
「朝からそんだけ頭が回って羨ましい限りだ……」
そう言って脇腹の上に添えられていた美桜の手を払い除けて今度こそ体を起こす。
そのまま立ち上がると簡素なクローゼットを漁りながら話しかける。
「とりあえず服着とけ。布でも案外首の皮一枚で助かったりするもんよ」
「…………あっ……」
「散々目の前で晒しといて今更隠すかよ。というかそういう所は普通に羞恥するのかよ、キャラ保っとけよ」
「……見たいの?真嗣さん」
「……………………」
現実は漫画やアニメの様に都合よく局部だけ隠してくれるわけなく、美桜が寝ている間、視界にはバッチリと胸部の先端で薄ピンク色に膨らんだそれが映っていた。
今更見たいと言われても別にとしか言えないし、もし正直に実は見えていたと言ってもまた面倒なスイッチを押しそうなので興味ない、と言った風をどうにか保つ。
今日の着替えとフェイスタオルを引っ張り出すと、ふと言おうとしてた事を思い出し、そのまま口にしようとしてどうしてかやめてしまった。
そして彼女に背を向けると、
「その、昨日は悪かったな。勝手に推測でパッドだとか言って」
「えっ?」
「…………さっさと起きろ、いつまで俺の部屋に居座るつもりだ」
数か月の間同性にすらまともに関わって来なかったからだろうか、ただの何の変哲もない謝罪のはずなのにどうしてこんなにも胸がざわつくのだろう。
咄嗟に誤魔化してしまった自分に自己嫌悪を感じ、苦虫を噛んだような表情を浮かべながら逃げるように洗面台へ向かってしまった。
「……………………」
蛇口からとめどなく流れる水の音だけが洗面所に響く。
舞村美桜……突然現れた少女によって、真嗣の心は既に混乱をきたしていた。
何故初対面のはずなのに自分の名前を知っているのか、などと言った冷静に考えればすぐに思い至る事など今の真嗣には頭の片隅にも入っていなかった。
「……なんで、死んでも世界って理不尽なんだろ…………」
苦笑いを浮かべ思わず愚痴をこぼしてしまう。
そしてそのまま1分はただ水が流れる音が支配していたが、真嗣の自分の頬を叩く音に破られる。
「……何考えてんだろ。全部、俺の自業自得なのに」
そう自分に言い聞かせ、両手で掬った水道水で顔を洗うと、持ってきたタオルで滴る水を拭う。
脇に置いてある籠にタオルと寝間着を投げ入れると、いつも通り食堂に向かおうとしてふとベッドの上で間抜けそうにちょこんと座ってる美桜の姿が浮かんでしまう。
「……どうにかなっちまってるのかな、俺……」
そうぼやいて、踵を返して自分の部屋へ戻っていった。