いらないりんご。
「りんご……嫌いなんだけど……」
「え?」
「あ、なんでもありません」
白雪姫の口から出た小さな呟きは魔女の耳には入らなかった。
嫌いなりんごを魔女からもらった白雪姫。
(でも……せっかくの貰い物を「嫌いだから」という理由で突き返すのはあまりにもひどいわ)
心の優しい白雪姫は、作り笑顔を顔に貼り付け喜んだフリをする。
「あ、有難うございます。このりんご明日の朝食べますね」
「そうかい、ならば明日もう1度この家にくるからその時感想でも聞かせておくれ」
魔女は白雪姫が嬉しそうな顔を浮かべてくれたのを見てホッとしていた。
(りんご嫌いじゃなかったようね)
魔女はここに来る途中に白雪姫がりんご嫌いという噂を耳にしたのだ。なので、魔女はりんごを突き返される覚悟をしていた。その場合は違うたものを用意していた。
(ま、どうでもいいわ。受け取ってくれたのだから。明日、白雪姫の死体から感想を聞くことになるでしょうね。オーホッホー)
(このりんごどうしよう……小人さんさんたちは食べてくれるかな?あ、でも小人さんさん甘いの苦手だった気はするなぁ。………どうしよう)
魔女はニヤニヤしながら、白雪姫は困り顔で別れた。
家で白雪姫が小人さんたちと自分の分を夕飯を作っていると後ろで声がしだした。
「おい!白雪姫!このりんごどうしたんだ!」
「あー、本当だー、りんごがあるー」
「りんごがあっても私たちは甘い食べ物が苦手ではありませんか」
「そうだよな。このりんごすんげぇ甘そう」
「僕食べてみようかな?」
「お腹、壊す」
「これは白雪ちゃんの?」
帰ってきた7人の小人さん達が次々に話しかけてくる。7人一斉に話しかけてくるものだから、白雪姫は慣れるのに数日かかった。
今ではちゃんと聞き分けられるまでにはなった。
「一応そうだけど。私……りんご嫌いなの」
「「「「「「「え?何で」」」」」」」
小人さんたちは息ぴったりに聞く。
すると白雪姫は少し俯向く。
「…………………から」
白雪姫が小さな声で何かを言いう。小さすぎて聞き取れず、小人さん達は耳を傾け意識を集中させる。
「「「「「「「ん?」」」」」」」
「昔、男の子にりんごみたいって言われたから!」
キィーーーーーン
顔をまさにりんごのように赤くしながら大きな声で言う。耳を傾けていた小人さん達は突然の大声で耳をふさぐ。が2、3人目を回す。
「あ、ごめんなさい」
「い、いや。いいぜ。で、どういうことだよ。こんなに可愛い白雪姫をりんご呼ばわり知る馬鹿野郎は?」
「知りません」
「名前も生年月日も住んでるところもですか?」
コクリと頷く。
「昔、外で遊んでたらすれ違った男の子が突然りんごみたいって言って……それからりんごが嫌いになったわ」
昔、外で他の女の子と遊んでいたら、ボロボロに汚れた服を着た男の子に言われたのだ。しかし、その男の子は妙な服装だったのを覚えてる。綺麗だったのだ。綺麗に汚れていたのだ。なので白雪姫はその男の子は貴族の子じゃないかと思っている。
「そうか!しかし!このりんごどうするんだ!?」
「そう、そこが問題なの。どうしようこのりんご」
「「「「「「「「うーーん」」」」」」」」
小人さん達7人と白雪姫を合わせた8人で、一個のりんごをどうするか悩む。
「僕は捨てればいいと思う」
「それじゃありんご屋さんが可哀想だわ。せっかくあげたりんごを捨てられるんですもの」
流石にそれはどうかと思う白雪姫。
そう言うと他の小人さんが
「そうであれば、りんごから種を抜き取り、新たに庭に植え、新しいりんごを作り売るのはどうでしょう?」
「それは無理だわ。明日の朝、りんご屋さんがりんごの感想を聞きに来るもの」
りんごの感想を聞きに来ると言ったりんご屋さんの顔は満面の笑みだったので、来なくていいと言えなかった。
「白雪ちゃんが想像してりんご屋さんに感想を言って、りんごは動物のあげる」
「りんごってどんな味がするの?」
そもそもりんごを食べたことすらない白雪姫は、りんごの食感から味、全てを想像して伝えるのは無理だった。
「白雪姫、頑張って、食べる」
「嫌よ」
りんごはどうしても食べたくない白雪姫。
「白雪姫がー、りんごをー、違うものに調理してー、食べる」
「…………嫌よ」
もしかしたらと、りんごを使った料理を考えたものの、やはり食べれそうになかった。
「白雪姫が好き嫌いを克服する!」
「無理」
それこそ無理な話だ。白雪姫のりんご嫌いは昔からのものでたった一晩で克服できるようなものではない。
「他人に食わせて感想を聞いて、それを白雪姫がりんご屋に伝えればよくね?」
「「「「「「「それだ!」」」」」」」
思い立ったが吉日。8人は早速、家の近くを通る通行人にりんごを食べてくれる人がいないか探すため、家を出た。今はもう日は完全に落ちている。この近くを通る通行人は少ない。その通行人がりんごを食べてくれるかは賭けだ。
「あ、りんごは一応仕舞っておかないとね」
白雪姫は一旦机の上にあったりんごがぴったり入る箱に入れておいた。
「ふん♩ふーん♬」
魔女は早朝に白雪姫の元を訪ねてきた。
「娘さーん。昨日の物ですが」
家の扉の前で家の中に呼びかけるが返事はない。
「娘さーん?どうかしましたー?」
(お、白雪姫の返事がない!これはりんごをしっかり食べたわね)
魔女は家の扉を押してみる。
扉はギィっと音を立てて空いた。
「娘さーん?」
家の中はガランとしており誰もいなかった。
(……死体はどこだ?)
魔女は家の中を隅々まで探す。
(死体がない!?まさか……)
と、魔女に頭の中に、毒りんごに気が付き逃げ出す白雪姫が浮かんだが、すぐに否定する。
(夕飯の作りかけで逃げるもの?でも毒りんごだと思ったら逃げる?)
魔女は何か手がかりがないかと家の中を見渡す。と、机の上に置いてあるりんごが一つ入りそうな箱が置いてあるのに目を留める。
(箱?)
魔女が箱に手を伸ばし開けようとした時。
バン!
「りんご屋さん!りんご、美味しかったわ!」
白雪姫が突然扉を開け放ち、家に駆け込み感想を言った。走ったのか少し汗をかき息切れを起こしていた。
「ひゃ!」
魔女は突然の大きな音に驚いて、伸ばしていた手を引っ込める。
「りんご屋さん昨日のりんご美味しかったわ!」
「え、ぇ?あのりんご美味しかった?」
「ええ!甘くて水々しくて!」
(毒リンゴを食べて無事!?まさか毒が効かない?そんなわけ……毒リンゴは食べずに感想を言ってる?)
魔女は本当にりんごを食べたのか白雪姫を疑う。
しかしその疑いは白雪姫の放った言葉で否定される。
「それに少し苦くて、それが甘さと相まって美味しかったわ!」
「え?ど……」
「え?」
「ああ、いや、なんでもない」
(苦い?え、苦味?……毒のこと!?毒りんご食べて生きているっていうの!?ば、化け物だわ……)
もちろんのこと、魔女は「毒」を食べたことが無いので味がわからない。
魔女は知らず知らず「毒」は苦いと思っていたのだ。
(………一時退却ね!)
「そ、そうか。それは良かったわ。じゃあ、私ゃ用事があるから行くね」
「はい!美味しいリンゴをありがとうございました!」
白雪姫は満面の笑みでお辞儀をした。
(旅人さんに聞いたりんごの感想少し違った気がするけど大丈夫かな?けど、りんご屋さん嬉しそうだから大丈夫だよね!)
(白雪姫に毒リンゴが効かないとなると毒関係の殺し方は無理……だけど直接手を下すわけにはいかないわ………どうしましょう)
魔女はヒクつく笑顔を保ったまま帰って行った。白雪姫は達成感のある顔で別れた。
「はぁー、危なかったわ。もう少しでりんご屋さんにもらったりんごを食べていないことがバレるところだったわ」
すると何処からともなく現れた小人さん達が
「白雪ちゃん。旅人さんは苦いなんて一言も言ってないよ」
「え!?うそ……苦いって言っちゃった……」
「ですが、りんご屋さんは満足していたようなので、りんご屋さんのりんごは少し苦いのかもしれませんね」
「確かに」
昨日の夜、白雪姫と小人さん達は家を出て、通行人にりんごを食べてくれるか聞いて回っていた。
その中で1人の旅人さんが自分の荷物からりんごを取り出し、そこで食べて感想を言ってくれたのだ。
その頃には既に夜が明けて慌てて家に走ったら、家の中にりんご屋さんがいたのだ。
「でも、りんご屋さんから貰ったりんご、どうしましょう」
(それこそ動物にあげてしまおうかしら?)
と考えていると。
「おーい」
馬に乗ってこちらに手を振る旅人さんがいた。
「お、旅人さんだぜ」
「あ、本当だ」
旅人さんは馬から降りると輝かしい笑顔を振りまいた。
「「「「「「「ぐっ、イケメンめ」」」」」」」
何故か、小人さんたちは顔を歪め胸を押さえる。
「イケメンなんて爆ぜればいい」と聞こえなくもない。
「さっきのりんごの話どうなりました?」
「はい。無事解決しました」
「それなら良かった」
「あ!」
白雪姫は閃いたとばかりに手を打つ。
「お礼にりんごをあげます」
と家の中からりんごを持ってきた。
「私たちはりんご食べれないので」
「そういうことなら頂きましょう。ここで食べてしまってもいいかい?」
「ええ、是非。よければ、感想を聞かせてください」
旅人は口を開け受け取った真っ赤なりんごを一齧り。
しゃりしゃりとりんごの食べる音だけが響く。
そして飲み込む。
「うん。美味しい。甘くて上品な風味がある。このりんご高いね」
それもそうだ。魔女が使ったりんごは高いのだから。その高いりんごに毒を入れた毒りんごなのだから。
「そうですか」
「あれ?苦くねぇの?」
小人さんの1人が聞く。
「苦い?苦いなんてこ………と……………」
旅人は胸を押さえ蹲ったかと思うと倒れてしまった。
「あ、倒れた」
「え、死んだ?」
小人さんが冗談で言う。
「まさか」
「死んでる」
小人さんが首筋を触ってそういった。
「「「「「「「「え!?」」」」」」」
その後、白雪姫はますますりんごが嫌いになりました。
亡くなった旅人は小人さん達に伝わる方法で、白雪姫と旅人がキスをし、見事生き返りました。
話を聞くと、旅人の正体は国の王子様でした。
生き返ってから、軽い筋肉の強張りがあっったのでその介護を白雪姫がしていると、王子様と白雪姫は恋に落ちました。
そして白雪姫と王子様は、7人の小人さん達と末長く幸せに暮らしましたとさ。
おまけ「王子様の初恋」
「昔、小さい頃白雪姫みたいな可愛い女の子と出会ってね。その子に一目惚れしたんだ」
「それ、私の前で言います?」
「いやいや。君に似てるなぁ、と思って」
「へぇー」
「目があった時照れくさくて「りんごみたい」って言っちゃったのが今では後悔してるかなぁ。一応褒めたつもりだけど、悪口みたいに聞こえるから」
「………それ、私」
「え?」
「それ、小さい頃の私」
おまけ「りんご屋さん」
「鏡よ鏡、どうすればあの毒の効かない白雪姫を殺せるのでしょうか。あの猛毒のリンゴを苦いと言ってすべて食べてしまうあの白雪姫を殺す方法はあるのでしょうか。そもそも、毒以外の殺し方で殺せるのでしょうか?毒が聞かなければ何が効くというのでしょうか?ナイフですか?剣ですか?本の角ですか?タンスの角ですか?小指ぶつければ死にますか?全て回避されてしまう気がするんですがどうでしょうか?鏡よ鏡。知っているなら教えなさい。教えて教えてください。お願いします」
『……………』
パリンッ
「( ゜д゜)」