おさかなさん
あれから一生懸命、木をグリグリ削っていると朝になってしまった。
しかも、できた家はしょぼい。
でも、がんばって造ったんだから有効活用しよう。
無駄遣いはダメだ、苦労が無駄になってしまうからね。
しかし、何だろうなこれ。家なのかな、いや家だ、うん家、ちょつとクマの家ぽいけど家だ。それに本物のクマさんたちは外で寝ている。
あの生物はなんなのだろうか。
見た目はクマのぬいぐるみ。
ひいき目に見てもかわいい。
ゆるキャラ要素が盛りだくさんのテディベア系クマさんだ。
某ネズミーランドにも、こんなキャラがいたような、いなかったような気がする。
癒し系クマだ。このクマは、クマったことに体内に強い力を感じる。
仙術士の目で見て、あのクマさんたちは結構強力な魔獣だろう。
まぁ、種族名とかはわからないが…………
朝になってしまったが、ご飯を調達しなければなるまい。
私にとって一日や二日程度の徹夜は、疲労にならない。
なぜならば、私が仙術士だからだ。
仙術士は体内エネルギーだけでなく、自然のエネルギーさえも利用することができる。
そのために、体内のエネルギーがなくなっても、自然界からエネルギーを吸収することにより体力と仙術エネルギーを回復させることができる。
もちろん、この能力にもデメリットがある。それは、エネルギーを吸収しすぎると、自らの身体が崩壊していくことだ。このデメリットのために仙術士は細かい能力の制御が必要になり、才能のある人間しかなれない職業の代表格とされている。
なにはともあれ、何か食べたい。
気分の問題なのだ。人間の身体の傷は魔法や仙術で治すことができるが、精神的な傷は、どんな魔法や仙術でも治すことはできない。不健全な生活をしていれば精神が病む。そうすれば、私は私でいられなくなる。そうならないために、健康的な生活をしなければならない。
しかし、この死の森についても何もしらない。
それに何が食べられて、何が食べられないのかがわからない。
下手にキノコとかを食べて死んだら笑えない。
本当に笑えない冗談だ。
冗談が冗談すぎて逆に笑えてくる。
キノコなどの森の恵みは素人が手を出すべきではない。
それでは、どうするべきか、やはりここは魚だろう。
目の前には湖がある。
ならば魚がいるのは同然だろう。
毒のない魚ならばいいな。
まぁクマさんの前に出して、食べられるのか食べられないのか判別してもらえばいいだろう。
それにしても、どうやって魚を取るべきだろう。
ここはあれでいくしかないだろう。
「仙術“雷光一掌”」
仙術エネルギーが雷光へと変換され、湖の水がブクブクと沸き立つ。
電撃により湖の中からプクプクと魚が浮き上がってくる。
「うん、魚が大量だね。少し火が入っているし、どう調理しようかな。ねぇクマさん」
「くまぁ(このままで)」
なんかクマさんがサムズアップしているけど、、このままはダメだから。
これ半生だから。
私はクマさんじゃないから、一応人間だから。
うん、一応人間だから。
仙術士になって、人間じゃないものに変質したけど、自分の中では一応人間だと思っているから。
「とりあえず焼き魚にしようか、塩もあるしね」
「くまぁ(しょうがないな)」
「うん何か文句でもあるのかなクマさん」
「くまぁくま(なんでもありません)」
「うん、それじゃ焼き魚を作ろうか」
「くままぁ(よろしくお願いします)」
クマさんにプカプカ浮いている魚を回収してもらいつつ、私は魚を焼く準備をする。
先ずは火打石で枯れ葉に火をつける。
こういうときにライターが欲しいと思ってしまう。
元の世界の便利さが、この異世界に来て身に染みてわかる。
魚は枝に刺して火にかざして焼く。
焼き魚は、冒険者時代に野営の際によく作っていたから慣れている。
だけど、簡単な料理しか作れない。
焼くか茹でるぐらいしかできない。
我ながら女子力がないな。
残念すぎる。残念すぎて哀れで虚しい。
だれか、この死の森に来てくれないかな。
浮世を捨てて、誰もいない死の森に来たのに、人恋しくなるなんて、我ながらバカバカしい。
なんでいつも私は無軌道に行動してしまうのだろうか。
いや自分の心が自分で理解できていないのだ。
自分の心がわからないから、自分の歩む先がわからない。
答えのでない問題を堂々巡りで考えていると、魚がいい感じに焼けてくる。
どうだろうか、食べられる魚だったのか。
「クマさん、この魚は食べられそう?」
「くまぁ(食べられるよ)」
「そうか、ありがとう。それじゃ食べようか」