第1話一抹の不安どころか前途多難
るるるるる るるるるる
自宅の固定電話がなった。
8月 夏休みが終盤に差し掛かった頃。
「はい、もしもし花森です」電話にでた。
ママ友の水樹さんからだ。
水樹さんの勤めるクリーニング屋さんのパート募集の話だった。やった、やっと スタッフの空きがでた。数年待ってた。
前々からここで働きたいとお願いしてたから 連絡をくれたのだ。
家の近くだし、子どもが急用の時、子どもが立ち寄れる。
朝10時から15時の5時間と15時から20時まで5時間の交代制。朝も比較的遅い。なにより上の子の同級生のママ水樹さんが働いてる。
よく行くディスカウントスーパーの一角にある。
すぐさま履歴書を買いに走る。
履歴書書くのひさしぶり。
水樹さんのいる時間帯に伺う。詳しく話を聞きに行く。ドキドキ。
基本一人体制。
なるべく10時出勤で土日は休みがほしい。下の子は小学5年生。スポ少に入ってて今年6年生が少なく5年生だけど役員当たってる。土日は練習や試合があり お茶当番もある。
上の子は中学3年生。受験生。タイミングがあまり良くなかった。
心配したけど土日休みOKだった。子どもが大きくなれば土日や15時出勤してほしいということでOKもらえた。
お店は4畳半くらい。せまい。スーパーのサービスセンターのエリアだった所をを改築したそう。
水樹さんのほかに 谷さんと藤野さん。
藤野さんが 脚を骨折して長期入院になったそうで 今まで3人でやってたが 一人何かあると二人のシフトでは難しいと判断して 4人にしてほしいと社長に願い出て了解を得たそうだ。
空きが出たということではなかった。
社長の面接はなかった。本社は車で1時間ほどの所にあるらしい。紹介なので履歴書送って 特に悪いことがなければ採用。
独身の頃は手芸店で働いてた。実家も商売人で接客に抵抗は少ない。
でも結婚してから 内職を少しと棚卸しの手伝いをしたくらいで 働くというほどのことはしてなく 十数年ぶり。
一抹の不安がよぎる。
早速 次の日から 出勤。朝 家を出るとつくつくぼうしが鳴いてる。夏が終わる。夏休みも終わる。夏休みの宿題 まだ終わってない。子ども達大丈夫かなぁ。
10時出勤なので 朝ご飯の後片付けや洗濯がしっかり終わらせられる。たすかる。うれしい。ありがたい。
自転車で5分かからない。下り坂なのでスイスイ行ける。気分がのらない日も きっと勝手に自転車が進んでくれるだろう。
9時40分くらいに到着。水樹さんはまだ来てなかった。中に入れない。スーパーの自動ドアとは別に手動の出入口がある。その手動のドアの側にあるベンチに腰かけて水樹さんを待つことにした。
待つこと数分水樹さんが 出勤。鍵をあけて一番にタイムカード押す。タイムカード ワタシの分用意してくれてた。
開店準備始まり。
今は閑散期らしい。そんなに荷物もなくちょうどいい空間のように感じた。
仕事を教えてもらう。
まずスーパーとの境目にある白い網を外す。
うわ これめんどくさい。いろんな角や突起物に引っ掛かる。
天井から下がってる1mほどの細長いシルバーのSフックも外す。
それから一緒に事務所へ行く。
昨日の売上伝票をディスカウントスーパーの事務所に持って行く。誰も居ない。一番手前の机に伝票をふせて鉛筆立てをおもしにして置いておく。店舗へ戻る。
もうすぐ配送車が来るそうだ。昨日預かった服達を配送車に渡す準備をする。
服もいろいろあって通常のものは大きな袋。仕上がり日によって袋の色がかわる。今回紺色。重たい。外に運ぶ。
特殊な袋は別袋。急行の袋は色ちがいの別袋。これはカウンターに並べておく。
レジを立ち上げる。
お釣り銭を数える。カウンターを整える。
ホワイトボードに 今日預かる場合 およそ1週間くらいで仕上がるので予定表見ながら仕上がり日を二日先まで記入しておく。シルクや麻などの特殊品は丁寧に仕上げるのでもう2~3日かかるそうだ。ホワイトボードの下のほうに書いておく。当日翌日仕上がりは上段に赤で記載。
スーパーの開店の合図の放送が流れてきた。10時だ。オープン。
ドキドキ。
たしかに閑散期のようだ。お客さん来ない。店内や外の看板などの拭き掃除をしてると配送車がやって来た。女の人だ。
「花森です。今日からよろしくお願いします。」
「小川です。よろしく。」
小川さん優しそう。よかった。
仕上がった服達を受けとる。
水樹さんと小川さんが雑談しながら本社に送る伝票や服達を渡す。
「荷物よろしくお願いします。」と荷物を託す。
配送車が去る。これは朝便。夕方もう1回午後便が来るそうだ。
ハンガー仕上げとたたみ仕上げと大きく分けて2種類。
先にたたみ仕上げの分にとりかかる。ビニール袋に入ってて余ったビニールを服の仕上がったサイズに裏側へ折り込んでセロハンテープを貼る。
名前シールをつける。シール台帳を開くとそれぞれ横1㎝縦12~13㎝ほどの長さ。1ページに20枚ほど。
服にタグが付いてるので シールのナンバーとタグのナンバーと確認しながらシール台帳から同じナンバーのシールを探して貼る。その時小さくブラウスとかYシャツとかカーディガンとか書いてあるので洋服とシールの記載が合ってるかも見ながらする。
入荷した服達のナンバーをメモに控える。
うわー これってけっこう手間がかかる。
棚に分別する。お客さまの苗字 頭文字別に 分ける。
梅田さまだったら あ行の棚に。河井さまだったら か行に。岬さまなら ま行の棚に。棚の枠に あかさたなはまやらわ とひとつひとつそれぞれ小さなシールが貼ってある。
YシャツはYシャツの棚があり これも苗字の頭文字で分ける。
たたみ仕上げの分が終わればハンガー仕上げの分にとりかかる。
これもタグとシールのナンバーとシールに小さく記載された服の種類を確認しながら右肩にシールを貼る。
入荷してきた服達はナンバー順に並んでない。シール台帳を前に後ろにめくり返す。けっこう大変。
そしてナンバー順に置きかえる。ナンバーの数字が小さいほうが右 次のナンバーは左へ。どんどん右へ奥へつめながら ナンバー順に並べていく。
これもナンバーを先ほどのメモに控える。1枚のメモに今日の日付とたたみ仕上げとハンガー仕上げと分類して記入しておく。
昨日までに入って来てる服達の間に今日入って来た服達をナンバー順に差し込んでポールに掛ける。
終わったら仕上がり遅れがないか確認。
シールに仕上がり日が書いてあるのでシール台帳1ページずつ今日の日付がないか見る。
あった。今日の日付。今日仕上がり。届いてない。本社に電話して今日仕上がり、仕上がり遅れがあることを連絡する。
緊張する。本社の 誰かも知らない人と話さないといけない。
水樹さんが電話してくれた。「西店です。お疲れ様です。仕上がり遅れの連絡です。7ー777のブラウス白ハンガー仕上げ入荷してません。よろしくお願いします。はーい。失礼しまーす。」
電話を切って水樹さんがワタシに「こんな感じで」とにっこり 優しく教えてくれる。笑顔にホッとする。これで工場の方が必ず午後便の配送車に積んでくれるそうだ。
でも7ー777なんて ラッキーなナンバー。0ー000から9ー999まであるらしい。
水樹さんがYシャツたたみの棚を見始めた。これとこれ同じお客さまのだから この白い紙テープでひとまとめにくくってほしいとのこと。「シール台帳にまだシールあるから あと一点入って来るし 紙テープ少し余裕もって長めにしてね。」
なるほど~~~。襟がしっかりアイロンかかって厚紙で固定されてるので重ねるとき交互にする。シールも貼りかえる。ひとつは襟足の外側 もうひとつは第3ボタン辺り。くくるときにシールが上の分と下の分と重なる。紙テープは 横にして かわいくりぼんする。
ハンガー仕上げも一人のお客さまの分をひとまとめにする。リンクルという色とりどりのプラスチックの輪っかで一人のお客さまは同じ色にまとめる。隣り合わせに同じ色にならないように。奥のお客さまが赤なら次の方はピンクとか。リンクルをいくら次の方と違う色にしてても先々同じ色に隣り合わせになったとしてもしかたない。渡すとき気をつけねば。
一人のお客さまに服がひとつしかない場合はリンクルはしない。
入荷した荷物の片付け これで終わった~~~。
レジを教えてもらう。
レジ ボタン多すぎ。洋服の種類ってこんなに多いんだ。
あらためて びっくりした。
まずスーツ上下1100円。えっっ高っっ。
ワンピース 1000円。厚手やロングだとそれぞれ200円プラス。
この値段に消費税。高い…。
火曜日と土曜日は3割引の日。1000円が700円。それでも高い。
高いと知ってたから ウチはこのクリーニング店には 確かに来なかった。1度 知らずに電気カーペットの上に敷くカバーを出す時 2500円と言われて 新しいの買えるって思った。結局 また持って帰ってエレベーターなしの4階まで抱えることを考えると今回は出しておこうと決めたけど。それ以来 ここのお店は利用しなかった。
ちょっと距離あるけど5枚1000円のお店があったから そこにずっと出してた。
こんなに高いのに来店してくれる人いるのかな。
値段 伝えたら 何年か前のワタシみたいにビックリしはるんじゃないだろうか。不安。
「値段表あるよ」水樹さんがカウンターの下から出してくれた。
うわー分厚い。開いてみると 字が小さい。種類多すぎ。
レジと照らし合わせる。これは大変。
昔から暗記が苦手。覚えられるかな。
一抹の不安どころか 前途多難だ。