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あれから3日が経った。その間に北と南の学園が同時に襲撃され被害は、瞬く間に拡大した。連れ去られた生徒の数も増え、苛立ちだけが募っていく。






「まだ行方は掴めねぇのか」





「申し訳ありません。撹乱させようとしているのか、名のある妖たちに邪魔立てされてしまい」





「タマ、何か案はないん?このままやと、皆が祟り神になってまうで」





酒呑童子討伐本部として用意されたホールには、東西南北の学園から代表として50人が集まっていた。各学園を手薄にするわけにもいかず、これだけしか集めることができなかったのだ。





「私は探知能力低いからなあ」





「探知能力低いんかよ、お前」





「うん、まあそもそも探知能力の高い鎌鼬や風狸たちでも分からないんだから、私に分かる筈がないんだけどね?」





「どうにかならないのか?」





「う”ーん」





高身長で顔の良い奴等ばかりに囲まれれると、回転する頭も回転しないというか。威圧感半端ねぇって。西南北の妖たちには、巫女だからと言っているが訝しげに私を見ている。こんな女に何が出来るんだって顔だ。






「ーーお忙しいところすいません」





「蝶子?」





「タマちゃん、お電話が掛かってます。朝来られたときに、携帯を教室に忘れて行かれたでしょう?」






「あり、ホントだ。ありがとう、お蝶ちゃん」





ひょっこり顔を覗かせたお蝶ちゃんから、携帯を受け取って着信履歴を見る。ズラリと並ぶ同じ名前は、ひっきりなしに私へ掛け続けていたらしい。ピカッと画面が移り変わり、その人物から着信が入った。






「あー。もしもし、環妃です」





『お。やっと出たな、環妃』





「お久しぶりです、志那(しな)様」






電話の相手は、私に武道という武道、尋問の手管を叩き込んだ終宵さんのご友人だった。ちなみに、『ワタツミともあろう神が、小娘ごときの存在で泣くとは』と笑った方である。






『久しぶり久しぶり。ところで、お前って酒呑童子たち探してるんだろ?海神から聞いたんだけどさ』





「えぇ。かんっぺきに行き詰まってますけど」





『そう!それでな、うちの領域に入ってきたみたいで、下の者共が引っ捕らえたみたいなんだけど。始末を頼めるか?』





「…は?いや、え?それ、手下とかじゃなくて?」





『あー、うん、手下っちゃあ手下かな。茨城童子なんだけどよ』





「は?」





『流石にこっちじゃ手に負えねぇわけよ。お前の手を煩わせてしまうのもあれなんだが、手出しできねぇし』






まあ、うん、神様だしね?





『その代わりに酒呑童子の動向を聞き出してある。環妃が後始末してくれねぇか?』





「あー…それは勿論、私の仕事ですから構いませんが」





『おう、サンキューな。そっちの扉とこっち繋ぐから、来てくれるか?』





「分かりました」






なんか、いきなり急展開?物言わなくなった携帯をポケットに入れて、やっと注目されていることに気が付いた。ほらな、探知能力低いだろ。見られても気付かないんだぜ。





「呑気に電話か」





「出なかったら後が怖いので。それと、今から1時間ほど留守にしますが、大丈夫ですか?」





「急用か?」





「知り合いの所に茨城童子が忍び込んだそうです。動向は聞き出してあるそうなので、私に後始末をと」





「なっ」





「詳細は戻り次第に」





扉が繋がれた。神気を帯びた風が隙間から吹き込んでくる。まるで私を誘うように、私の髪を揺らす。なんでまた志那様の所に忍び込んだのやら。





「…気を付けて」





「はーい」





志那様は、武道派のおっかない神様だ。けど懐に入れたらすっごく甘やかすの。これでもかってぐらい。志那様の花嫁は、一般女性なんだけど弓道の腕がピカ一らしくて、中学生の頃から全国大会の常連だったそうな。勿論、この方も懐に入れたらデロデロに甘やかすタイプ。だから、というのは可笑しいが、志那様の古い知り合いである私も大事にしてもらっている。






「お邪魔します」





「来たか、悪いな急に呼び出して」





「いえ、行き詰まっていたので良かったです。あ、真弓様のご懐妊おめでとうございます」





「お、ありがとう。聞いていたのか」





「風の噂で。体調はよろしいんですか?」





「最初は悪阻で寝込んでいたんだが、安定期に入って元気になったぞ!女人とは凄いなあ」





けらりと笑う志那様。同調したかのように銀の髪が風に揺れた。優しく笑うようになったよなあ。花嫁の真弓(まゆみ)様と出会う前は、いつも殺伐とした雰囲気を纏っていたのに。良いことだと思う。うん、本当に良いことだと思うよ、私は。






「また生まれたら教えてくださいね。それで、その真弓様と御子の安全を脅かした鬼は何処です?」





「蔵に閉じ込めてある。茨城童子は、俺の槍を酒呑童子に捧げると言っていた。俺の槍は最強だからな!あ、酒呑童子は京都の丹後にある大江山を根城にしていると」





「大江山かあ。伝説で有名過ぎだから、そこには居ないと思ってました。まさか、土蜘蛛や三鬼なんかも居るって言うんじゃ…」





「下の者に見に行かせたところだな、」





「あ、良いです。言わないでください」





「確認が取れた。他にも名だたる妖が多くいるそうだ」





「言わないでって言ったのに!!」






くそぅと漏らせば、志那様はまたけらりと笑った。私をおちょくるところは変わりがないらしい。そういえば連絡を取るのも会うのも、真弓様との華燭の式(結婚式)以来だっけ。






「お前だけで大丈夫か?いくら海神が酒呑童子を祟り神と認めたからとはいえ、数にしたら百は下らねぇぞ」





「他の同業者にも協力要請を出していますから、奴等の手下を一掃するのに私の出る幕はありませんよ」





酒呑童子に従う妖たちは、祟り神の手下である妖魔として魂に刻まれる。妖魔自体にも何パターンかあるが、犬っこたちが妖魔を倒してもタブーを犯したことにはならない。けれど元は妖。妖の血で濡らしたくないというエゴは、今回ばかりは捨てなければならないのかもしれない。






「環妃の思うところがあるのかもしれねぇが、使えるもんは何でも使えば良いんだ。お前ばかりが背負い込むな、分かったな?お前ばかりが怪我をしたら、海神がまた怒るぞ」





「…はい」





私の心を見透かしたかのような言葉に俯けば、志那様は私の頭を優しく撫でた。鍛練で失敗した時や、終宵さんに叱られた時、こうやって頭を撫でてくれたのは志那様だった。励ましてくれて、原因を一緒に考えてくれた。兄のような神様は、やがて父になる。感動で胸がいっぱい、になるのは酒呑童子の件が終わってからだろうなあ。






「ーー真弓に会っていくか」





「いえ、それはまた何もない日に。ちゃんとした格好でお会いしたいですし」





「そのままでも良いんだぞ?」





「私が嫌です。小汚ないままでは会えません」





「神経質になったな。昔は田畑で泥まみれになって跳ねてたくせに」





「志那様は少し気を使ってください!!妊婦さんに何かあっては遅いんですよ!?そもそもずっと外に居らしたんですか!?真弓様の安全を自分の目で確認されましたか!?ご自分で、真弓様に大丈夫だと仰られましたか!?」





「あ、いや、まだだが」





「なにしてんだ!!さっさと行け!!」






志那様のお尻を蹴っ飛ばした。その勢いで、その場から足早に居なくなる志那様を見送って溜め息を吐いた。志那様の部下たちも、私の言葉にうんうんと頷いていた。外部の者が神域に侵入したら、結界は歪みを生み出しかなり揺れる。真弓様のお心を思うと何故か私が申し訳なくなる。まったく、まだまだ気遣いが足りないな。






「それじゃあ、私は奴を始末するので見届けをお願いします」






頭を下げた部下たち。式神だから喋らないんだよね。いや、喋る式神も存在するけど、志那様の場合は身の回りの世話をする式神たちだけが喋る。真弓様の為にリニューアルしたとかなんとか。人の世界に戻れるのは年に2回だけだから、話相手は必須だよねー。






「おやすみ、大江の女鬼。お前様たちの夢は、悪いけど私たちの手で握り潰させてもらうよ」






結論から言うと、茨城童子は死にかけだった。志那様がキレたんだろう。あの神様は自分のテリトリーが荒らされるのを嫌うから。真弓様が身籠ってるから、導火線はかなり短い筈だ。息も絶え絶えな茨城童子を見下ろす。『あ、虫の息ってこういうものか』と漠然と思いながら茨城童子の心臓を刀で貫いた。


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