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少年の決意

 先程やったはずの作業を終え、右ポケットに入っている懐中時計を確認する。針は三時を示していた。

 それはありえないことである。この時計がなぜだか止まって、なんらかの原因で自分は記憶が省略された、と考える方がまだありえた。

 だって、そうでないとしたら、それはつまり。

 花壇の縁に座っていたタクミに声がかかる。

「お疲れ、タクミ。」

 そして次に続く言葉は、異なる二つの声が重なっていた。

『水を持ってきたんだ。いる?』

 予想通りに予想外な結果だった。

 そしてこの、時が戻っているとしか思えない現象は体感にして四時間ほども続いた。何度も数分前に戻り荷物を運ぶのは、体は疲れなくても精神にきた。

 初めて休憩時間中に水を飲めた時、友人に聞いてみる。

「なんか変なこと起きなかった?」

「変なこと?……荷物が自分で動き出したとか?」

「え、それほんと?」

「嘘。どうした?」

「いや、大丈夫。なんでもない」

 周りを見てもそのような話題には一切なっていない。この摩訶不思議な体験をしたのは自分だけのようだ。

(疲れてんのかなあ)

 それが一番可能性がありそうだ。

「ちょっとトイレに行ってくるわー」

「ん」

 タクミは離れたところにあるトイレに向かう。


「はあー……不思議なこともあるもんだなあ」

 人目から離れたことで溜まりに溜まった疲れが一斉に出てくる。インターバル走みたいな、まだあるの?という感じが非常に堪えた。さっきと比べればこれだけ時が進んだのだ。ようやくあれも終わったのだろう。

 しかし、今日の不運はこれからだった。

 用を足し外に出ると、微かに、だが確実に悲鳴と怒号が聞こえた。そういえば中央広場で国民ならば歓喜すべきイベントが開催されている。タクミたちはオトナの事情とやらで作業に参加させられたのだが、何があるのか知っていたし、自分も見たかった。「史上空前の国賊」とやらを。ただ悲鳴が混じっていたのが気になる。処刑がとんでもない方法だったのだろうか。気になる。

(ちょっとくらい………いいよね)


 忍んで向かい、脇道から中央広場を覗く。見えたのは吊るされた賊、それに沸く市民――ではなかった。四肢や胴が散り散りになった大人たち、赤く染まった石畳。そして赤黒くなるまで血を吸い込んだ人間が、中央に立っていた。

「え」

 何もわからない状況だったが一つだけすぐにわかる。ヤツがこの惨状を作ったのだと。だが、脚が震えて動かない。

 ヤツは雑草を踏むが如く平気で「人の池」を進み、壇上に上がると国賊供をそれはそれは丁寧に降ろして祈りを捧げると、路地へと消えていった。

 ようやく脚が動いたのは、その直後だった。

「待て‼︎」

 だが脚は、「人の池」の手前で止まる。この光景と臭いで吐いてしまいそうだった。次の瞬間、そんなのはどうでもよくなった。

「父、さん……?母さん……?」

 色は記憶と程遠いが、わかる。わかってしまった。まさかうちの家族に、という薄っぺらい希望は目の前で散った。大声で泣いた。天が割れるのではというほどに。この場に、少年を心配する者はいなかった。

 涙が流れるたびに、悲しみも流れていった。空いた穴を憎しみが埋めていく。涙が乾くころには決意した。


 僕があいつを倒すのだ、と。


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