観測者
「はあ」
雨など降りそうもない晴れた青空の下に溜息が一つ。少年が自分の身長の何倍も荷物が積み重なった荷車を引いていた。毎日の労働による疲労で鈍る頭で妄想する。この世界を救うヒーローが現れることを。若しくは、自分がそうなることを。
この世に生を受けてからこの十年。強大な力を持った者たちにこき使われ、異世界を攻めるための準備をただたださせられるだけの日々だった。最低限の勉強さえさせられず集められ、皆と同じように作業をする。
もちろん疑問も不満もあった。しかし弱者にはこれしか道は無かった。
「ヒーロー」などという存在は架空である。
そんなことまだ十歳の自分でもわかる。かつて現れたというヒーローは、むしろ状況を悪化させ、今では諸悪の根源だ。
そんなやつらをぶっ倒せたら。
自分がヒーローとなり、蔓延る悪を次々に倒し、みんなに讃えられる。
そんな現実を知らない子どもらしい妄想を今日も思い描き苦痛に堪える。
午後三時。
課せられていた作業が一段落つき、少し高くなっている花壇の縁に腰掛ける。
「お疲れ、タクミ」
腰掛けた少年は同じくらいの年であろう少年に話しかけられる。
「水を持ってきたんだ。いる?」
「ありがとう。」
タクミは素直に水の入った金属容器を受け取る。
「はあ」
雨など降りそうもない晴れた青空の下に溜息が一つ。少年が自分の身長の何倍も荷物が積み重なった荷車を引いていた。
「――⁉︎」
重くもなんとか動いていた足取りが止まる。タクミは目を丸くして信じられない、いや、意味のわからない光景――彼の手には、水の入った容器ではなく、しっかりと木の棒が握られている――を見つめるていると、
「おいそこのてめえ!休んでんじゃねえぞ!」
後ろからドスの効いた声が聞こえ、戸惑いつつも前へ進む。