仮面の男。そして死
予定通りにはいかないと思われる事態に陥ったため、今後の計画を立てる。
元々なんとなくで考えていたプランはこうだ。
三日くらいで自分が来たことを世間に広め、異世界侵攻の首謀者の耳にその話を入らせ会合する。そこで「俺は自害も辞さない」とでも言って涙ながらの必死の演技をする。救世の英雄がここまでするのだ。言うことを聞くだろう。もしダメだったら力ずくで。
しかし、まさか作戦の根本部分が揺らぐとは。
「誰かは捕まえて訊かなければなければならないか」
たった一人の反応で全てを知った気にはなれない。
彼らが勇人を勇者、英雄だと認識していれば良し。そうでなければその原因を探り、再び自分を英雄として尊敬させなければならない。
それともう一つ。かつて共に世界を救ったかけがえのない仲間たちを見つける。それができれば手っ取り早いが、出会える可能性は低い。もう一度ここへ来るなんて思ってもいなかったため、残念ながら集合場所なんて決めてないし、遠征しかしていなかったためそれぞれの自宅なんて知らなかった。こちらの計画は理性によって優先度を低く設定する。
「一人見つけて、話を聞く。さっきと同じように逃げるなら『冷たい平和が二人を別つ(ピース)』をした上で聞けばいい」
能力の一つを使う事は自身のポリシーに反し先ほどの発言と矛盾するが、背に腹は変えられない。
いざという時の覚悟を決め、人のいるところへと向かう。
暗い脇道の目の前に、縦に開いた瞳孔を持つ、黒髪で仮面をした男が歩いていた
(う……やばそうなやつだ。いや、ここで怖気付いていてもしょうがない。)
人見知りスキルを根性で押し退けて男に自信をさもたっぷり持つような態度で話しかける。
「なあ、そこの君」
「……その顔。お前は佐藤勇人、で間違いないな?」
男の姿をした者は驚愕の色を瞳に燈らせた後、静かに、だが烈々とした敵意を持った声色で話しかける。
「それが――」
次の瞬間、勇人の目には、逆さまに、首から上がない「佐藤勇人」の身体が映った。
「 」
声を出そうとしたが、一音ですらその口から出ることはなかった。
遠くを見る虚ろな瞳にはもう、闇しか映っていなかった。