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考察

「それにしても、何だったんだ?あの反応は」

 少し離れた通りに誰にも会わないよう移動しながら、不可解な悲鳴の理由を考える。

(もしあれが別人と勘違いしての反応ならあのエルフだけだろう。もしかしたら急に物陰から出たからヤバいやつと思われたのかもしれない。コミュ障全開だったしな)

 そうでないときに真っ先に思い浮かぶ別の可能性。それは自信が悪者という認識をされていること。これはまずないだろうとすぐに否定する。なぜなら勇人は、この世界において圧倒的な力を持っていた破滅をもたらす存在——『憤怒の魔王』を倒した勇者であり英雄なのだから。

 もしくは。

「顔が変わっている?」

 この仮定は蓋然性は乏しいが考えられる。

 前回この世界に来たときに既に判明しているのだが、ここへは身体ごと来たのではなく、精神のみが抜けて来てるのだ。そして精神が思い描く自分をこの世界で肉体として形成する。常識的には理解できないが、魔法がある世界ならそういうこともあると納得していた。

 つまりそもそも今の顔や身体は本当の、元の世界と同様のものではないのだ。前回はほとんど同じではあったが。

「もし俺の自分のイメージが変わっていたならそれもあるのか。そもそも俺は十も歳をとっている。何かは確実に違っているはずだよな」

 考えを整理するために小さく呟いていく。

 全くの別人と思われる可能性は低いだろうが、人によっては違う人だと認識するかもしれない。

 それを確かめるためにすべきこと。それは

「あー、スマホのインカメでいいのか」

 今の自分の顔を見ることだ。その考えが浮かんだと同時に自分の顔を見る方法を思いつく。スウェットの右ポケットを探るといつも使っているスマホが見つかる。どうやら自分が想像する「佐藤勇人」はスマホを持っているようだ。

(よし、問題なく動くっぽいな。あとはカメラを起動して……)

 画面越しに今の自分の姿をここに来てから初めて見る。

 映るのは自分なのか。それとも。

「これは――」

 勇人は瞠目した。


 スマートフォンの小さな画面に映る自分。それは若き日の、十五歳の己の姿であった。

(そんなに驚くことでもないのか?)

 ただ、明らかに本当の姿よりも美化されていた。

 肌は透明感とハリがあり滑らかで、髪も整ったキューティクルが光を反射して光輪を作っている。目も心なしか大きい。

 これは自分の中での認識では佐藤勇人はこの姿である、ということだ。

(俺の中での俺自身は、十年前で止まっていたのか。)

 美化された姿には特に感じるところはなかった。しかし、この十年間で感じていた違和感の正体を知ったような気がして、物悲しい、自分を卑下するような感情が芽生える。

 彼の中での時計の針は、あの時から進んではいなかったのだ。遣る瀬無い気持ちに侵された。


 しばらくして感情の侵攻が弱まった合間に、ふと、疑問の原点回帰が起こる。

「だったらさっきのは何だったんだ?」

 エルフの忌避するような悲鳴を思い出す。

 正直言って、急にこの場にやってきた余所者が何度考えたところで、一人でどれだけの時間悩んでいても解決しない難題であった。

 事は急を要する。勇人は二つの異なる世界の英雄になるのだ。そのために瀕死の重傷――見れていないからわからないが――を負ってここに来たのだ。

 現実と想像との乖離を早急に埋めなければならない。

 本人は考えていなかったが、二十五歳の彼の心はそう叫んでいた。


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