0.勇者は凡人へ
「ありがとう、勇人!この世界を救ってくれて!」
艶やかな青髪の少女が、白く飛んでゆく視界の中叫んだ。
「ああ、俺からも感謝するよ。みんながいなかったら、俺は今頃向こうで燻っていただけだったと思う。……何より、みんなと出会えて良かった!」
段々と色が薄れ消えていく少年の周りを人間が、魔法使いが、エルフが、ドワーフが、ドラゴンが、アンドロイドが囲んでいる。それぞれの目からは――アンドロイドは除く――大粒の涙が溢れている。
中央にいる少女の瞳が恥じらいを隠すように泳いだが、勇人の赤くなった目を見つけるとジッと見据える。顔がほのかに紅潮し、紅い唇を少し尖らせる。
「――す」
一拍の間を置く。
「ずっと好きで――」
少年、勇人の記憶はここで暗転した。
●
気が付くと、そこには知らない白い天井があった。口には覆いかぶさるようにして空気を流し込んでくるものが、左腕には半透明の管が繋がる針が刺さっており、ここが病院だとわかる。
(そうか、俺は現実に帰ってきてしまったんだ。)
少年がヒーローになれた場所はもうその目の前には存在しない。
(さよなら、異世界。)
――それから10年が経った。