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約1000字短編

作者: 真

 明日夏(あすか)は雨の降る窓の外を眺めながら、うーんうーんと唸っている。

 彼女の前には一冊の教科書が開かれ、傍らのノートには何やら訳の分からぬ数字と記号が羅列されている。明日夏は明日から始まる期末テストを前に勉強に励んでいるのだ。


「あー、無理っ」


 目の前に広がる非日常に彼女の理解が及ばない。数列だとかベクトルだとか、読めはするけれどそれが何なのかいまいちピンと来ないのだ。それならばまだ古典を勉強するほうが話がわかるだなどと意味のない論を脳内で繰り広げながら、それでも机にはきちんと向き合う。右手に持つシャーペンがすらすらと動かなくても、なんとか少しずつ前に進もうとする。

 彼女にとって期末テストは最後の砦なのだ。それは防衛的な意味ではなく、攻撃的な意味での。

 そこさえ乗り越えれば、部活に入っていない明日夏にとっては待望の夏休みが始まったも同然なのだから。

 夏休みは友達と遊んだり、浴衣を着て夏祭りや花火に出かけたり、もしかしたら運命的な出会いがあるかもなどと少し夢見がちなことも想像している。おばあちゃんの家に行ったり、西瓜を食べたり、あるいは暑い中で冷たい麦茶を飲んだりすることも彼女にとって最高の瞬間の一つだ。

 そんなことをついつい考えていると、やっぱり自分が勉強に集中できてないことに気づいてハッとなる。そして明日夏は再び視線を机に戻そうとする。

 窓の外を降る雨は、数日続いている。だけどもうすぐ雨は降らなくなると天気予報では言っていた。そうすれば大好きな季節を実感できる。

 明日夏は一息ついて、もう少しだけ机に向かおうと決心した。辛いことを乗り越えてこそ、より強い開放感を感じられることを彼女は知っていた。


 次の日から始まった期末テストは順調とまではいかなかった。もう少し勉強しておけば良かったかもと思ったのは一度や二度ではない。それでも目の前のことに一所懸命に取り組み、なんとかなったとは言い難いが、どうにかその一つ一つを乗り越えていった。

 そして期末テストの最終日。最後のテストが終わって帰る準備をしていると、しばらく降っていた雨が止んでいることに明日夏は気づく。

 青い空が雲間から見え、それが徐々に広がっていく。

 教室の窓から顔を出すと、雨上がりの湿った匂いと雲間から差し込む強い日差しを感じる。


「明日夏おいてくよー」


 友人の声がした。


「待って待って」


 彼女は急いで帰る準備をする。

 まだ少し涼しい。それでもいいのだ。これからきっと暑くなる。

 明日夏の大好きな季節がすぐそこにある。

 準備を終えた彼女は友人に駆け寄って言った。


「お待たせ」


 今年も、またあの夏がやってくる。

夏の到来を短編にしてみました。

この短編は、夏の到来をきれいに実感できるように書いたつもりです。

それが少しでも伝わったら嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 始めまして。 最後の試験で最後の問題の答えを解答用紙に書き終わったところで日が差し込んで来ても良かったかもですね。同時に試験終了のチャイムを鳴らして。
[良い点] 夏を感じることができました。花火、すいか、麦茶。夏のイメージがとても濃かったです。 それに、明日夏の字をみたら、まるで明日から夏が始まりそうなそんな感覚を覚えました。 [一言] 初めまして…
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