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8 野宿始めました。

「……」

「ん? か」


 立ち止まった私に不思議そうに声をかけてくる相子に、私は光の早さで振り向いて口を塞ぐ。そしてゆっくり階下を示す。

 私たちが上から降りてきている階段の下、見えるようになった部分には悠々とボス犬が寝そべっている。


 最初に入ったときと違って、入ってきた部分も空いたままだけど、どう考えてもボス犬を無視して帰るのは無理だ。


 相子を押して二回に戻ってから手を離してやる。


「ぷはぁ。奏、ちょっと乱暴じゃない?」

「ごめんって。仕方ないじゃない」

「仕方ないけど。で、どうしよう……が、頑張る?」


 胸の前でぎゅっと杖を握って小首を傾げて可愛らしさ発揮する相子だけど、いや、頑張らねーよ。

 もうすぐにでも休みたい。ボス犬でも倒せる自信はある。相子のスキルが増えたし、多分レベル増えて魔法回数も増えたはずだし。けど、安全を考えたら時間は絶対かかる。

 遅くなって、それからまだ通路を通るとか無理。疲れた。今日はもうお休みモードになってたし。無理無理。


「泉で休もうか」


 泉は比較的弱めの魔物が少なくくる傾向がある、みたい。まだいた時間も短いし確信はないけど、多分。

 だからそこで、もう交代で寝よう。それしかない。て言うかもう、相子が見張ってて?


 回復の泉に行き、じゃあとりあえずご飯食べましょう。水も飲み放題だし。それで交代で見張ろう。まず順番はー、じゃんけんで決めましょうかー。とゆっくり言ったのに全然察してくれなくて普通にじゃんけんした。

 負けた……負けたぁぁ。くそが! 相子疲れるほど、まあ、疲れてないってことはないか。でも私の方が疲れてるだろうが!


「じゃあ、ご飯食べたら早めに寝てね」

「あ、うん。でも、私別に後でいいよ? 今後も含めて。前衛の奏の方が体力使うでしょ?」


 ……言うのが遅い! でもありがとう! 信じてた! 相子ちゃんがいい子だって、私知ってた!


「そう? 悪いわね。でもそう言ってくれるなら、遠慮なく先に休ませてもらうね?」

「うん。どうぞどうぞ」


 てな訳でまずはご飯食べた。腰を下ろして休憩してたら、回復の泉も飲んだし案外楽になったけど、寝ないわけにはいかないもんね。

 私はさっさと寝る準備をする。ペットボトルにいれた水で、泉から少し離れて口をゆすいで顔も洗う。

 見張りをしてもらうのでマントを借りるわけにはいかないし、仕方ないのでブレザーを頭の下にだけひいた。念のため胸当てはつけたままで。


「じゃあ交代は……2時間ずつくらいでいい?」

「んー、そうだね。そのくらいかな。今20時だから朝の8時からにする? 12時間で6時間睡眠になるし」

「そうだね。あんまり遅すぎても困るし、そのくらいでいいでしょ」


 早くクリアしたいしね。携帯電話で時間を確認する相子に、何となく私も自分の携帯電話で確認しながら返事をする。


「ん? あら?」


 そして異変に気づいて首をかしげる。私、電源つけっぱなしにしてたのに、全然電池減ってない。いくら使わないとは言え、待機でも多少は減るわよね? あらら? もしかして、最初から全く減ってない?


「? 奏、どうしたの?」


 鈍くて気づいていない相子に携帯電話の充電のことを教えてあげる。


「え、そうなの!? 私、電源を切ってたから減ってないのかとばかり」


 あ、わざわざ切ってたんですか。気がききますね。

 ともあれ減ってないなら、まあ困ることはない。て言うか時計とアラームくらいしか使えないけど、あるかないかじゃ大違いだ。

 ともかくそんな感じで、交代しようと約束して、さっそく私は眠りについた。








「お休みなさい」


 奏はそう軽く挨拶すると、さっさと目を閉じた。奏にとっては集中すると少し騒がしいくらいだと言うけど、魔物の鳴き声も音も私には全然聞こえない。

 しんと静まり返っていて、隣で無防備に寝転がっている奏の息遣いだけが聞こえている。


 魔物の出現はややランダムだけど、少なくともこの回復の泉で10分未満で出てきたことはないし、長いと30分は出なかったから、多分大丈夫だと思うけど、やっぱり不安だ。

 魔物が少ないし、魔法ならホーミングで楽勝だとは言え、やっぱり不安だ。


 奏なしで一人で戦ったことはない。いつも奏の背中が、私の前にあって、ずっとそれに隠れてばかりだった。だけど今は守ってくれる人はいない。それどころか、私が守らないといけない。


「……」


 どきどき、と心臓がうるさくなったのを自覚して、私は右手で胸元の服をぎゅっと握る。

 奏を守らなきゃいけない。そう思うと、さっき二人でやっつけたところだからまだ大丈夫だと思うのに、緊張で指先が震えてくる。


 奏はずっと、こんな風になっていたんだろうか。

 頼もしい背中で、私を守り、ずっと気遣ってくれていた奏。どうしてあんなに、当たり前みたいにできたんだろう。


 左手で杖を握る力を強くしながら奏をそっと見つめる。


 何故か明るい洞窟だけど、奏は顔を隠すこともなく上向きで堂々と寝ている。

 いくら弱いと言っても、ここは魔物がでる。私は震えるくらいなのに、どうして眠れるんだろう。奏の強さはどこから来るのだろう。不思議でたまらない。


 奏を見ていると、不思議と震えは収まった。手の力をゆるめ、右手も杖に戻して座り直す。壁を背にして入り口を向いているので、少し奏に目をやっても見落とすことはない。

 ぼんやりと奏を見ながら、時間が過ぎるのを待つことにした。


 万が一たくさん来たり、強いのが来たら奏を起こせばいい。奏自身がそう言ってくれている。だけど奏はゲームじゃなければボロボロになるくらい頑張ってくれてる。できるだけ避けたい。


 もそもそ


 頑張ろう。大丈夫。できる。そう自分を鼓舞していると、かすかな物音がして私はばっと顔をあげた。そこには20センチくらいの芋虫が三匹いた。


「っ」


 もう何度も見てるし、奏なんか踏み潰して殺したりもしたけど、やっぱり大きいと思うし、怖い。でもまだましだ。二階で出てくる生き物の中では小さい方だ。芋虫は大きな声も出さないから、奏を起こすこともない。


 立ち上がって杖を構えて、私は小さめの声で唱える。


「『ファイアーボール』」


 ぼっと出てきた炎は私が全力で投げたボールみたいな早さで飛んでいき、芋虫にあたる。きゅ、きゅとちょっとだけ可愛らしい声をあげて燃えた芋虫は、ばたばた手足を動かしてから消えた。

 多分だけど虫系は炎がよく効くんだろう。見た目は無傷のまま消えていくから、残酷さに躊躇う必要もないのが幸いだ。


 他の二匹がもそもそ近づいてこようとするので、奏が糸吐き攻撃の範囲に入ってしまう前に、私から奏と反対側に誘導するように移動しながらさらに魔法をつかう。


「『ファイアーボール』」


 それを繰り返して、何とか三匹とも倒すことができた。芋虫の落とすドロップアイテムは飴玉だ。昔懐かしい表面が砂糖でざらざらしてる、大きめのやつが3つ入った小さな袋が落ちている。中の味はそれぞれ違う。


 一袋は私のものにしてもいいだろう。一つみかん味を口にいれ、元の場所にお尻をおろすと、心臓がばくばくしだした。

 き、緊張したぁ。はぁ。疲れたぁ。


 大したことは何にもしてないはずだけど、一人で立ち向かうと言うのは、物凄くプレッシャーだった。 


「はぁ」


 こんなこと、普通にしてたなんて。改めて奏の凄さに感心する。

 奏を見るけどちゃんと寝てる。よかった、騒がしくして起こさずにすんだ。


「……」


 奏は静かに眠っている。その姿からは、あの勇敢な姿なんて全然想像できない。大人しそうな真面目委員長系で、武器を振って戦うなんて似合わなさそうなのに、戦闘中は様になっていて、すごく格好よくて、凛々しい。


 どきっ、と心臓が動いた。


 ぶるぶると頭をふる。いやいやいや。何を考えてるんだ私は。こんな状態で。いやこんな状態だから依存してる? いやいや、て言うか、今のどきっはただ緊張が続いてるだけだから。

 ほんと、それだけ。奏が格好よすぎて、でも寝顔が可愛くて、ちょっと触れてみたいなとか、全然? そんな変なこと考えてないし?


「……はぁ」


 私は真面目に見張りに勤めようと、精一杯奏から視線をそらした。


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