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7 一階終了

 その場でそのままお昼ご飯を食べて、休憩してついに薬草を試すことにした。ご飯でも少し回復した感じはするけど、ボス犬にも避けきれずにぶつかったりしてたし、まだ今日は半分あるからね。

 薬草は貴重だけど、私の命の方が大事だから。相子も賛成してくれたしね。


 そして午後。ひとまず登り階段は無視して、復活している入り口から残った通路を散策した。右の通路は短めですぐ行き止まりだった。

 チョコ5つしかゲットできないまま、真ん中の通路へ行くとまたまた分かれ道。ボスは倒したんだから、それほど大変なことはないと思うけど……。


「相子、どっちに行く? さっきは私が選んだし、どうぞ?」

「えっ? わ、私? でもそんな、奏の方がよく目も耳もよくきくみたいだし」

「いや、通路の奥は見えないんだって」


 見えてたらボスにひっかかるかっての。こう言う通路でわかれてるところは入り口のとこと同じで、向こうが見えないし、詳しくわからないのだ。

 そう説明したのにでもでもと断る相子。まあ、仕方ないか。相子と私の差は結構目に見えて激しいし、自信なくなるのもわからなくはない。


「じゃあ選ぶけど、恨みっこなしだからね?」

「もちろん! 奏となら大丈夫だよ!」


 さっきのミスも合わせて責めてくれるなよ、と暗に言い含めると相子は何ら含むところのないように笑顔で応えた。あ、はい。

 相子がいい子過ぎて、なんと言うか、ひくわぁ。ちょっとくらい腹黒いとこを出してくれないと、私だけひどいやつみたいじゃん?

 私、別にいいやつではないけど、そんな酷くもないよね? 普通普通。誰だって頭の中ではこんな感じだね? うん。


 気を取り直して相子の頭を軽く撫でてから、左の通路に向かう。


「お?」


 中に入るとすぐそこにひらけた空間があり、大きな水溜まり。いや、深いから泉かな?

 近づいてみると綺麗だ。とりあえず剣先を入れてみるけど、特に何かが噛みついてきたりはしない。魚がいないのは見てわかるけど、万が一があるからね。


「ん? そう言えば、回復の泉があるって書いてあったっけ?」

「え? あ、そう言えば、あったかも。じゃあこれが?」

「うーん」


 普通なら飲むなんて考えられないけど、普通な状況ではない。怪我をしないし、魔物も目に見えて傷ができて血が出たりはしない、そんなクリーンなゲーム感ありありの状況だ。

 ならまあ、飲んでみるのもありか。


 そっとしゃがんで指先だけいれる。特に痺れたりぬるぬるしたり、おかしなところはない。とは言え両手の感覚がすでに麻痺している状態なので、断言はできない。

 掌まで沈めて掬いながら顔を寄せて嗅いでみるが、特に臭いはない。そっと頬にだけ水をつける。顔はまだ麻痺していないが、同じく何も感じない。少し冷たいくらいだ。


「……大丈夫そう。飲んでみるね」

「ほんとに? もっと気を付けた方がよくないかな?」


 舐めるのには抵抗があるので時間稼ぎに口を開いたけど、相子は後ろから覗きこんでくるばかりで、私が代わりに飲みますとか言わない。

 イラつきつつも、水を掬いなおして、そっと舌を伸ばして触れてみた。頬で触れたときほど冷たさは感じない。


「ん、問題ない、かな。とりあえず相子はもうちょっと様子を……あ」


 空きペットボトルに補充しながら相子には、私のお腹の様子がわかるまで飲むなよと言いながら、さっきまで麻痺していた感覚が戻ってきていたのに気づいた。

 少し舐めただけなのに、全身が元に戻っている。私は手をグーパーしてその感触を確認しながら、相子に声をかける。


「やっぱり回復の泉だよ。ほら、相子も飲んで! MPも回復してるか確認して!」

「あ、う、うん」


 入れたばかりのペットボトルを渡すと、相子は戸惑いながら口をつけた。急かす私に、実感がないのか不思議そうにしつつも、相子は私に背中を向けた。


「『ファイアボール』、あ、出た。大丈夫みたい」

「よかった。これがあれば安心だね」


 飲み終わったペットボトルも取っておいてよかった。貧乏性最高!


「あ、そうだ。水を飲んだら、折角だし交代で顔とか洗おう」

「あ、そうだね。じゃあ」


 相子はもう一口飲んでから水をくみなおし、キャップをしめて私に返してにこっと微笑んで見せる。


「奏から先にどうぞ。私見張ってるから、武器おいても大丈夫だよ。ゆっくり休んで」


 おっ。気が利くわね。よろしい。私もそう言おうと思ってたところよ。


「ありがとう。お言葉に甘えるね」


 と言うわけで、まずは剣や胸当てを外して地面に置いて、と。タオルはないしハンカチでは物足りないから、汗もかかないしYシャツの下に着てるTシャツで代用する。

 ブレザーYシャツTシャツと脱いで汚れないよう胸当てにひっかける。下着姿でちらっと相子を振り向くと、おい。なにこっち見てんの。


「ご、ごめん」


 目が合うと相子は慌てたように前を向きなおした。覗かれていたのかっ。

 いや、女同士だし、恥ずかしいけど許すよ? 許すけど魔物来てたら許さないから、見張りはしろよ。


 気を取り直して、顔を洗ってシャツで拭いてから、シャツを水に入れて擦り合わせるように洗ってから体を拭く。

 気持ちいいから、ついでに下着も外して拭く。いざと言う時のためにスカートははいたままです。さすがにこれはね。見られるのはね。毛深いの気にしてるし。


 足の裏まで綺麗にしてから、服を全て着る。ゲーム的に地面に触れたからって汚れてないみたいだし、あんまり潔癖にすることはないけど、やっぱり拭くと精神的には気持ちいい。すっきりした。


「相子、変わるよー」

「う、うん」


 相子と交代する。相子にも同じようにしなよと言ったけど、どうやら下にシャツを着てなかったらしい。Yシャツに汗つくし、毎日洗濯するとなると大変じゃない?

 仕方ないから、よければと私のTシャツを渡す。遠慮なしに使ってくれた。もちろんいいんですよ。


「ねー、相子」


 狭い部屋だけど、入り口の暗闇からはときおり魔物がやってくる。数が少ないので慌てずに対処すればスキルを使うほどでもない。私も大部、魔物に慣れてきたな。


「なにー?」

「さっきのボスは慌てたけど、冷静に考えたらそれほど怪我はしなかったし、落ち着いていこうね」

「……うん! 私、もっと頑張るね!」

「うん。で、左側も見たら、次は上の階に行ってみようか」

「うん! わかった。頑張ろうね」


 お。相子のやる気も十分のようだ。さっきのでびびったかなって思ったけど、杞憂だったらしい。


「よし、終わったよ」

「ん。じゃあ、行こうか」


 さあ、回復の泉も手にはいったし、がんがん攻略して行くよ!


 と、思ったのも束の間。

 左側は通路があり少し進むと中ボス部屋があった。中にいたのは大型犬くらいのネズミだった。幸い相子の火の玉が弱点みたいで、体力的にもボス犬よりはましだった。


 ボス部屋に、まさか復活してないだろうなと戦々恐々と入ったけど何もなかった。ほんとによかった。そんな感じで何とか三階まで上がって、近くに回復の泉を見つけたところまでで、今日は終わることにした。疲れたし、時間もいいしね。


「それじゃ、戻ろっか」

「うん、疲れたー」

「私も疲れたけど、ホームに戻るまでは油断しないでよ?」

「わかってるってー」


 最初の出現位置をホームと呼ぶことにしている。安全で安心できる場所で、一日たったら戻って寝る場所だからだ。

 私たちは軽口を叩きながら一階へ向かった。


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