表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

3 初戦闘

「じゃあ、如月さん。私、ちょっと一人で様子見てくるから、待ってて」

「えっ、あ、危ないよ」

「大丈夫。必ず戻るから、ここで待ってて」

「……うん、わかった」


 どうなるかわからない以上、如月さんは置いていく。失礼だけど如月さんは足が早くない。いざってとき、逃げるのに足手まといだ。

 如月さんを見捨てるわけにはいかない以上、安全圏にいてもらいたい。


 如月さんの頭を撫でて誤魔化してから、私は意を決して、穴の奥へと足を踏み入れた。


 穴は入らなければ、数メートル先から見えないくらい真っ暗になっていたのに、中に入るとまるで自分を中心に照らされているように、歩く先からしばらく向こうまでが見渡せるようになっている。

 進むほど道が見えるとか、まさにゲームだ。振り向くと、逆に広場の如月さんの姿は見えなくなっている。場面が変わったんですね、はいはい。


 ワォーン


 遠吠えが聞こえる。さっきから聞こえてたけど、歩くほどに距離が近づいてきている気がする。相手は止まってるのか、または相手も近づいてきているのか。


 足を止めて、剣を構えて耳をすませる。


 ばたばたと足音や、遠吠えでない鳴き声、犬とは違うようななんとも言えないうめき声、吐息のようなおぞけたつ何なのかすらわからない音。

 それらが響きあって、闇の奥から風にのって流れてくる。気が張っているのか、ゲームシステムなのか、いつもよりよく聞こえる気がする。


「はぁ」


 緊張で震えそうな体を落ち着けるため、ゆっくりと息をはく。


「!」


 私の呼吸を感知したかのように、何か、生き物が近づいてくるのが息づかいでわかった。はぁはぁと何かが近づいてくる。

 心なしか、温度まで感じるような気にさえなる。唾を飲み込み、柄を握り直しながら睨み付ける。


 バフゥ


 息をはきながら、闇の中からゆっくりとそいつは現れた。たった一匹の犬。第三の目がある以外は普通に見える。

 でもこういうのって、もっと雑魚からでてくるものじゃない? 蝙蝠とか鼠とか。犬とか、現実世界のリアル犬でも大型犬は余裕で人殺せるし怖いんだけど。


 先手必勝、の訳がない。あっちは野生動物、もとい野生魔物だぞ。受け構えてたら避けるのなんか余裕過ぎる。

 ここは落ち着いて、カウンター狙いだ。手から肘までを覆う金属面がついたグローブがある。噛みつかれても大丈夫、なはず! 多分……いや、大丈夫、大丈夫!


 噛みつかれて、牙と言う武器を封じて、動きも限定させてから攻撃だ。そうじゃなきゃ当てられるかわからないし、攻撃して避けられてーの、相手の反撃をうまくグローブで受けれる自信もない。


 私は左手を噛みつかせることにして、右手は絶対離さないぞと力を入れる。


 グルルルゥ


 私の気合いに対抗するように、犬はうなり声をあげて歯をむき出しにする。こわっ。


 だ、大丈夫。大丈夫って言うか、倒さないとご飯なしだし。餓死なんて一番嫌な死に方だ。今まで1日3食から抜いたことない私には耐えられない。

 そして、魔物のエサになってやるつもりだってない。100歳まで生きてやるって決めてるんだ! こいつを殺して、帰るんだ! 私の血肉になれやこらぁ!


 びびりそうな気持ちを鼓舞して、私は摺り足のようにしてじりじりと近寄る。


 ! グォッ


「!!」


 しびれを切らしたのか、犬が尻尾を振りながら飛びかかってきた。思わず剣で斬りつけそうになるのを抑えて、予定通り左手に噛みつかせるため、左手で鼻先へ向けて殴りかかった。


 ガウッ


「いっ、『突き刺し』!」


 もしかしたらそのまま殴れないかと思ったけど、普通に拳ごと噛みつかれた。グローブは上側は金属だけど、手のひら部分の下面は皮生地で普通に痛かったので、キレながら技を繰り出す。

 右手は勝手にキレのいい突き刺しをして、犬の左足付け根から右脇腹へ串刺しにした。


 うえ。思ったより、生々しい感触だ。軽々と突き刺せたけど、ぶつりとした感触は全くゲーム的ではない。

 内心舌打ちしながら、痛みで犬が呻いて口を開いたので左手を柄に戻して、両手で振るう。


「どりゃあ!」


 さっきは片手なのでスキルを使ったけど、両手なら普通に振れる。剣を振りかぶるように引き抜いて、改めて突き刺した。地面でのたうち回っていた犬は避けることなく攻撃できた。


「お?」


 ぶすっと胴体に剣が刺さった犬は、一瞬揺らいだかと思うと煙のように消えて、体のあった場所にはコンビニでよくあるタイプのフィルムでまかれた三角おにぎりが一つあった。


「……え、こう言う感じ?」


 いや、お皿で出てこられても、持ち運ぶのが大変だけど、こんな現代のパッケージされたものがでてきちゃうの?

 まあ、いいか。回収してポケットにいれる。もちろん一つでは足りない。もっと倒さないと。


「……」


 左手を開いて見る。傷跡はない。血も出ていない。だけど痛みはある。しびれたような感じだけど、動きは問題ない。

 HPが減ってる感じなのだろうか。怪我としてでないなら、破傷風とかの心配がないからいいか。


 薬草の効果を試したい気持ちはあるけど、まだ軽傷だ。過剰回復を許すほど余裕はない。


 私は左手を握り直しながら、さらに先へ足を進める。


 しばらく歩くと、また一匹犬が出てきたので、同じ手法で倒した。

 二回攻撃を食らったせいで、左手の手首から先の感覚がないけど、また良しとする。

 

 倒すとまたおにぎりがでた。味はさっきのが梅干しで、こっちはおかかだけど、もしかして魔物の種類によって食べ物の種類も固定なの?


 おにぎりはまだいいとして、今後進んで、オムライスとか落とす魔物が出てきたとき、オムライスばっかりとか飽きないかな。

 まあ、そんなとらぬ狸じゃあるまいし、今はいいか。飲み物が欲しい。


 と思っていると、都合よく犬ではない音が聞こえてきて足を止める。ぱたぱたと音がしてる。鳥か?


 キキィ!


 蝙蝠だ! よ、予想内だけど、これに攻撃あたるか?


 とりあえず反撃されてもショボそうだからこっちから攻撃をしかける。


「おりゃ!」


 剣で斬りかかると普通に避けられ、こちらに向けて降下し、口を開っ!?


「どぅわっ!」


 蝙蝠の口から炎が吹き出されて、慌てて私は左前方に左手をついて、前回りするようにして転がって避けた。

 あ、危ない。魔法を使うのか。て言うか、思いの外私、アクロバティックな避け方したな。しかも自然に体が動いたし。こんなんできるのか。これもゲーム的恩恵なのかな?


 とか、考えてる余裕はない!


「『二段斬り』!」


 当たらないなら手数を増やす!

 とスキルを使ったけど、スキルのお陰か二撃とも攻撃はあたり、一回で蝙蝠を倒すことができた。

 出てきたのは500ミリペットボトルのミネラルウォーターだ。よし! 水きた!


 さらに進むと今度は二匹の蝙蝠が出てきた。『払い斬り』でなんとかなった。

 どうもスキルだと自然とホーミングみたいになるらしい。てか、何となくだけど攻撃の届く範囲や効果がわかってるみたいで、勝手に口がスキルを選んでる。

 これもまた、恩恵、なのかな? 便利だしなんでもいいや。


 少し慣れてきて、この調子なら楽勝だね、と思っていると、五匹の犬が出てきた。


 グルルルルゥ


 え、お、多くないですかね?

 そして全員臨戦態勢ですね。一匹くらいなら仲間にしてあげてもいいんですよ? 非常食として。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ