11 はい、ここでネタバラシ
百合話は前話で終わりです。
今回はタイトル通りネタバラシ的な内容です。
「きたーーーー!!!」
神は狂喜乱舞した。具体的には固有空間内を転がり回って少女たちのキスシーンを映す映像をバンバン叩いて喜んだ。
この、まるでPCだらけの部屋に引きこもりの無職みたいな様相の神は、百合の神だ。ガールズラブの神。同性愛の神から派生して生まれた、ボーイズラブの神との双子神だ。
「いやー! 苦節うんねん、えっと、25回目!? うわー、思ったより死んでるー。すごーい」
この百合神こそ、奏と相子を迷宮に放り込んだ張本人である。理由はダンジョン百合がみたいから。
適当にそれらしく迷宮をつくり、適当に目についた少女を送り込み、死んだらステータスそのままに記憶リセットして生き返るように設定して、百合っぷるになるようテストしていたのだ。
そして今回、24回死んで25回目のダンジョン攻略にて、ついに二人は結ばれた! こんなに目出度いことはない。長かったー、と百合アラームがなるまでろくに観察もしてなかった百合神は自分の手柄のように言った。
やっておいて観察もしないのだが、一応理由はある。現在百合神はどんどん百合人口を増やすべく動いている。その為どうすれば百合カップルができるか、色んなパターンを試験しているのだ。その膨大な数だけ、全て映像が空間内に表示されていて、空間を埋め尽くさんほどだ。いくら神でも常に全てに全力観察するのはめんどいし疲れるからやらない。
そのせいで割りと迷宮のシステム自体がやや雑なのだが、そのおかげで助かっている部分もあるので何とも言えない。
「とりまー、まず死なないようにしとこー」
とりあえずまあ、せっかくカップルになったのに死んでまたリセットされたら困る。あくまで目的はカップルにして、元の世界に戻して人口数を増やすことだ。
百合神は二人のステータス値を1以下にならないように設定。大雑把だがとりあえず死なない。全30階でまだ半分にも届かないが、ここから階数減らしたりとかは設定がめんどいのでこのままクリアまで頑張ってもらう。時間はたいした問題ではないので。
「んー、時間効率はいまいちかなー。記憶リセットがまずいのかな? でも死ぬ記憶があると壊れる確率あがるしなー」
より効率的にするにはどうするか、と考えつつも目は映像から離さない。奏が相子にキスをして、調子にのって舌もいれだしたところでひゅーと口笛をふく。
「ぐへへへ、いいなぁ。やっぱ野外もいいわ。ダンジョン百合、もう二組くらいセットしよっかなぁ」
ダンジョン設定は同じでいいやー、と至極あっさり新たなダンジョン世界がつくられて誘拐被害者の増員が決定される。
とは言えそれにも理由がある。百合神は現在双子の薔薇神と喧嘩をしており、決着をつけるため世界を一つ作り、その世界の中で百合と薔薇のどちらが人口数が増えるか争っているのだ。
その為だけに作られた世界と人々なので、百合実験に巻き込まれるのは神からすれば当然なのだ。もちろん、人類側からすればたまったものではないが。
そんな訳でさらに別にダンジョンをつくった簡易世界でカップルにして、元の世界に戻したところでカウントされる。最低限命の保証はされているし、自分達だけで作った唯一の世界なのでそれなりに愛着もある。
人類が神に抗議したならこう返すだろう。愛ゆえによ、と。そして記憶が消されてなかったことにされる。
「にしても、この戦士ちゃん、可愛いなぁ」
百合神は二人の履歴を軽く見ながらにんまり笑って呟く。戦士ちゃんとは奏のことである。
このダンジョン、百合カップルになればこうして横やりが入って死ななくなりクリアできるようになるのだが、カップルにならないまま普通にクリアしても帰してあげることにはしている。
数ある実験の一つで、カップルには相性もあるので無理に無限地獄にしても意味はない。百合神は悪意を持って人間を苦しめてやろうとしている訳ではない。
そしてこのダンジョン、戦士なら一人でもクリアできなくはない難易度なのだ。魔法使いでもできなくないが、魔法攻撃力がかなり高い代わりに防御も体力も低い為難易度はダンチだ。
戦士ちゃんの脳内では何としてでも生き残ってやると最初にあったので、あ、これは魔法使い犠牲にして出てくるなと思ったのもあり、他の実験よりさらに観察しなかった。
だと言うのに、頭でそれだけ考えているのに、奏は今までの死亡で魔法使いの相子より先に死んだことはない。むしろその逆で、奏の死亡原因は全て相子を庇って死んだものだった。
自分なら大丈夫とか過信が原因ではあるし、死んでもいいと思っていたわけではない。
しかし、見捨てるタイミングのわからないとんちんかんで、思いきりのつかないヘタレなだけでも、事実として体をはって守ってきた。その結果、守られた相子はすぐその場でそのまま奏をやった魔物に殺されている。
逆に本当に盾にして生き残ったなら、普通にクリアしそうなくらい、うまく戦っている。細かい調整は面倒、もとい難しいので百合神は戦士補正とか身体能力がーとかそんなことはなにもしていない。ただ単に回数を重ねて自力で強くなっているのだ。
だと言うのに、一人なら死なない程度の初期でも奏は相子を庇って死ぬ。盾にしてやろうと本気で思ってるのに死ぬ。実に矛盾していて、誰も生き残らない馬鹿な選択だ。
だが百合神からすれば、だからこそ、可愛い。矛盾に溢れた自己犠牲は、愚かだからこそ可愛い。
これは百合神だけではなく、一般的な神全体として見られる傾向だ。意味のわからないような行為をするほど、予想外であるほど、好ましい。
「むふふ。よーし、ご褒美にコスプレ衣装とかプレゼントしてあげよっと」
百合神はよりいちゃつけるようにと、今いる階層に新たに宝箱をつくってあげた。奏がいたなら、それより攻撃力あげるとか、て言うかここから出せよ!と言っただろうが、残念ながら人間である奏が上位空間にいる百合神を感知することはない。
「くくく、もっとラブラブになぁれ」
百合神はにやにや笑って奏の映像部分をつついた。