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いにしえより世界の真実を記録してきた集団、“コロニスト”。
コロニストたちが書き記した書籍群、“コロンシリーズ”。
そして、それらを管理するためにコロニストたちが作り上げた組織、“暦史書管理機構”。
アンは東京の地下での出来事の後、正式に暦史書管理機構アメリカ支部に所属することになった。
一年が経ち、当初は窮屈だった暦史書管理部の制服にもようやく着慣れてきた頃。
「君にはこれから半年間、他国の支部へ研修に行ってもらう」
アンは部長であるルイスに呼び出され、唐突にそう告げられた。
「研修、ですか。場所はどこです?」
「日本だよ」
ルイスはその深い皺が刻まれた顔に笑みを浮かべるが、アンは対照的に口を真一文字にしたままだった。
「君にはゆかりのある土地なんだろう?」
「……良い思い出だけではありません」
「この世に良いだけのものなどありはしないよ。それが存在していることに意義がある」
アンはルイスの言いたいことがよくわからず、ただ黙っているだけだった。その仏頂面を見て、ルイスはさらに顔をほころばせる。
「君にもいずれわかる。これが正式な書類だ。目を通しておくように」
ルイスの差し出した封筒を受け取って、アンは中の書類を取り出して確認する。
「日本は私だけなんですか?」
「ああ」
「なぜです? 同期に日本が好きな子がいます」
「君は日本語が下手だからだよ」
・・
「ムカつくわ」
「アン、その短気な性格直したらどうなの?」
暦史書管理機構の食堂で、アンは同期のケイトに愚痴を漏らす。そしてその怒りで消費したエネルギーを取り戻すかのように、ハンバーガーにかじりついた。
「ケイトだって日本に行きたかったでしょう? アニメとかマンガとか好きじゃない」
「まあね。でもこれは仕事なわけだし、割り切って考えないと。あ、でもお土産はよろしくね。これリスト」
ケイトがテーブルの上で差し出した分厚い紙の束を、アンは片手で押し返した。
「あなたドイツだったわよね。明らかに采配ミスよ。私ドイツ語は得意だし」
「アン、部長の言っていたことを聞いていなかったの? 私たちが行くのは研修よ。異動じゃない。必要なのは研修先で成果を出すことじゃなくて、私たち自身の能力を高めること。特に暦史書管理の仕事において、言語能力は必要不可欠だしね」
そう諭されても、アンは納得いかない様子だった。
「日本語の勉強くらい日本に行かなくたってできるのに……」
「日本語だけじゃないのよ。それぞれの地域の文化を知ることも大事」
「はあ……わかりましたよ。行けばいいんでしょ」
ようやく折れたアンを見て、ケイトは満面の笑みを浮かべ、お土産リストを再度差し出した。
アンはそれを片手で押し返した。