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COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2020 - アンネ・ラインハルトの黙示録
52/53

[5-15]

 “暦史書管理機構は戦争を計画している”


 “その戦争をシナリオ通りに進めるために、私の能力が必要らしい”


 “オペレーションの内容を記すことはできないが、犠牲も多く出る”


 “私はその戦争を止めるために動く”


 “もしもここまでたどり着いたら”


 “シノユキ、あなたも動いてほしい”


 そこまで読んで、自分の口角がわずかに上がっていることにシノユキは気づいた。その一行は、シノユキに対する信頼の表れだった。軽く頷いてからページをめくる。


 “私はここで、一つの可能性を見つけた”


 “でもそれが暦史書管理機構に伝わることを防ぐために、詳しくは書き残さない”


 “あなたはあなたで、別の可能性を見つけて”


 “どちらかが上手くいくことを祈るわ”


 時刻はすでに午後十時を回っていたが、シノユキはすぐに立ち上がった。


・・


 扉を軽くノックすると、中からドスの効いた声で「あいよっ」と声がする。ラーメン屋が注文を受けた時のそれだった。そしてすぐに扉が開く。


「あれ、ユッキーナじゃん。夜這い?」

「今は冗談に付き合っている暇はない。入るぞ」

「いやーん!」


 シノユキに押し込まれて、セーラはくるくると回りながらベッドに倒れ込み、組んだ足を壁に振り上げた。まるで壁に座っているような姿勢だった。


「ヨミヒトとリリィの容態は?」

「精密な検査をしたわけじゃないからはっきりとしたことは言えないけど、まぁ大丈夫だとは思うよ。リリィは意識を取り戻したし、ヨミヨミもそのうち夢から覚めるでしょ」

「……そうか。急だが、明日には帰国したい」

「おや、なんかトラブル?」


 シノユキは持ってきた日誌をベッドに放り投げる。


「アンの書置きがあった。暦史書管理機構が戦争を計画しているそうだ」


 リラックスしていた猫が不意に獲物を見つけた時のように、セーラは一瞬にして四つん這いの姿勢になる。


「なるほど、それは遊んでる場合じゃないね」

「アンが妄想にとりつかれて意味不明なことを言っている可能性もある」

「はあ~? アン女史がそんなことするわけないってユッキーが一番わかってるでしょ?」


 少し照れたように、シノユキは笑みを浮かべた。


「えっ、かわいい!」

「うるさい」


 セーラはベッドから滑り下りて、シノユキの前に立ち、白衣の襟を正す。


「で、どうするっすか」

「暦史書管理機構のここ数年の資金の動きを探ってほしい」

「なるほど、戦争には金がかかりますからなぁ。その手の情報収集に関しては適任の人材がいるからね。任せてちょ」

「頼む。俺はレナードという少年について調べてみようと思う」

「レナード?」

「アンが世話をしていたという、長らく昏睡状態だった男の子だ。その子が目を覚ましたあと、アンとともに姿を消したらしい」

「えっ、アン女史ってショタコ――」


 シノユキはかなり控え目なチョップをセーラの頭に見舞わせた。


「アイター!」

「アンはここで“可能性を見つけた”と書き残している。おそらくレナードのことのはずだ」

「ふーん……その子にもなにか“役割”がありそうわね。でも探すのは骨が折れそうだなぁ。アンが生きていて、異端書でも見つけられなかったということは、少なくともアンはアンの遺伝情報を持たない別の誰かになっているってことだから。レナードのことを隠すことくらい造作もないだろうね。アランが言っていたように、別の星にでも行っていない限りはだけど」


 アランから聞いた時は冗談だと思っていたシノユキだったが、異世界やゲートの存在を目の当たりにした今、その可能性もゼロではなくなっていた。


「いきなり本人たちを探そうとするつもりはない。まずは外堀から埋めていく」

「外堀?」

「レナードをここへ預けたという、ラスリウネスク家についての情報を集めるつもりだ」


 ラスリウネスク家。そのワードが出た瞬間、セーラの表情から一切の感情が消えた。


「シノユキさんや。ラスリウネスク家に手を出すおつもりかい」

「ああ。まずいのか?」


 セーラは両手を合わせ、その指先を唇に当てて考え始める。思い詰めている、とも言える様相だった。数秒でそれは終わり、口を開く。


「正直に言うね。“わからない”。ラスリウネスク家は十二使徒の家系の一つとして名前を知ってはいるけれど、この島同様徹底的に情報が隠されててさ。ただ……私はラスリウネスク家に近づこうとした人を見たことがない。意味、わかる?」


 少しの間、シノユキはセーラの黒い瞳を見つめていた。


「なるほど、意味はわかった。だが問題ない」

「へ?」

「同じ十二使徒なら、さすがに会ったことくらいはあるだろう。幸い今回の依頼主はその十二使徒の一人だ」

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