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COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2020 - アンネ・ラインハルトの黙示録
48/53

[5-11]

 偽装船内のスクリーンには、箒に乗って船を先導するレイチェルの後ろ姿が映しだされていた。燃えるような赤毛のツインテールが風に揺れている。なにが入っているのか、肩には大きな革の鞄をかけていた。


「どう思う?」


 シノユキは隣でその様子を見ていたニーナにたずねる。


「かなり奇妙な少女ではありますが、悪意をもって我々に危害を加えようとしているとは思えませんね」

「……そうだな。さっきの龍のようなものも、まったく正体不明だ。今は事情を知っていそうな彼女に従うしかないか」


 その時、レイチェルが振り向いて両手を挙げ、止まるようにと合図を送った。艦長はシノユキに視線を送って確認すると、船員に停止するよう命じる。

 ゆっくりと時間をかけ、船は止まった。

 レイチェルは両腕を使って大きな丸を作ったあと、正面に向き直る。そして、祈りを捧げるように手を組み合わせ、首を垂れた。

 すると、目の前の景色が揺らぎ、一瞬にして“蒸発”した。


「……なんだ、あれ」


 突如目の前に現れたのは、緑豊かな島だった。中央は小高い山のようになっており、森と海岸の際のあたりには集落も見え、人が住んでいるようだった。

 しかしなにより目を引くのは、山の上部にそびえる巨大な建造物。山の端から積み上げられた黒い鉱物は、はるか上空でアーチを描き、反対側の山の端へと繋がっている。


「“門”、でしょうか」


 ニーナの言う通り、空を縦長の長方形に切り取るそれは、確かに門のように見えなくもなかった。

 レイチェルは、島の東側にある港の方へと船を誘導する。


 船は無事に岸壁に横づけされ、シノユキたちは梯子を使って島へと降り立った。

 肉眼で見ると、改めて“門”の巨大さを思い知る。目測でもその高さが五百メートル以上あることは明らかだった。


(こんなものが、有史以来誰にも見つからないまま隠され続けていたのか……?)


 シノユキは疑問に思わずにはいられなかったが、同時にこの海域で起こっていた様々な現象の真相はこれだったのだと、関連付けることも容易だった。


「お疲れ様っす~!」


 頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、レイチェルは当然のように箒にまたがったまま下降し、シノユキとニーナの前へ飛び降りた。その後、落ちてきた箒を見もせずに片手でキャッチする。


「改めまして、レイチェル・ガーネットです。いやあ、災難でしたね~。ちょうどさっき突然“ゲート”が開いて、ドラゴンたちが迷い込んできちゃって。あ、でもあなたたち一般人ではないですよね? うちの子たちのカモフラージュ、内側から破ってましたし。もしかしてですけどコロン――」

「待ってくれ、負傷者がいるんだ。申し訳ないんだが、休める場所があったら提供してほしい」

「あ、おっけーっす! うちの施設まで運んでください!」


 シノユキたちは、レイチェルに連れられて島の北側へと徒歩で移動していた。負傷したリリィとヨミヒトは担架に乗せられ、セーラの指示のもと船員たちによって運ばれている。

 森の中は人が通れるように石畳が敷かれていて、長くこの土地で生活する人々がいることを示していた。鳥や動物の鳴き声も時折聞こえてくることから、食料についてもある程度自給自足が実現しているようだった。


「見えてきました!」


 レイチェルの指さした方を見ると、木々の隙間に木造の建物が見えてきた。それは家屋と言うには大きく、小さなホテルのような長方形の建物だった。


「あれは?」

「ギルドです! 詳しいことはお姉ちゃんが話してくれると思います! 私は話が脱線しまくっちゃって、説明するのが苦手なので!」


 シノユキは納得した。

 さらに五分ほど歩くと、ギルドの正面までたどり着いた。正面側は入江のようになっていて、少し坂を下ると白い砂浜と青い海が広がっている。

 レイチェルは、ドアに取り付けられたベルの紐を引く。


「ただいま戻りましたー!」


 小気味の良い金属音とよく通る声が響いて、中から人の気配が近づいてきた。ドアが開く。中から出てきたのは、豊かな黒髪をもつ妙齢の女性だった。肌は白く、均整の取れたあまり特徴のない顔をしていたが、灰色の光彩をもつ双眸がわずかに輝いているように見えた。


「レイチェル、おかえりなさい。……その方たちは――」

「突然押しかけてすみません。私は長南シノユキ。近くを航行中、龍のようなものに襲われて知人が負傷しました。よろしければ、ベッドを貸していただけませんか?」


 その女性はシノユキの顔をしばらく眺めたあと、ニーナ、セーラへと視線を移して、納得したように微笑んだ。


「ええ、もちろんです。私はイヴ・クレセントハート。ようこそ、“楽園の海”へ」

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