[5-8]
「バミューダトライアングルね」
テーブルに広げられた、本ではない普通の地図。リリィたちが現在いるイギリスの、西の海を指して言う。
「船や飛行機から、乗務員だけが消える事件があったと聞きますね」
「オカルトじゃないのか?」
ニーナの発言に、ヨミヒトが腕組みをしたまま口をはさむ。
「我々も、オカルトみたいな力を持っていますよ」
「……それもそうか」
「とは言ってもね~、アンちゃんが宇宙人に連れ去られたとは思えないし」
大英博物館を出てすっかりいつも通りに戻ったセーラは、ソファに全体重を預けて天を仰いでいる。
「死んだとも思えない。ただでさえしぶとい性格だというのに、あんな能力まで身につけたんだ。なんらかの脅威に襲われても、負けるはずがない」
そう言い切るシノユキを見て、セーラが口角を上げる。
「愛だね~」
「違う。それにしても狭いなここは」
「あっ、話を逸らした! 図星だ!」
「やかましい!」
「あの、申し訳ないんだけど少し静かにしてもらえるかな……集合住宅だから……」
シノユキとセーラに挟まれてソファに座っていたアランが、義手の付け根をさすりながら呟いた。
現在、セーラたちに突然押しかけられ、アランの八畳ほどの部屋に六人が鮨詰めになっていた。
アランの部屋はお世辞にも片付いているとは言えず、ソファに座らなかったヨミヒトたちは床に散らかっていた工具や本を押しのけ、なんとか居場所を作っている。
「悪いな、次にどうするかを決めたらすぐに出ていく」
「できれば夜が更ける前に決めてほしいな……」というアランの呟きを無視して、シノユキは地図を手に取った。しばらくバミューダトライアングル周辺の海域を見つめて、再度口を開く。
「行ってみよう」
「そうだな、自分の目で確かめた方がいい」
ヨミヒトがすぐさま同意して、他の面々もそれぞれうなずいて見せる。
「でもどうやって? 一般人の乗る船じゃ、なにかあった時に巻き込むことに――」
「ああ、それなら僕にツテがあるよ」
リリィが言い終える前に、アランが小さく手を挙げた。
「あの辺の海域では、よく能力を持つ異端書が見つかるんだ。その関係で定期的に貨物船に偽装した船を出して周辺を捜索しているから、それに乗ったらいいと思う」
「異端書がよく見つかる? なぜだ?」
シノユキが当然の疑問を口にする。
「さあね。それは僕も聞きたいところだよ。できたら原因を突き止めて、新しい異端書が見つからないようにしてほしいね。仕事が減って楽ができるから」
「……その異端書が見つかる原因と、アンさんが姿を消してしまったこと。無関係とは思えません」
一人窓辺に立っていたニーナは、独り言のように呟いた。
「そうだな。行き先は決まった」
シノユキは立ち上がり、襟を正す。
「ありがとう、アラン。世話になったな」
手を差し出すと、アランは立ち上がってそれを握り返す。
「本当にね。この件は貸し一として記録しておくよ」