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COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2020 - アンネ・ラインハルトの黙示録
43/53

[5-6]

 セーラを先頭に、一同は図書室のカウンターまでやってきた。


「こんにちは~。特別見学を申し込んでいる日本の大学の者ですが~」


 そう言って、セーラは旗にしていた紙を割り箸から引っぺがし、そのまま提出した。


「おい、それ書類だったのかよ……」


 後ろで眉間に皺を寄せているヨミヒトをよそに、図書館の職員は当然のようにそれを受け取った。


「ようこそ大英博物館へ。こちらへどうぞ」


 そう言って、セーラたちをカウンター横の入口へ招き入れる。カウンターの中には地下へ続く階段があり、職員の先導に従って下っていった。


「こんなに堂々としてていいのか? 一般の観光客にかなり見られていたぞ」

「こういうのは変にこそこそしていない方がいい。“手続きさえ踏めば誰でも立ち入れる領域に入った”と思われるだけだ」


 シノユキに諭されてヨミヒトは納得し、黙った。

 階段は螺旋状になっており、図書室の直下へ一同を導いていく。途中でいくつか日本の地下にあるものと似た施錠機構の扉があったが、職員はそれを無視して下へ下へと進んでいった。

 そして最終的に階段を下りきると、そこにあった扉の前で職員は立ち止まる。


「レベルC以降のエリアは表側の職員の立ち入りが禁止されていますので、私が案内できるのはここまでです。あとはお願いします、セーラ様」

「あいよっ、お仕事中にごめんねごめんね~」

「これも仕事ですから。それでは、私は戻りますので、用件が終わりましたら上がってきてください」


 そう言い残して職員は階段を上っていく。

 それを見送って、シノユキたちは扉の前に立つセーラに向き直った。


「……さて、ここで注意事項です」


 セーラの声色から、いつもの調子の良さが消え去った。弱々しい照明の中、眼鏡の奥の灰色の瞳が輝いて見える。


「一つ。これから会う人物に、絶対に敵意を向けないでください」

「そう言われると身構えちゃうわね」


 リリィの軽口にも、セーラは一瞥をくれるだけだった。


「もう一つ。この先では絶対に、イデアを見ないでください」


 セーラの放つただならない雰囲気に、もう口を開くものはいなかった。


「いいですね。それでは」


 扉の方に振り返り、白衣のポケットからカードキーを取り出すと、脇に備え付けられた端末にそれを通した。短い電子音が数回鳴って、空気の抜けるような音とともに扉がゆっくりと開く。その先には、病院を思わせるリノリウムの床がまっすぐに伸びていた。

 それぞれの靴音を響かせながら廊下を歩き、さらにその先にある扉の方へ進む。


「なに……」


 リリィの足取りが、次第に重くなっていく。最初に気づいたのはリリィだったが、シノユキ、ニーナ、ヨミヒトも正体不明の威圧感に襲われ、ついにその足は途中で止まってしまった。


「……セーラ、この先にはなにがいるんだ……」


 シノユキの頬を冷や汗が伝う。できることならイデアを観測し、その正体を確かめたかったが、先刻セーラに釘を刺されたばかり。


「やはり、イデアを観測できるあなたたちには辛いですよね。待っていても大丈夫ですよ」


 リリィとヨミヒトは顔を見合わせる。


「……悪いけど、私はそうさせてもらうわ。これ以上進めない」

「俺もだ」

「わかりました。シノユキさんとニーナさんはどうしますか?」


 シノユキは顎の方まで流れてきた汗を手の甲で拭い、短く息を吐いた。


「俺は行く」

「私も、行けます」


 セーラは頷くと、一足先に進み、扉をノックする。


「どうぞ」


 中から聞こえてきた声は軽やかなテノールだった。

 それを確認したセーラが、扉の脇にある端末へ、もう一度カードキーを通す。

 愛のない電子音が鳴って、ロックが解除された。

 セーラがドアノブに手をかけて回し、黒檀の扉を開く。

 古書特有の甘い香りが漏れ出てくると同時に、シノユキは全身が粟立つのを感じた。どんな化け物が待っているのかと身構えた。しかしそこにいた人物は、人畜無害そうな顔をした栗毛の青年だった。


「やあ、セーラ。久しぶりだね」

「お久しぶり」


 軽く手を挙げて挨拶すると、セーラはその手を青年の方に向けた。


「紹介します。彼はアラン・ブラッドフォード。能力を持つ異端書の修繕を行う職人です」

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