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COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2020 - アンネ・ラインハルトの黙示録
38/53

[5-1]

――神は永遠に幾何学する。

 天候は快晴。空も海も、青の絵の具を水に溶かしたかのような澄んだ色をしていた。その境界には一筋の白。閉ざされた地が横たわっている。

 一九四一年。南極大陸近海。

 その美しい光景に、無機質なグレーが混じる。鋼鉄の船団は流氷をかき分けながら、まっすぐに南極大陸へと向かっていた。

 先頭の船の艦橋。望遠鏡で熱心に大陸の様子をうかがう青年がいた。


「目的のものは見えますか?」


 脇に立つ女性に尋ねられて、青年は気恥ずかしそうに望遠鏡をおろした。


「いや、見えないよ。なにせあれは氷床の地下深くにある。だけど、はやる気持ちを抑えられなくてね」

「預言の通りですものね」

「ああ。先人たちに感謝しないと。ニムロデ探査の功績はナイトの勲章なんかじゃ見合わないよ」


 女性は懐中時計を確認する。


「そろそろ上陸の準備を、アダムズ様」

「わかった。行こう、アイリス」


    ・・


 アダムズとその一行は南極大陸に上陸後、まっすぐに雪原の中を進み始める。船内でアダムズと呼ばれた青年は、雪に足を取られて早くも息が上がっていた。


「道を作りましょうか?」

「いや……大丈夫……。君は……このあとの大仕事に……備えて……」


 とても大丈夫なようには見えなかったが、アダムズの足は衝動に突き動かされて止まらなかった。

 やがて一行は、それを目にする。


「あった……」


 白銀世界に突如そびえる巨大な三角形。山であれば別段違和感はなかった。しかしそれは、明らかに自然にできたとは考え難い正四角錐をしていた。エジプトのピラミッドを彷彿とさせる形状だった。

 アダムズは呼吸を整えると、一団を引き連れて歩を進める。

 想像以上の体感時間を経てピラミッドの近くにたどり着く頃には、あれだけ快晴だった空に白い雲が垂れこめていた。風も吹き始め、アダムズたちの到着を拒むかのようでもあった。


「このあたりだ……測定を」


 アダムズの指示を受けて、同行者のひげを蓄えた男が抱えていたケースを開く。そこにはドイツ製のガイガー=ミュラー計数管が収められており、近くの雪を採取して装置にセットする。

 いくつかのスイッチとダイヤルを調整すると、メーターの針が振れ始めた。


「放射線の反応がある」


 報告を受けてアダムズは頷く。そして、アイリスへと視線を送った。


「頼むよ、アイリス」

「わかりました。離れていてください」


 言われて、一行はアイリスを残し数十メートル後退する。

 充分に離れたことを確認すると、アイリスはピラミッドの方へと向き直る。

 そして手袋を外し、しゃがみ込んで雪の上に手を置いた。常人であれば耐えがたい冷たさのはずだったが、そんな一般的な感覚とは正反対の現象が起こる。

 アイリスが触れている雪が溶け始めた。

 それどころか、溶けて水となった雪は沸騰して湯気を立ち上らせる。その範囲はアイリスの前方へと広がっていき、ある地点を中心に渦を巻き始めた。雪原に突然湖ができたかのような光景だった。

 アイリスはさらに集中し、その力を湖の奥深くまで巡らせる。すると、周囲一帯が細かく振動し始めた。


「来る……」


 離れた場所で望遠鏡を覗いていたアダムズは、無意識にそう呟いていた。

 湖の奥底から、巨大な影が浮かび上がってくる。大量の水しぶきが上がるが、水はアイリスを避けるように散った。

 そして轟音とともに、それは姿を現した。


「見つけたぞ……」


 アダムズの声は震えていた。

 一言で言えばそれは“円盤”だった。鈍く光るなんらかの合金で覆われた表面には、意図不明の幾何学模様が刻まれている。

 そしてその巨大な物体が水中から浮上してきたということは、内部に大きな空洞があることを示していた。

 アダムズは目を閉じ、天を仰ぐ。


「――これで、僕たちは先に進める」

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