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COLON:SERIES - アンネ・ラインハルトの記録  作者: 志室幸太郎
ANNE:2018 - アンネ・ラインハルトの福音
33/53

[4-15]

「申し訳ありません……!」


 地下の日本支部に戻ったシノユキは、ユウコに深々と頭を下げた。ユウコの部屋には烏山とチトセ、ヨミヒトとリリィ、そしてセーラの姿もあった。


「顔を上げてくださいシノユキさん。認識が甘かった私たち指揮系統にも責任があります」


 そう言われても、シノユキはこみ上げて来る不甲斐なさゆえにその姿勢を崩すことはできなかった。


「まぁまぁ、反省合戦はそれくらいにしてさ。この状況をなんとかする方法を考えないとですぜ諸君」


 セーラはいつもの調子で場を取り繕うが、その表情はいつになく真剣なものだった。


「正直アンちゃんを救出するだけなら方法はいくらでもあると思うんすよ。問題は暦史書管理機構の情報を開示されてしまう事態ですな」

「今回の作戦で、かなりの情報をエトセトラに与えてしまった。俺たちや作戦に参加した機構職員の顔。所属しているジーニアスの能力。そしておそらく、アンからも情報を引き出そうとしているだろう」

「さすがヨミヨミ、読みが鋭い」


 室内が静寂に包まれ、セーラは首を傾げた。


「しかも相手はヒノテを含むヒリフダ市全体だ。全員の口封じをすることは無理に等しい上に、おそらくヒリフダ市民の大半がなんらかの能力を持つジーニアスのはず。……詰んでいないか?」


 ヨミヒトが出した結論に、一同は異を唱えることができない。

 再び訪れた静寂を破ったのは、ピンポーンという牧歌的なチャイムの音だった。ユウコは部屋の壁に備えつけられたディスプレイを見ると、「少々お待ちください!」と言い残し、慌てて部屋を飛び出した。

 少しすると、金色の髪を持つスーツ姿の男を連れて戻ってくる。


「パパ!」

「パパ……!?」


 驚くリリィとヨミヒトに笑顔を向ける。


「こんにちは。私はマシュー・アダムズ。リリィの父で、暦史書管理機構アメリカ支部の部長をしている。よろしくね」


 暦史書管理機構アメリカ支部部長。それは、暦史書管理機構の実権を握る十二使徒の一人ということだった。室内に緊張が走る。


「ああ、そんなに身構えないでくれ。リラックスしてほしい。いや、そんな状況ではないかもしれないが……座ってもいいかな」


 ユウコは近くにあった木製の椅子を引いてマシューに勧める。


「ありがとう。この歳になると立ち話も辛くてね。……さて、本題に入ろうか」


 マシューはそう前置いて、静かに語り始める。


「今回の件、アメリカのエトセトラの動きを一切掴めていなかったこちらの支部にも責任がある。そして人質に取られたのもアメリカ支部の職員だ。本件の対応は、アメリカ支部主導で行うよ。有栖川家とは話をつけてある」

「だけどパパ、どうするつもりなの? 相手は多勢よ」

「確かに情報開示のリスクは拭いきれないが、人命尊重は人道の基本だ。アンだけでも必ず助け出す」


 マシューはちらりとセーラに視線を送る。セーラはなにかを言いたげに口を開いたが、すぐに結んだ。


「それに例え暦史書管理機構の存在が公表されたとしても、世界中の人々がそれを鵜呑みにするとは思えないしね」

「それは……そうかもしれないけれど……」

「どうやってアンを助け出しますか」


 突然シノユキが話に割り込んできて、マシューは目を丸くする。


「そうか、君がアンとペアだった……」

「長南シノユキです。彼女の救出作戦、自分も参加させてください」

「君になにができる?」


 その質問は単純にシノユキの能力を問うものだったが、シノユキには自身の無力さを指摘されたかのようにも思えた。


「……禁書の使用を、申請します」


 マシューは息を呑んだ。


「シノユキさん……!」


 ユウコが止めようとするが、マシューが手でそれを制す。


「禁書だって?」

「私は密命により、数冊の禁書を完全に記憶しています。そして、それを実体化することもできる」

「いけません、危険すぎます!」

「危険なのはアンも同じだ!」


 シノユキの剣幕に気圧されて、ユウコは押し黙った。


「すみません……。ですが、やらせてほしい。彼女を絶対に助けたい」

「こっちを見てくれ」


 言われて、シノユキはマシューの目を見る。マシューはすぐに小さく笑った。


「わかった。私が責任を取るから、力を貸してくれ」

「ありがとうございます!」


 シノユキは一礼すると、すぐに部屋を出ていった。

 見送ったユウコは心配そうにマシューを見る。


「マシューさん……」

「止めても無駄だよ。彼は暦史書管理機構を敵に回してでも彼女を助けに行くつもりだ」

「そんな……無謀です」

「男っていうのはそれくらい馬鹿な方が魅力的なものだよ。君も婚約を考える時が来たら、ああいう男を選ぶといい。――さあ、準備をしよう」

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